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彼の彼女はヴァイオリン  作者: 佳景(かけい)
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-2-

『だいちゅう』。

 

 同じクラスの男子だ。

 

 名前は確か『大宙たかひろ』だったと思うけど、名前のインパクトが強いせいで、名字の方はうろ覚えだった。


 何しろ字が凄い。


 多分「スケールの大きい人間になれ」っていう願いが込められてるんだろうけど、『大きい(そら)』ってスケールでか過ぎだろうと思う。

 

 そんな変わった名前だから、なかなか『たかひろ』なんて読める奴はいない。


 誰かがからかい半分に『だいちゅう』って呼び出して、それがこいつの渾名になってしまった。

 

 渾名は可愛いけど、当の『だいちゅう』は少しも可愛くなんかない。

 

 野良猫みたいに荒んだ雰囲気。


 鋭い目付き。


 笑った顔なんて見たことない。


 このクラスになって一月以上経つのに、友達もいないみたいで、一人でいるところをよく見た。


 暗くて地味だけど、よく見れば顔は結構いいかも知れない。


 でも好みどころかちょっと苦手だ。


 こういう何を考えているのかわからない奴はあんまり好きじゃない。

 

 その『だいちゅう』は窓際の机に座って、ヴァイオリンを弾くポーズのまま、ちょっと気まずそうに私を見てた。


 私もじろじろと『だいちゅう』を見返して言う。


「ふーん、『だいちゅう』ってヴァイオリン弾けたんだ」


 『だいちゅう』は黙って目を逸らすと、ヴァイオリンと弓を下ろした。


 気にしないで弾いてくれていいのに、私がいると邪魔みたいだ。


 私は小走りで自分の机に駆け寄ると、机の中を覗き込む。

 

 スマホはやっぱり机の中にあった。

 

 私はスマホをしっかり握り締めると、ドアに駆け寄って『だいちゅう』を振り返る。


「邪魔しちゃってごめんね」

「さっさと行けよ」


 多分これが『だいちゅう』との初めての会話だったけど、思った通り素っ気ない奴だ。


 ちょっとカチンと来る。


 ささやかな腹いせに、私は近くにあった椅子に腰を下ろして言った。


「せっかくだから一曲弾いてよ。聞いたら帰るから」

「やだ。人に聞かせるために練習してるんじゃねえし」


 『だいちゅう』は私と目も合わせずにそう言った。


 てっきり吹奏楽部なのかと思ってたけど、違うみたいだ。


「一曲くらいいいじゃん。どうせ廊下で聞いちゃったんだしさ」

「だったらわざわざ聞かなくてもいいだろ」

「でも、ちょっとだけだもん。『だいちゅう』だって、私が行かないと練習できなくて困るんじゃないの?」

「『だいちゅう』言うな」


 『だいちゅう』はそう言うと、ヴァイオリンをケースにしまい始めた。


 よっぽど私に聞かせたくないんだろう。


 減る訳でもないのに、ケチな奴だ。

 

 私が机に頬杖を付いて睨むみたいに『だいちゅう』を見てると、『だいちゅう』は挨拶もなしに教室を出て行った。


 叩き付けるみたいにドアが閉まって、私のイライラはピークになる。

 

 何だあれ。


 邪魔したのは悪かったと思うけど、ちゃんと謝ったんだし、あんな態度取らなくてもいいのに。

 

 ムカつく。








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