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第七話 後編

 セインの持つ剣から尋常じゃない力を感じたレシーラは、一瞬怯んだ。

 その隙にセインはレシーラとの距離を縮め、右手を彼女の腹部に押し当てる。


「お前、いつの間にっ!」


 セインの手が青く光る。その直後、手のひらから勢いよく水流が発生してレシーラは押し飛ばされる。


 追撃をしようとしたセインだったが、持っている勇士の剣から溢れる力を抑えるのに精一杯で、上手く振るうことが出来ないかった。そのため、勇士の剣で戦うのを諦め、その場に突き刺して、先ほど落とした剣を拾う。


「アタシの防御の魔法を解除するなんて……アンタさ、強いのか弱いのかよく分かんないね。……ねえ、アンタの名前教えてくんない?」


「セイン」


 ただ一言、そう答える。


「セイン、ね……覚えておくわ」


 レシーラは右手をまっすぐ伸ばすと、炎が纏わり刃のような形に変化する。


 剣を構えた二人は走り出し、交差した時、互いを斬りつけた。


 レシーラは斬られた脇腹を抑える。

 傷口を見ると、焼けたように黒く焦げている。


「この傷、グレイガと同じ……! まさか、コイツが?」


 レシーラはセインの方を向く。

 彼は膝を地につけ、息を切らしていた。


「これもなんかの運命か……グレイガの分も纏めて仕返ししてやれるってわけだ」

 傷口を抑えながら、レシーラはセインへと迫っていく。



 元々動けなくなっていた体を無理やり使った反動なのか、激しい疲労感が襲う。

 支えにしていた剣の刃が砕け、セインはその場に倒れる。

 先ほどまで憑りついていたセナも、今は離れたところで倒れている。


 薄れていく意識の中、誰かの声が聞こえてくる。


「セイン、お主にはまだやらねばならない事が残っている。こんな所で死なせるわけにはいかん」


 声の主は、セインの手を握る。


「まだ無茶は出来るか?」


 セインは声の主に対して、わずかに頷く。


「まあ、そうでなければ困るがな。ワシの力を使え、そんな体でも少しはマシに戦えるはずじゃ」


 強い輝きが、周囲を照らし出す。

 その光に、レシーラは目が眩むが、直後に強い力の波動を感じて防御の体勢を取る。


「これは、さっきと同じ……? いや少し違う……」


 全身を焼かれるような感覚をレシーラは感じた。炎を操る彼女にとって、無縁だと思っていた感覚。


「へえアンタ、まだ立てるんだ」


 戻った視界で見つめる先……そこには、燃えるような紅へと髪と瞳の色が変化したセインの姿があった。



(まったく、ルーアも面倒な客人を連れてきたものだな)


 次々と放たれる魔力の矢……アレーナは岩陰に身を隠してやりすごす。

 矢の攻撃が止んだ時、少し身を岩陰からだし、敵の様子を確認する。


(ここと奴までの間に身を隠すものはない、か……ならば)


 アレーナは槍をしっかりと握り、岩陰から出て敵へと向かって走り出す。

 相手も再び魔力の矢を絶え間なく放つが、アレーナは鎧が飛び、体中に傷を負っても、それに怯むこともなく走り続ける。

 迫るアレーナに、逆に敵の方が恐れを抱く。


 その勢いのまま、アレーナは魔族へと体当たりを食らわせる。

 肩に激痛が走ったが、彼女はそれを気にせず倒れた相手へと馬乗りになり、振りかざした槍に精一杯力を込めて敵の心臓に向けて振り下ろす。


 敵が動かなくなったのを確認すると、アレーナはそれから離れて先ほど身を隠していた岩のところまで歩いていき、背中を預ける。



 レシーラは、再び炎の刃を作り出し、セインに斬りかかる。

 それを避けるのではなく、セインはレシーラの腕を掴んで止める。


 直後に、体から力が抜ける感覚を感じたレシーラはセインの側から飛び退く。


「お前、アタシから魔力を吸ったのか……次から次へと、とんでもないことしでかすね」


 セインはそれに何も言わず、膝と両手を地に付ける。


「アンタ、今度は何しでかす気?」

「見ての通り、もう何かをする体力もないんだ……」


 ゆっくりと顔を上げ、レシーラに視線を向けるセイン。


「一つだけ聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

「……まあいいよ。答えられることだったらね」


「意外、断られると思ったのに」

「アタシは優しいの。それより気が変わる前に聞いてくれないと、アンタにとどめ刺しちゃうかもよ」

「じゃあ聞くけど、どうしてわざわざこんな所に来たの? 魔王城から遠くて、何もない所だって聞いたんだけど」


 なんだ、そんな事か……とレシーラはつまらなそうな表情で質問に答える。


「ここにはね、魔力の溢れる遺跡があるの。アタシの大事な人が大ケガしちゃってね、療養の為に使わせて貰おうと思ってね。それにここは人も多いから、アイツの食料にも困らない」

