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第八十四話

 それは二日前のこと……


 レミューリア地下での戦いの後。

 急激に消耗したセインの回復のため、レミューリアで過ごして、三日ほどが経っていた。


 セインはその一週間、一日に一時間ずつ、聖域の泉に浸かっていた。


 この泉には、強力な癒しの力が流れており、傷とともに体力も戻すことが出来る。

 だが、それは人間には強すぎて、加減を間違えれば毒となる。


 そのため、日を分けて回復を行うことになっていた。


 この日も、一時間の入浴を終えたときのこと。


「だいぶお元気になったようですねぇ。

 もう明日には全快じゃないでしょうかぁ」


 と、シエラが声をかけてきた。


 そんな彼女を、訝しむように見つめるセイン。

 

「あのぅ……いえ、言いたいことはなんとなく分かりますぅ」


 シエラは困った様子ではあったが、なんとなく諦めたようにため息をつく。


「うん……どうしても気になっちゃって。

 『どっち』が本当なの?」


 セインは尋ねる。


 『どっち』とは、シエラがセナを助けるための戦いで見せた『激情』の姿。

 そして、今の物腰が柔らかい彼女。


 まるで別人のごとき豹変を見せたシエラ。

 どちらが本来の彼女なのか、どうしても気になってしょうがない。


「素はどちらか……という話であればぁ……

 それは、戦っているときのほう……ですねぇ」

「やっぱり、そうなんだ」

「やっぱり、分かっちゃいますぅ?」


 苦笑いするシエラ。


「まあ、ね……

 話し方もわざとらしいし、その大きめの服とかもさ……

 なんていうか、自分を隠すためなのかなって」

「ええ、お察しの通りですぅ。

 ご覧になったように、わたしぃ……少しけんかっ早くて、短絡的になりがちでしてぇ」


 少し……?

