葛藤と行動
聖剣を手にし、しばし聖剣を見つめていたラルト。
しかし一度だけミーラの顔を見て、何も言わず扉を開け走り抜けたラルト。向かうは犯人。
犯人と思わしき影に両手に聖剣を握り締め立ち向かうラルトは、およそ少年とは思えない立ち回りだった。
暗闇の中、犯人の背格好なんて全く分からない。しかし、ラルトは無我夢中で剣を振り回す。
相手に反撃の隙を与えない様、必死に体力の続く限り振り回す。
カンッ キィン…カンッカン
闇の中こだまする剣の重なる音と聖剣の放つ光。
結果ラルトは、逃げる村人達を背に1人で犯人に立ち向かっていった。
しかし、10歳そこそこの子供が勝てる訳も無い。自らを奮い立たせ何度も攻撃を加えようとするが、耐えるのがやっとだ。反撃なんて出来るはずもない。
このままじゃラルトが危ない。…心配だ。
それは確かなのに…しかし、ミーラは動けない。
(恐い…)
魔族のしかも魔王の娘である筈の私が何も出来ずにいるなんて…
このままじゃラルトがと思う反面、自分がこのままここに居るわけにもいけない。ましてラルトを置いて逃げるなんて…そう思う自分。
同時に人間を助ける必要はない…と思う自分。
だが、そんな思いの嵐に思考は混乱し身体は全く揺り動かされなかった。
しかし、急に身体が何も考えずに無意識に揺り動かされた。
思考の境によぎったのはのは、あの時の”ラルトの顔”だった。
無性に何かをしなくてはいけない。そう心が騒ぐ感じがした。そしてなぜ動けないっと、動かない自分をミーラは恥じた。
自分を連れ出してくれた、拾ってくれたラルトを放って置いて良いのか?
そしてラルトのあの時の表情の理由を知らぬままで良いのか?
(すごく、悲しそうな…辛そうな…なんで、あんな顔…ラルト、君は…なんなんだ?)
カンッカンと剣が重なり合う音や叫び声。
その真っ只中に1人…村の人は手も出せずにただ見ているだけ…
その光景を見てミーラは、感じた。
(人間は嫌い。人間を助けるつもりはない…けど…)
「ラルト、君をまだこんな所で失うわけには。だから」
ラルトも人間。
それは確かだ。でも、例えラルトがいつか自分の敵になろうとも…
今、ラルトを見捨てて、自分だけが助かるのは
母様を失った時もただ見ていただけ…
今度も…いや。もう…
「…もう、見てるだけは嫌だ…っ!!」
ミーラは、傍観しているしかない大人達の間をすり抜けラルトのいる場所まで全力で走った。