プロローグ
こんにちは
心機一転のつもりで書いたものです。
無血戦線の二の舞にはさせません。絶対に。
宜しく御願い致します。
「───もし、あなたが一番親しくしている友人が人を殺し、貴方しか頼れないと言ってきたら、どうしますか?」
テンポよく行われてきたグループ面接の場で、異質な質問が出るのは別に珍しく無いだろう。
人間の奥深く、本人も認識していないところの心情を見ようとする質問だと勝手に解釈している。
だが、この質問に関してはその真意が読み取れない。
匿うか?それでは社会的な自分の在り方にヒビが入るし、何より共犯という立場になってしまう。
かと言って無下に突き放すのもどうだろう。心からの友人が泣いて助けを乞うている状況を想像しながら、どうしたものかと建山努は少し考えた。
隣の二人────先に答える順が回る二人────は、もう決まっているようだった。
左端の、大柄な男性が先程にも増して声を響かせて答える。
「自分は、たとえ親しくしている友人でも人を殺すなどといった非人道的な行為は───」
同じような単語を幾重にも載せて答える。試験官も表情は崩さず、ただ瞳の中で「こんなものか」というようなものを見せた。
そしてようやく喋り終えた左端の男性を横目で見やり、努の隣、気の強そうな女性が口を開いた。
「私は、まず事情を聞きます。そして何があったかしっかりと───」
男よりは、柔軟な答えだった。まあまあ、『切れる』人間ならさっと出せる答えだろう。そしてこれもまた、試験官の瞳に諦めの意識を持たせた。
建山に番が回ってきた。目に迷いは無い。もう答えは決まっていた。
「───殺します」
場の空気は一層張り詰めた。建山は続ける。
「どんな事情、理由があっても、人を殺めた事に変わりはありません」
それまでずっと押し黙っていた試験官が、突然口を開いた。
「何故かね?」
「人殺しは、自分一人で十分だからです」
即答した。
「なるほど」
試験官長らしき人物が、もう一人の隣の試験官に目配せをする。
「続けましょう」
建山の意味深な発言で幕を閉めたこの質問は、一体何のためなのか。
この場でその真意が分かる事は、無かった。
その後もありきたりな質問で、全てスムーズに進んだ。
ただ、まず無理だろうと努は半分諦めていた。
冷静になってみればあの質問に自分の返答は些か信じられない。
高校から目標にしていた会社は、採用されない。
そう落ち込んでいた一週間後、採用通知と共に黒いノートが同封された書類が家に届いた。
そしてまた一枚、一緒に入っていた紙には────
「ノートは、開いても、人目に付けてもいけません。その時点で貴殿の採用は無効となります」