夢
「遥!」
自分の名前を呼ばれた気がする。
いや、私は夏樹で……。
「遥、どうしたの?」
「え、いやなんでもない」
目の前にいるのは、夏樹だ。
まさかの事態に思考が停止する。
「遥、最近疲れ気味?」
「そ、そうかも。最近寝不足で……」
「そーなんだ。早く寝た方が良いよ。寝る子は育つらしいから。」
「そ、そうだね」
事態を飲み込めずにいたその時だった。
「二年の沖島君。至急職員室に来るように」
私の名前が放送で呼ばれる。
職員室に行こうとしたその時のことだった。
「うわっ、呼び出し!?」
目の前の夏樹が顔をしかめた。
何故私の名前が呼ばれたのにも関わらず、彼が反応しているのか。
疑問は直ぐ後の発言でよりハッキリした。
「俺、職員室に呼ばれたから行ってくる」
君は遥でしょ!?
何故、私が呼ばれて君が行くのか。
その行動の真意が読めなかった。
伸ばしかけた手が空を切る。
その手は何も掴むことは無かった。
私は自分の席に戻り、いつものように授業を受けた。
そして、いつも通り美術部の活動を終えた帰宅した、その時だった。
鍵が無いことに気付き慌てて、ポケットに手を入れるがやはり無い。
「あれ?蓮見か?何してるんだ、俺の家の前で」
「えっ!?」
振り向いた先には、遥がいた。
「え、えっと……」
今、俺の家の前でって言った?
確かに、間違ってはいないが……。
それ以前に、彼の家はこちらとは逆方向だ。
何故、この方角へ来たのかさっぱり分からない。
「落とし物してて……」
「あぁ、昨日落とし物届けに来てくれた時にか」
彼は勝手に納得してくれた。
このときばかりは、彼の早とちりに感謝した。
「そうみたい」
「それで、何無くしたんだ?」
「鍵」
「えっ!?結構大事なもの落としてんじゃねーか」
そういうと彼は、慌てて周囲を探し始めた。
優しさを利用して、騙したような気分がして、罪悪感に苛まれた。
だが、鍵がなくてどうやって家に入ったのかと聞かない辺り、彼らしいような気がした。
日が暮れたが、見付からず探すのは諦めることになった。
「こんなに暗いし、俺が送っていくよ」
「えっ!?い、いいよ。家直ぐ近くだし」
というか目の前なのに……。
だが、そう言った途端、彼は首をかしげた。
「何言ってるんだ?遥の家はここから逆方向だぞ。徒歩十分ぐらいあるじゃないか」
徒歩十分……?それは、君の家では……?
しかし、余計なことを言うとボロが出そうなので何も言わなかった。
結局、送ってもらった先は、私が遥だった時代の家だった。
「あ、ありがとう」
多少笑顔が引き攣っていた気がするが、この際気にしない。
彼を見送った後、震える指でインターホンを押した。
すると間髪いれず、
「お帰り!」
妹が出迎えて来てくれた。
「ただいま。お母さんは?」
「もう料理作って待ってるよ」
「そう、ありがとう」
どういうことなのかさっぱり状況が飲み込めないが、昔の記憶を引っ張り出してかつての行動をなぞってみる。
まずは部屋に行ってバックを置いてくることだ。
「……!」
部屋に入って直ぐに、部屋の変化に気づいた。
可愛い熊のぬいぐるみ。
ピンク色のリップクリーム。
ど、どういうことなの?
慌てて、タンスの中を覗く。
そこにあったのは、レディースの服だった。
頭が混乱する。
私は夏樹。
私は遥。
私は……?
誰なんだ?
どうしてこの服装が許されたの?
あれほど頑なに認められなかったことが、どうして急に?
だから夏樹は、『入れ替わり』を止めたの?
「御姉ちゃん、ご飯だよー」
妹の声が聞こえてくる。
御姉ちゃん……?
聞き間違えだろうか?
自分の喉元に手を当ててみる。
最近、気になり始めていた喉仏はない。
……まさか、本当に?
夢じゃないのか……?
もし夢なら醒めないで。




