交差点(2)
『交差点』の続きです。よろしくお願いします。
――これで一体何度目になるだろうか?
交差点の真ん中で、私は頭を捻る。
「えっと、確か……十一回目、だったはず……」
流れ込んでくる記憶は、どこか正確さに欠けている面が否めなかった。
この際、それは仕方がない。問題は――
「どこだ、『私』……」
背伸びをしてでも探そうとする自分に、思わず苦笑した。
これが現実だとすれば。向こうも私の存在に気付くはずだ。
そして、信号が赤から青へと変わり、群衆が一斉に動き出した。
(――見つけた)
目が合った、確実に。
だが、相手は私の横を通り過ぎようとした。
「ちょっと待って」
私は慌てて手首を掴み、相手を引き留めた。
「どうして私を素通りするの?」
「……」
「まさか私が見えないなんてこと、ないでしょ?」
「……失礼ですが、どちら様でしょうか」
振り返ったその人は、露骨に顔を顰め、迷惑がっている雰囲気を隠そうともしなかった。
「私、急いでいるんですが」
「……驚いた」
「は?」
「私を見ても何も思わないんだ」
「……ああ」
――『その人』は私と同じ顔をしていた。
顔だけでなく、声もまた同様に。なのに、相手は溜め息を吐きながら、
「世の中、同じ顔をした人間が三人いるって言うし、顔も声も同じ人間がいても不思議じゃないんですか?」
興味がない。だから、どうでもいい。
そんな顔をしていた。
「そこまで同じ人間なんかいないと思うけど」
「もういい? 私、急いでるんだけど」
無理に振り解こうとする手に、苛立ちを募らせた眼差し。
ようやく私は相手の事情を察した。
「ああ、そっか。今日朝会のせいで、小テストの準備する時間があんまりなかったんだっけ」
一瞬、動きが止まった。
「最近赤点だらけで、追試も連続で、地獄を味わってばっかりだったんだよね」
「……ねぇ」
「それで今日こそはって意気込んでいたはず……」
「ねえ」
言葉を遮ったのは、冷え切った声だった。
「なんでそんなこと知ってるの?」
「でも大丈夫」
「人の話を――」
「だって、今日どうせ死ぬし」
「……は?」
怒りも忘れた間抜けな顔に、私は思わず笑ってしまった。
「死ぬ? 誰が?」
「あなたが」
「何の冗談――」
「事実だから」
やっと会話が繋がった。そのことにある種の満足感を得ながら、私は自分を指差した。
「ここにいる私が何よりの証拠」
「何を言って――」
「私の名前は葵栞奈」
直後、相手の動揺が伝わってきた。
「私は葵栞奈の未来。そして、葵栞奈は今日、事故で死ぬ」
手は放したが、彼女はもう逃げなかった。
「よろしくね。数時間前の私?」
私は過去の自分の手をギュッと握り締めた。




