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第六十九話

 霊脈。

 魔法の源となる《源素》が最も濃く流れる。

 『大地の血管』とも言うべき場所。

 火、水、風、土の四つが存在する。


 そのうち、風の霊脈があるのが、この竜の渓谷だ。


 セインが、クロムの案内でその地に着くと、先に待ち構えている者が二人。


 ルーアと、クウザだ。


 クロムは、クウザの姿を目にして立ち止まる。


「クウザ……クロムは……」

「分かってる。

 彼の隣に居るって事は、そういう事なんだろう?

 君自身が決めた事に、口は出さないさ」


 気まずそうな彼女に、クウザは優しく答えた。

 ……それから、含みを感じる笑顔をセインに向けて、告げる。


「クロムをよろしくね、勇士殿?」

「う、うん……任せて」


 セインは、なんとなく感じる威圧感に、一歩引きそうになるのを堪える。

 初対面の時とは異なる態度で、余計に怖く感じてしまう。


 ルーアは、あきれ顔でクウザを見上げると、脛を蹴りつけて「さっさと行くぞ」と促す。


 重苦しい空気のなか、霊脈へ赴く四人。


 そんな彼らが霊脈に辿り着く。


 ……そこには、意外な先客が、居た。


 茨のような、漆黒の鎧を纏う少女。

 禍々しい出で立ちと相反する、透き通るような白い肌。

 煌めく金糸の髪。


 その姿に見覚えはなくとも、クウザは一目で彼女が何者かを察知した。


「何故、貴様がここに居る!

 『邪悪なる者』!」


 人化を解除するクウザ。


 竜の巨体から見下ろされ、威圧される邪悪なる者。

 そんな状況の中、当の本人は「見つかっちゃった」と舌を出す。

 まるで、いたずらがバレた。程度の反応だ。


《ここで何をしている!

 どうやって結界を抜けた!》

「気にするのは、そんなことでいいのかい?

 それより、私を殺してしまった方が速いとは思わないかな」


 物怖じする事なく、挑発的な態度をとる邪悪なる者。


《ならば、望みどおりに……!》


 あえて挑発に乗り、噛み砕いてやろうとするクウザ。


 ……だったが。


 体が言うことを聞かなかった。

 まるで、全身を縛り付けられたように動かない。


「まあ、出来ないんだけどね?」

《なん……だ……これ、は……?》


 邪悪なる者は、身動きの取れないクウザを見上げ、煽るように笑いかける。


「君の知りたがっている事、『答え』を教えてあげよう。

 まずは、どうやって入ってきたか。

 簡単なことさ、『私が竜だから』」

《馬鹿な……!》

「もちろん、まがい物さ。

 けれど、それで充分だろう?」


 そう、この島に張られた結界。

 それは島全体を覆い、並の力では破れない強固なもの。


 しかしその分、結界を通る『条件』は『竜であること』あるいは、それに近しいもの。

 それを満たせば通れてしまうのだ。


 だがルーアは、それだけで納得する事は出来なかった。


「たしかに、理屈は通るが……

 どうやって『竜になった』?」


 邪悪なる者は、ルーアに顔を向け、ニヤリと口の両端を吊り上げた。


「キミ達のお陰さ。

 いつか倒した赤目のワイバーンを覚えているかい?

 赤目の魔獣は、私の『力』を取り込んでいる。

 そして、倒された赤目の魔獣を取り込み、私は力を取り戻す」

「まさか……奴らを倒すことで、お前の手助けをしていたと……?」


 動揺するルーアに「ご名答」と手を叩く邪悪なる者。


「その説明もかねて、キミたちに教えてあげよう。

 『赤目の魔獣が生まれる方法』を」


 そう言って、彼女は黒い稲妻をクウザに放つ。

 苦しむように唸るクウザ。

 心臓から送り出される、黒い血。

 ……彼の体を蝕むように、全身へと巡っていく。


「大地を流れる『源素』には、私の『力』が溶けだしているんだよ。

 竜を始めとする魔力を糧とする獣は、それを取り込んで生きている。

 源素は魔力として放出するが、取り込んでしまった私の力は残る。

 それが蓄積すれば……」


 邪悪なる者は宙に浮かび、クウザの元へと近づいていく。


「きっかけ一つで、『善意』を『悪意』に……

 正の力は、負の力に『反転』する。

 そして、負の力は魂を支配する」


 クウザの鼻先に手を当てて、唱えるように囁く。


「さあ、『キミの本当の心』を解放しなさい」


 その直後、クウザの体を黒い霧が覆う。

 そして、クウザの体内に入り込み……次の瞬間、彼の全身は黒く染まる。


 金色の瞳は赤く塗りつぶされ、セイン達を睨む。


 繰り出される『息吹ブレス』。


 咄嗟にルーアが岩石の防壁を作り出し、身を護ろうとするが……

 一切容赦のないその息吹は、容易く防壁を削っていく。


 防壁が破壊され、吹き飛ばされるセイン、クロム、ルーア。

 威力が削がれたお陰で助かりはしたが、直撃を食らうと身が持たないだろう。


 邪悪なる者は、そんな彼らを見下ろして、嗤う。


「キミ達がこの場から助かるためには、この竜を倒さないといけないけど……

 そうすると、私はこの竜の力を取り込める。

 さあ、どうする。

 誰も傷つけずに終わらせられるかい?」


 そう言って、試すような視線をセインに向ける。


 セインは、剣の柄を握る手から、力が抜ける。

 咄嗟に手をかけていた。

 敵として、倒そうとしていた。


 振り返ると、不安そうにこちらを見つめるクロムがいた。

 そんな彼女に、セインは笑いかける。


「助けなきゃね、クウザのこと」


 深呼吸。


 セインは改めて『約束の剣(エスプレンダー)』の柄を握り、クウザを見据える。


「でなきゃ、僕が勇士の意味がない」

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