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第六話

 ギルド内にある酒場で、セインたちは次の目的地について話し合っていた。

 ルーアは、広げられた地図を眺めて位置を確かめる。


「次は水の神殿に行くのが良いと思うのじゃ」

「水の神殿と言うと、レミューリアに行くのか。確かにここから近いが……そこには、何のために行んだ?」

「セナに戦力になって貰うためじゃ」


 思わぬ所で自分の名前を出されたセナは、訳が分からず首を傾げる。


「それはどういう事だ?」


 ルーアが言うには、生き物の魂が地上に存在するには、地上に根付くための杭のようなものが必要。……それは本来肉体なのだが、現状肉体のないセナが地上に存在出来ているのは、セインを拠り所にしているからだと言う。

 

「まあ、それでもひっついてるにも魔力がないといかんから、並大抵の奴では消えてしまうがな。それに、人を拠り所にするのは不安定でな……そこで、セインちゃん以外の拠り所として、レミューリアにある神器『精霊の杖』を取りに行こうと思うのじゃ」

「それがあると、あたしも体が手に入るの?」

「杖を手に入れた上で、精霊に認められる力があればな。どうする?」

「やるよ! このまま何もできないよりはずっといい!」


 セナの意思をセインがアレーナに伝えると、彼女も賛同する。

 そして、アレーナとルーアの二人で地図を眺めルートを話し合う。


 暫くすると、話が纏まったのか、ルーアはギルドの酒場で料理を注文する。


「まあ、こんな所じゃろ。順調にいければ、大体丸三日と言ったところか」

「そうだな。出発は明後日の朝だ、今日中にこの街で準備を済ませてしまおう」


 持ってこられた料理をすぐにたいらげたルーアは新たに注文した。


「成長期の体は腹が減ってしまうのう」

「悪魔でもお腹空いたりするんだ」


 セナの質問に、何を当然の事を聞くんだという顔でルーアは答える。


「お主ら空人だって食事をするじゃろう? 悪魔とてそれは変わらんよ。まあ、霊体になれば腹がすくこともないが、また肉体を作るのに魔力が要るし、肉体無しではこの世界に物理的な干渉が出来なくなってしまうからなあ」

「それって、体は魔力で作れるって事? どうやったらできるの?」

「言っておくと、お主は今も体を作ろうとしている状態なんじゃよ。ただ、肉体を作るには魔力が足りてないだけじゃ……まあ、殆ど力を失っている今の空人が、力の供給を受けられない結界の外で、それが出来ているだけでもセナちゃんは結構凄いがな……さて、話は後にして飯にしよう。ワシは腹が減った」


 それから酒場で頼んだものを待っていた時だった。


 ギルドに大怪我をした数人の冒険者が運ばれ、仲間と思われる人物が回復魔法を使える者を探していた。

 セナは彼らの元へ行こうとするが、ルーアがそれを引き留める。


「やめておけセナちゃん。今のお主が魔法を使えばお主自身が消えかねん」

「でも……」

「怪我をしているのは一人二人ではないようじゃぞ。仮にお主が命がけで回復させたとして、せいぜい一人出来るか出来ないか……命がけでそれでは釣り合わんじゃろう? ここはそれなりに大きな街じゃ、回復魔法を使える者はおるじゃろ。今は我慢せい」


 ルーアの言葉に、セナは渋々その場に留まる。


 しばらくして、街の教会からプリ―ストが駆けつけ、傷ついた冒険者たちの手当てを始めた。


「あの人たち強そうなのに、アレだけの傷を負わせるって、いったいどんな魔獣だろう」


 手当てを受けている冒険者の様子を見て、セインは呟く。


「気になるのは、皆火傷を負っているということじゃな。火山で何かあったということじゃろうか」

「冒険者たちからギルドへの報告もあるだろう。何があったかは、直に分かるはずだ」


 数時間後、街の冒険者たちがギルドへ集められ、職員たちからの報告を受けた。


 運び込まれた冒険者たちは皆、洞窟内で魔獣の討伐をしていたところを、魔王軍が現れて襲われたという事らしい。

 このフラマは魔王城からは遠く、今まで魔王軍から目を付けられることもなかった。その為、それを聞いた冒険者たちの間には動揺が見え隠れしていた。

 魔王軍が侵攻してきたというだけでも問題だったが、ギルド職員に指揮をしている者の名を告げられ、冒険者たちの間にどよめきが起こった。


 劫火ごうかのレシーラ……国から高額の賞金がかけられている、魔王軍四天王の一人。そして、その直属の部下らしき魔族が洞窟を封鎖したと言う。



 その後、セイン達は宿に向かい、そこで先ほどギルドで聞いた事について話していた。


「どうやら、思わぬ大物がやってきたようじゃな」

「ねえ、その魔王軍が封鎖した洞窟ってこれから僕らが行こうとしてた所だよね」

「そのようだな」


「まあ、洞窟が封鎖されてしまったのなら仕方がない。遠回りにはなるが、別のルートにするかの」


 そう提案するルーアを、アレーナは止める。


「いずれ騎士団が王都から派遣されるはずだ。それまでの間、私たちもこの街を守ろう」

「気持ちは分かるが、ワシらもあまり悠長にしている暇はないぞ? 奴に……邪悪なる者に太刀打ちが出来るのは悪魔であるワシや空人のセナ、そして勇士のセインぐらいなものじゃろう。魔王軍とやらは他に任せた方がよいじゃろう」

「それは、そうだが……」

「何か訳でもあるの?」


 セインが尋ねると、アレーナは少し困ったような顔をして、暫く考えこむ。

 そして、何かを決意して懐から一枚のカードを取り出す。


「私は、アレーナと言う名とは別にもう一つ名前がある……アルミリア・クライス、この国を治める王家の娘だ」

「え! それって、アレーナが王女様って事?!」


 アレーナの告白に、セナは驚いて声を上げる。

 ルーアも、セナよりは冷静だったが、驚きを隠せないでいた。


 アレーナが取り出したカード、冒険者カードと呼ばれるそれに書かれた名前は、確かに『アルミリア・クライス』となっていた。


「確かに、邪悪なる者を封印する事がこの旅の目的だ。優先しなければいけないと言う事も分かっている。この街の人たちも、気にはしないかもしれない……だが、私はこの国を治める一族の一人として、目の前にある民の危機を放っておく事は出来ない」

「……事情は分かったが、騎士が来るまでここに残ると言う事には、やはり賛成できぬ」

「そうか……」


 俯くアレーナに、ルーアは話を続ける。


「じゃが、もしお主にその気があれば……四天王とやらを相手に戦う覚悟があるのなら、力を貸そう」

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