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第八十六話

 セインが、ゲレルを仲間に迎え入れた、その夜。

 一族の里の外で野営をして、火を囲んでいた。


「それで、明日の朝発つのか?」

「まあ、そのつもり……なんだけど」


 ゲレルが問いかけに、セインはイマイチはっきりしない答え方。

 腕を組んで、何やら頭を悩ませている様子だ。


「なんだよ、もしかして行先決まってないのか?」


 その通り、というように頭を落とすセイン。


「残ってる霊脈は二つでしょ。

 地と、火……どっちなら……」

「邪悪なる者より先に行けるか、ってことか」

「えっ……ああ、うん」


 歯切れの悪い返事をするセイン。

 ゲレルは意味がよくわからず、首を傾げる。


 そんな彼を、横目で眺めていたセナ。

 頬杖をついて、呆れた様子でため息を吐く。


「ゲレル、逆だよ逆」

「逆……?」

「どっちならエデン……アレーナに会えるか。

 だろ?」


 セインは体を大きく震わせた。

 図星、だったらしい。


「えっ、どういうことだよ!

 奴より先に、霊脈を押さえるんじゃないのか?」


 ゲレルは納得がいかず、セインに詰め寄る。


「まあ、勇士としては、そうしなきゃ……なんだろうけど」


 鼻先が触れそうなほどに近づいて睨むゲレル。

 セインは、少し困った顔をしていた。


「だけどさ、今なら助けられるかもしれないって、思うんだ」

「助ける……アレーナって奴のことか」


 セインは頷く。


 まだ納得が行かない様子だったが、ゲレルは何とか飲み込んで、自分を納得させる。

 一歩引いて、腰を下ろす。

 そして、仕方なさそうに、ため息を吐く。


「『勇士じゃなくて、僕に』か。

 そうだった。

 おれは、おまえの仲間になったんだ。

 ……けど、ちゃんとやれるんだろうな?」

「大丈夫……だと、思いたいな」

「たよりねーな。ったく」


 とはいえ、彼は言い出したら曲げないだろうというのも、ゲレルには分かる。


「言ってみろよ、どうするつもりなんだ?

 やり方くらいは、考えてんだろ?」


 ゲレルの言葉に、セインは表情を明るくさせて答える。


「うん! アレーナの中に入って、魂をひっぱり上げる。

 セナやクウザを助けたときと、同じように!」


 自信満々に答えたセイン。

 ……だったが、ゲレルには意味が分からず首を傾げられる。


「え、中に入る?

 切り開くってことか?」

「いや、そうじゃなくて……

 あ、そうか……分かんないよね。

 今、説明するから」


 そうして、セインはこれまでの戦いについてゲレルに伝える。


 クウザ、セナ。

 二人がエデンの力によって、『負の感情』に囚われ、怪物を生み出した。

 それを、セインは自らの魂を送り込んで、魂を引き戻したこと。


 一通り伝えたあと、分かってもらえたか……というと、ゲレルはまだ納得のいかないことがある様子。


「まあ、やりたいことは分かった。

 けどな、一つ気になるんだよ」

「え、どこかおかしかった?」

「今まで助けたのは、竜や空人。人間じゃない。

 同じことを人間相手にやって……大丈夫なのか?」 


 ゲレルの指摘に、セインは言葉を失う。

 そんなところまで、考えが及んでいなかった。


「クロムは、やめた方がいいと思うぞ」


 二人の会話に、クロムが挟まる。


「人間は魂と肉体の繋がりが強い。

 竜や天使、悪魔が『肉体』と『魂』をたやすく切り離せるのは、元々この層の存在じゃないから、肉体と魂が別々だからだぞ。

 クロムはちょっと違うけど、みんな、気を抜くと『魂が地上から離れてく』んだ。

 だから地上に仮初の肉体を作って繋ぎとめてる。

 でも人間は、この地上に肉体と魂、一緒に生まれてくる。

 だから、切り離しちゃいけないんだ」


 セインは、クロムの言葉を受けとめるしかなかった。

 彼女以上に、体と魂のことに詳しい者は居ない。

 そんなクロムの言葉を、無視はできない。


「正直、セインが相手の体に魂を送り込んでいるのだって、危ないことだぞ……

 あんまり、やってほしくはない。

 上手くいってる理由も、よくわからない。

 力の循環の流れに乗っている一瞬だから、なんとかなってるだけ、だと思う」


 身を案じるように、視線を向けてくるクロム。

 セインは少し居心地が悪そうだ。

 ……同時に、セナも罪悪感を感じて隅の方に移動する。


「たしかにクロムの言う通りではある……が」


 そんな中で、ルーアは一人、考えていた。


「やりようはある、かもしれん」



 それから、二週間が経った。


「……セイン、何してるわけ?」


 ここは恐らく夢の中。

 目の前には、エデンが居る。


 眉間にしわを寄せて、仏頂面。

 明らかに機嫌が悪そうだ。


「何って……家畜の世話とか、狩りに行ったりとか、ご飯作ったりとか。

 洗濯は自分の分以外やらせてもらえないから、そのくらいかなあ」


 と、セインは答える。

 だが、当然そんな答えにエデンが納得するはずもない。


「そんな、どうでもいいことじゃなくて!

 もっと、やるべきことがあるだろう?!」


 堪えきれずに、叫ぶエデン。

 セインは思わず耳を塞いだ。

 夢の中なので、鼓膜が破れることはないが、そうなりそうなほどに響いた。


「どうでもいい、なんてことはないでしょ。

 アスカのみんなには、お世話になってるんだから」

「あのさぁ!

 ワタシはそもそも、『なんでキミたちは、ずっとその里に留まってる』のかってことを聞きたいわけ!

 キミ、勇士だろう? ワタシを止めなきゃいけないだろう?」

「ああ、そういうこと?」


 と、とぼけた様子で返事するセイン。


「だって、おまえがどこ居るのか分かんないし。

 霊脈は残り二つ。どっちかは『ハズレ』でしょ。

 だったら、おまえがどっちかを取りに行って、残った方に先回りすればいい……

 って、ルーアが言い出してね」


 エデンは目を丸くした。

 そして、正気か疑うようにセインを見つめる。


 ……どうにも、本気で言っているらしい。

 エデンは呆れた様子でため息を吐き、額に手を当てる。


「ねえ、キミたちに『自覚』ってあるかい?

 世界を救わなきゃいけない側だろう」

「お前を止められれば、同じでしょ?」


 即答のセインに、エデンは暫し言葉を失った。


「はぁ……分かったよ。

 キミがそのつもりなら、教えてあげる。

 次は地の霊脈を狙う。

 場所はルーアが分かるはずだ。彼女のテリトリーだからね」

「分かった。

 じゃあ、そこで会おう」

「……ワタシ、敵だけど。

 少しは疑ったりしないのかな?」


 エデンの問いかけに対して、セインは『どうして?』とでも言いたげに、首を傾げる。


「うーん……

 まあ、もし僕を騙したとしても、結局はこっちに来るんだろうし……

 それに、張り合いがないのも、嫌なんでしょ?」


 と、セインは余裕ぶった笑みで答えてくる。


「今のキミ、話してると調子狂うよ。

 もう少しうろたえてくれても、いいだろうに」

「おかげさまで、色んな経験させてもらったからね」


 嫌味なく答えるセイン。

 そんな彼から、エデンは顔を背けて暗闇の中へと消えていった。


 彼女の姿が見えなくなると、セインの表情は真剣なものへと変わる。

 そしてエデンの消えていった暗闇を見つめ、呟く。


「次で必ず、決着をつける」

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