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ハレーの友人

横文字化

作者: 金城司
掲載日:2019/01/24

 僕は昔から、流行とか今時とかビックウェーブとか、とにかくそういうものに一足乗り遅れる癖があった。


 子供の頃やっと手に入れたゲーム機は、みんなが遊ぶそれとは一世代前のものだったし、みんながキャッキャと話題にする音楽も、テレビ番組も、ファッションも、僕が息を切らして追いつく頃には、遠くに行ってしまう。


 横文字化、これが最近の流行だった。初めは学界の一部で行われていたそれが、ビジネス用語になり、やがては生活に浸透し、道行く中学生の会話にもやれスペックやらジャストアイディアやら挙げ句の果てにはコミットメントなんて耳に障る横文字が聴こえた。


 僕はある商店街に入った。先日割れた急須を、新調する為だ。横文字が飛び交う雑踏に揉まれてなんとか店の入り口にたどり着く。しかし、耳にこそその横文字はすらり入ってくるものの、すぐに片方の耳から通り過ぎて何の印象も残さなかった。


 軽薄な言葉への憤りもすぐに忘れて、薄暗い店内でじっくりと、これだ!といえるような急須を探していると、後ろから声を掛けられた。


「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」


 目をそちらに向けると、可愛らしい女性の店員が立っていた。僕は視線を商品に戻しながら呟くように言った。


「急須を探しているんですが、なかなか見つからなくて。」


「それではこちらはいかかでしょうか、このスタイリッシュなシルエットと黒地にあったマット調、モダンな雰囲気がユーザー様とよくマッチしてますよ!


 僕は驚いた。彼女が話してるのは一体何語なんだ。驚きながら、答えた。


「い いや 僕の部屋には合わないかな。」


「それではこちらはいかかでしょうか、この緩やかなカーブを描いたヘルシーなシルエット、このクリアな陶器のホワイト、ロハスな雰囲気もまた、ユーザー様にすごくマッチしてます!」


 開いた口が塞がらなかった。この人達について行くには並大抵の努力では及ばないだろうな...結局このヘルシーでロハスでホワイトな急須を買った僕はすぐ向かいの本屋さんで、「今からでも間に合う!スタイリッシュな横文字!」なる本を税込480円で購入して、とぼとぼ家に帰っていった。


 二ヶ月後、スタイリッシュな横文字術を会得した僕は颯爽と玄関を出て、商店街に向かった。勉強の成果をあの女店員に披露する為に!つかつかと店に入り、左右を見回す。通路の左奥に女店員の姿を認めた。よし!出会い頭に「ファッショナブルなペアのワイングラスなんてスットクしているかな?」なんて洒落た横文字を披露してやろうじゃないか!女店員もこちらに気がついたと見え、歩みを進めてきた。


 近付いた彼女が、開口一番


「May I help you?」

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