表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交差点  作者: ぺんぎん
2/13

交差点(2)

『交差点』の続きです。よろしくお願いします。

――これで一体何度目になるだろうか?

交差点の真ん中で、私は頭を捻る。

「えっと、確か……十一回目、だったはず……」

流れ込んでくる記憶は、どこか正確さに欠けている面が否めなかった。

この際、それは仕方がない。問題は――

「どこだ、『私』……」

背伸びをしてでも探そうとする自分に、思わず苦笑した。

これが現実だとすれば。向こうも私の存在に気付くはずだ。

そして、信号が赤から青へと変わり、群衆が一斉に動き出した。

(――見つけた)

目が合った、確実に。

だが、相手は私の横を通り過ぎようとした。

「ちょっと待って」

私は慌てて手首を掴み、相手を引き留めた。

「どうして私を素通りするの?」

「……」

「まさか私が見えないなんてこと、ないでしょ?」

「……失礼ですが、どちら様でしょうか」

振り返ったその人は、露骨に顔を顰め、迷惑がっている雰囲気を隠そうともしなかった。

「私、急いでいるんですが」

「……驚いた」

「は?」

「私を見ても何も思わないんだ」

「……ああ」

――『その人』は私と同じ顔をしていた。

顔だけでなく、声もまた同様に。なのに、相手は溜め息を吐きながら、

「世の中、同じ顔をした人間が三人いるって言うし、顔も声も同じ人間がいても不思議じゃないんですか?」

興味がない。だから、どうでもいい。

そんな顔をしていた。

「そこまで同じ人間なんかいないと思うけど」

「もういい? 私、急いでるんだけど」

無理に振り解こうとする手に、苛立ちを募らせた眼差し。

ようやく私は相手の事情を察した。

「ああ、そっか。今日朝会のせいで、小テストの準備する時間があんまりなかったんだっけ」

一瞬、動きが止まった。

「最近赤点だらけで、追試も連続で、地獄を味わってばっかりだったんだよね」

「……ねぇ」

「それで今日こそはって意気込んでいたはず……」

「ねえ」

言葉を遮ったのは、冷え切った声だった。

「なんでそんなこと知ってるの?」

「でも大丈夫」

「人の話を――」

「だって、今日どうせ死ぬし」

「……は?」

怒りも忘れた間抜けな顔に、私は思わず笑ってしまった。

「死ぬ? 誰が?」

「あなたが」

「何の冗談――」

「事実だから」

やっと会話が繋がった。そのことにある種の満足感を得ながら、私は自分を指差した。

「ここにいる私が何よりの証拠」

「何を言って――」

「私の名前は葵栞奈」

直後、相手の動揺が伝わってきた。

「私は葵栞奈(あなた)の未来。そして、葵栞奈(わたし)は今日、事故で死ぬ」

手は放したが、彼女はもう逃げなかった。

「よろしくね。数時間前の私?」

私は過去の自分の手をギュッと握り締めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