「へえ、魔族って人を食べるんだ」


「いいや、普通の魔族は人を食べたりなんかしない。ただ、アイツは特別。多分アンタも知ってるはずだよ……こんな傷がつけられてたからね」


 そう言って、レシーラは先ほどセインの攻撃で出来た脇腹の傷を見せる。

 それを見たセインはなんとなく思い出した、里で戦ったあの獣男を。


「ああ、うん……多分知ってる」

「だろう? だから、仕返し。セイン、アンタを殺してやる」


 セインとの会話の間に稼いだ時間で作り出した火炎の弾。それを彼に向けて放とうとしたその時、背後から何かが噴き出す音がした。


 レシーラは何事かと背後に視線を向けると、そこには先ほどセインが地面に突き刺した剣が、噴き出す炎に押し出され宙を待っているのが見えた。


(アイツ、何かしていたと思ったら狙いはこれか……!)


 気がそがれている内に、セインが走り出す。


「しまった、アイツに近づかれるのは……!」


 距離を取ろうとしたレシーラの腕を、セインは掴み魔力を奪う。

 一瞬力の抜けたレシーラに足をかけ、地に伏せさせると、飛んできた勇士の剣を手に取り彼女に突き刺す。


 そして、剣を握る手を輝かせ、力を流し込む。


 光の力を流し込まれ、全身が黒く焦げたレシーラから剣を引き抜き、鞘に納める。


 セインはおぼつかない足取りで、アレーナの元へ向かおうとするが、途中で力尽きその場に倒れる。



 目が覚めると、後頭部に柔らかい感覚があり、暗くてよくは見えないが、目の前に誰かが居るのが分かった。


「……アレーナ?」

「ああ、気がついたのかセイン。大丈夫か? かなりの大ケガをしていたようだが」

「僕は大丈夫……そうだ僕、レシーラ、倒したよ」

「そのようだな、ありがとう。疲れているだろう、まだ休んでいて大丈夫だ」

「……ごめん、じゃあもう少しだけ」


 セインは静かに目を閉じ、再び眠る。


 その直後、アレーナは何者かが近づくのを感じた。

 膝に乗せていたセインを抱きかかえ、周囲を警戒する。


「おお、おったぞセナちゃん。気がついたら二人ともどこかへ居なくなってしまうから探したのじゃぞ」

「ルーア、今のルーアじゃアレーナには分かんないし、セイン寝てるよ?」

「あ、そうじゃった」


 アレーナは、驚いて目を見開く。

 薄くはなっているが、たしかにセナとルーアの姿が見えていた。それもルーアは、遺跡で見た本来の姿だった。


「おや、アレーナちゃんもしかして見えとらんか?」

「え、ホントに?」


 ルーアはアレーナに顔を近づける。


「なあアレーナちゃん見えとるんじゃろ? なあなあ」


 そう言いながら、ルーアはアレーナの頬を指でつつく。


「見えている! 見えているし声も聞こえているからやめろ!」

「そうかそうか、それはよかった。……あと、あまり大声を出すと敵に見つかるかもしれんし、セインちゃんも起きてしまうぞ?」


 誰のせいだ……と言いたくなるのを抑え、アレーナはルーアを睨む。


「それにしても、なんで見えてんのかな」

「多分じゃが、セインちゃんに触れてるからじゃろう。この子はそう言う力が強いから、触れている間は見えるんじゃろう。ほれ、今なんてギュッと抱きかかえておるし」


 言われて、自分が何をしているかに気付いたアレーナは、顔を赤らめながらセインをそっと膝の上に乗せる。


「膝枕かあ、良かったなセインちゃん」

「いや、その……これはセインが傷だらけで、堅い岩場に寝かせる訳にはいかないと思ってだな」

「アレーナも傷だらけなのに、人のことばっかり」


「それで? どうするんじゃこれから。セインちゃんが起きるのを待つのか?」

「いや、ここで少し休んで、セインが起きなければ私が運んでいこう」


 その答えを聞いて、セナとルーアは少し表情が引き攣る。


「そ、そうか。そう言えば、ここまで誰かが連れてこなければいけない訳じゃから……」

「アレーナ、力持ちだな……」


「……ルーア、一つ聞きたい事がある」

「ん、なんじゃ?」

「何故、悪魔であるお前が私達人間に味方するんだ? どうして、勇士の仲間に?」

「あ、それあたしも聞きたい」


 アレーナとセナの二人に視線を向けられたルーアは、照れた様子で頬をかく。


 しばらくして、ルーアは二人から視線を背ける。 


「それは、その…………秘密じゃ」

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