 セインは首を傾げそうになった。

 が、触れないほうがいいこともある……と堪える。


「すぐに頭に血が上らないようにぃ、普段はこうしてぇ、ゆぅっくり、過ごしているんですぅ」

「なるほどね。

 でもどうして、わざわざそんなことを? 大変じゃない?」

「まあ、大変といえばぁ……大変ですねぇ。

 でもぉ……」

「でも?」

「人間の皆さんと、共に過ごしたいじゃないですかぁ」


 シエラは、僅かに顔を俯かせて続ける。


「本当のわたしは……感情のままに動いて、思うままに壊します。

 そうして、かつては人間の皆さんに怖れられていました。

 ですが、それは人間を嫌っていたから、そんなことをしていたのではありません。

 我々天使は、人間を脅威から守ろうとしてあげていたのです……

 まあ、上から目線で、ですけど。

 多少の犠牲があろうと、それは必要な対価、そんな風に考えていたんです。

 ありがた迷惑、ですよね」


 シエラは自虐気味に笑う。


「先代勇士にコテンパンにされて、ようやく気が付きました。

 皆さんにとっては、我々さえも脅威となっていたのだと。

 ……とくに、わたしが」


 『どうか笑ってください』そんな雰囲気で話す彼女に、セインは苦笑いするしかなかった。


「戦いのあと、天使はそれぞれの道を歩みます。

 ある者は、天使として『天上』から見守ることを選び。

 ある者は、自らの羽を折り、地上で暮らすことを……

 この者たちが、セナさんの、『空人』の祖先となりました。

 そして、わたしは……霊脈の守護者『精霊』として、自らをこの地に縛りました。

 わたしの持つ『癒し』や、『加護』の力を霊脈を通じて流し、人々を支えられるように。

 わたしなりの、償いとして」

「……そっか。

 ごめんシエラ、勘違いしてたよ」

「勘違い?」


 俯かせていた顔を上げ、首をかしげるシエラ。


「どっちが本当か、なんて関係なかった。

 キミは、心の底から人間と一緒に生きようとして、自分を変えた。

 だったら、今のキミも『本当のシエラ』だよね」


 シエラは驚いて、それから頬を薄く朱に染めて、少し嬉しそうに、はにかんだ。


「いけませんよセインさん。

 そういうの、またセナさんが怒っちゃいます」


 照れ隠しの冗談。

 それに対する彼の反応は、ただ小首をかしげるだけ。


「え、なんで?」

「そういうところだよ」


 思わず声が低くなり、セインを睨みつけたシエラ。

 セインは、その声に背筋がひやりとして、全身が震えた。


「……あ。

 ごめんなさい、今のは気にしないでくださぁい」

「う、うん……」


 そんなことより、とシエラは話題を逸らす。


「お預かりしていた、勇士の剣についてなのですが。

 いくつか、分かったことがありましてぇ」

「分かったこと?」


 先日の戦いのあと。

 シエラは『勇士の剣』について気になることがある、とのことで、セインから剣を預かっていた。


「はぁい。

 一度触れた時から気になっていたのですがぁ……

 今、勇士の剣には、風と水の源素が宿っていたんですぅ」

「えっ、どういうこと?」

「実はセインさんの目的は達成できていた、ということですぅ。

 まあ、少し違うんですけどねぇ」

「ええっ?! でも、霊脈との接続は出来なかったんじゃ?」


 魔力を注ぐことでその力を発揮する『勇士の剣』。

 だが、セインの持つ魔力量では、その真価を発揮するには至れなかった。

 そのため、霊脈と接続することで、その力を代替にしようと考えていた。


「順を追って説明しますねぇ。

 まず、宿った源素。

 これは、おそらくクウザやセナさんを救う際、吸い上げた負の力だと思われます。

 これを、あなたの『光の剣を作る力』によって正の方向へ反転させたことで、二人の持つ強い源素の力が、剣に宿ったのだと思いますぅ。

 エデンが二人にやったことと、ちょうど反対のことですねぇ」

「そっか、気づかなかった」

「無我夢中だったと思いますしぃ、怪我の功名というところですねぇ」

「……でも、源素が宿っていても、結局は僕の魔力じゃ、この剣を使いきれないんじゃない?」


 シエラは意味ありげに笑う。

 その質問を待っていた、とでも言うように。


「それも、もう問題ありませぇん。

 あなたは、勇士の剣から、風の力を引き出したじゃないですかぁ。

 どうやって、だったか覚えていらっしゃいますかぁ?」

「……あっ、クロムから魔力を貰った!」


 竜の渓谷で共に戦ったとき、セインとクロムは互いの力を使うために『契約』を行った。

 クロムは、これによって赤目の魔獣を倒す力を。

 セインは、彼女から魔力を受け取ることが出来る。


「じゃあクロムの魔力で、勇士の剣の力を使えるってこと?」

「正解ではありますがぁ、間違ってもいますぅ」

「え、どういうこと?」

「クロムさんだけの魔力では、『風』の力を操ることしかできませぇん。

 ですから、ここからが大事なところなのですぅ。

 あなた自身にも、少し覚悟の要る話です」


 シエラが薄く閉じていた瞼を開き、真剣な眼差しでセインを見つめる。

 それに応えるように、セインは背筋がピンと張る。


「良いですか? クロムさんは無尽蔵とも言える魔力を持っているでしょう。

 とはいえ、あくまで『風』のものです。

 つまり、必要なのは対応する魔力。

 これから、あなたは『水』『土』『火』の三つの源素に特化した魔力の持ち主と契約をする。

 そうすることで、仮にすべての霊脈を押さえられたとしても、エデンに対抗できるはずです」

「水と土……じゃあ、セナとルーアだね。

 分かった!」


 勇み足で、二人の元へ向かおうとするセイン。

 シエラは、その首根っこを捕まえて止める。

「で・す・が!

 いいですか、大事なのはここからです」

「う、うん……」


 下手に動くと首がへし折れてしまいそう。

 セインは、一気に興奮の熱が冷める。


「契約する、ということはあなたから力を分け与えることであり、あなたが力を受け取るということでもある。

 合計四人、そんな人数と契約をするというのは……

 少しでも誰かが加減を間違えれば、与える以上に、与えられる力があなたの中に流れることになる。

 それは相当な負担になりますよ、あなた自身を傷つけかねない……

 覚悟はできますか?」


 その問いかけに、セインが答えを迷うことはなかった。


「もちろん」

「もうすこし、躊躇ったりしませんか?」

「大丈夫だよ。

 だってみんなのこと、信じてるからね!」


 シエラは驚いた様子で目を見開き、セインを掴んでいた手を放す。

 ……それから、目を細めてほほ笑む。


「聞くまでもないこと、でしたねぇ。

 で、あれば。

 残る問題はただ一つ。

 『火』の源素に特化した者が、あなたの仲間に居ないことですねぇ」

「あっ……そう、だね」


 困った様子で考え始めるセイン。


「そうですねぇ。

 もしかすると……」


 そんな彼の胸を、人差し指を立てて軽く叩くシエラ。


「答えは、ここにあるかもしれませんよ?」

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