第五話
ライトの街に魔獣の群れが襲撃してから数日後。
ようやく馬車の運行が通常通りになり、セインたちは次の目的地へ向かう馬車に乗るべく、乗り場へ来ていた。
「旅ってずっと歩きっぱなしだと思ってたから。馬車を使うのってちょっと意外。」
「長い旅になるから、楽をできる所は楽をした方がいい。とは言え、馬車の旅も終始楽という訳ではないがな。」
「ねえ馬車だってよ馬車! あたし初めてだから、楽しみだなあ。」
三人が乗った馬車が出発してから数時間が経つ。
セインとセナは、馬車の窓から見える景色をずっと眺めていた。
「馬車って早いね、景色がすぐに変わってっちゃうよ!」
「セナ、ちょっとはしゃぎすぎじゃない?」
「どうせあたしは誰にも見えてないし、ちょっと騒いだっていいじゃない。それにセインだってずうっと窓の外みてばっかじゃん。」
「あ、そういえば。」
二人は顔を見合わせて笑う。
「楽しそうだな。だが、気を付けておいた方がいいぞ? いつ魔獣が襲ってくるか分からないからな。」
アレーナの言葉にセインは息を呑んだ。
緊張するセインを見て、アレーナはクスリと笑う。
「冗談だ。私抜きで盛り上がっていたので、少し意地の悪い事を言ってみたくなっただけだ」
「えっと、ごめんなさい……」
「これも冗談だ」
と言ったアレーナはとても楽しそうだった。
セナはセイン耳元に顔を寄せ、小さく呟く。
「なんかアレーナ、楽しそうね」
「……そうだね」
アレーナの見せる笑顔に、セインは胸が少しざわついた。
*
当たりが暗くなり、馬車を出している商隊の者たちや、他の乗客たちと共に大きな焚火を幾つか作る。
セインたちもその内の一つで休息をとっていた。
「アレーナ、一つ気になってる事があるんだけど、聞いていいかな」
「答えられることなら答えよう」
「あの魔獣の襲撃があった日なんだけど、ライトのギルドでさ、アレーナが街に居るのか聞いたけど、この街には居ないって言われたんだ。でも、招集の時にはすぐに来てたじゃない? どうしてかなって思ってさ」
「それは……その時は街を出るつもりでいたのだ。ただ、偶然街を出る直前に魔獣の襲撃に出くわしただけだ」
セインはそれに「そっか」と納得し、荷物にもたれかかる。
「もう一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「アレーナは勇士って人を探してるんだよね。どうして、勇士を探そうと思ったの? 本当に居るのかも分からないのに」
アレーナは少しの間黙り、重い表情で答える。
「まだ全ては言えない。ただ、私はある理由でこの国の民を守る義務がある。だが、これは私の力ではどうにもならない事だった。だから、たとえ無謀でも見つけ出さねばならないのだ」
「そっか、アレーナは困ってるこの国の人たちのために頑張ってるんだね。」
「そうだな、そんなところだ。さあ、明日に疲れを残してはいけない。寝るとしよう」
二人が寝たころ、暇を持て余したセナは見張りをしている冒険者や、他の焚火の周りに居る者たちの話をこっそりと聞きまわった。
その後、寝ている二人の元へ戻ると、アレーナの姿がなかった。
「あれ? どこ行ったんだろう」
この暗い中、集そう遠くまで離れていることはないだろうと、アレーナを探す。
そして、少し離れた所に立っているのを見つけ、何をしているのか気になり、彼女の元へ近づく。
「そこに誰かいるのか?」
人の気配を感じ振り向いたが、そこには誰もいない。
だが、確かに誰かが居る感覚はある。
「もしかして、セナなのか?」
返事はない。いや、何かを言っているのだろうが、アレーナにはそれが聞こえない。
「セナ……すまないが、もしそこに居るのだとしたら、今は一人にしておいてもらえないだろうか」
言ったあと、誰かの気配はなくなったと感じた。
そして、アレーナは胸元から一枚のカードを取り出す。
冒険者カード……冒険者の証。倒した魔獣はこれに記録され、このカードをギルドにある機械で読み取ることで討伐魔獣を確認し、報酬が支払われる。
どうやってこのような物が作られたのか、誰にもわからない。異世界から伝えられた技術だとも言われている。
アレーナは、カードに刻まれた自分の名の部分をなぞる。
ここに刻まれる名前は絶対に偽ることはできない。
(私はいつか、本当のことを話すことが出来るのだろうか)
*
翌日、馬車は無事目的の街フラマに到着。
そして、三人はそのまま休む間もなくこの街の近くにある遺跡へと旅立つ。
街から遺跡まで続く道は整備されており、それなりにこの道を進む人も多い。
「遺跡に続く道っていうから、もっと険しい道になるかと思ってたんだけど、意外と整ってるね。人も多いし」
「中に何か宝があるのではないかと、挑戦者が後を絶たないからな。この街の観光資源のようなものでもある。遺跡までの道は比較的安全だ」
「でも、遺跡まで誰でも行けたら、大事な遺跡が荒らされちゃったりしない?」
「誰でも遺跡に入れるならな。まあ行けば分かる」
しばらくして遺跡に近づいていくと、アレーナの言葉の意味をセインは理解した。
「すごく濃い魔力を感じる。ねえアレーナ、これって……」
「気がついたか。そう、私たちの向かう遺跡から溢れているものだ。大抵の者はこれに耐えられずに途中で引き返す。そして中に入れても、入り組んでいて迷宮のようになっているらしい。まっすぐ進んでいるつもりでも、いつの間にか入口まで戻ってきてしまっているそうだ」
そこまで聞いたセナは、セインの服の袖を引っ張り声をかける。
「ねえ、それってまるで里の結界みたいじゃない?」
「ホントだ、そういえばそんな感じ。てことは、遺跡の中に誰かがいるのかな?」
「どうかしたのか?」
何を話しているのか気になったアレーナが尋ねる。
「その遺跡、空人の里みたいな結界が張られてるのかもねって、セナと話してたんだ。だから、結界を維持してる誰かが中に居るんじゃないかなって」
「なるほどな。大事な勇士の剣だ、それを守護するものが居てもおかしくない」
「ところで、その剣ってなんなの?」
「勇士だけが引き抜くことが出来るとされる剣だ。遺跡の奥にあると聞く。さあ、そろそろ着くぞ」
遺跡に到着した三人。
「やっぱり結界が張ってあるね」
「分かるのか?」
「まあね。こっちきて」
と言って遺跡に入るセインをアレーナが追いかける。
遺跡に入る手前で、アレーナは立ち止まる。
「アレーナ、どうかしたの?」
「いや、なんでもない……少し待っていてくれ」
少し時間をおいて、躊躇うそぶりを見せていたアレーナは、意を決して遺跡の中へと入っていく。
*
アレーナの持ってきた松明の明かりを頼りに、三人は遺跡の奥へと進んでいた。
「それにしても不思議だな、遺跡の中に入ったらセナの姿が見えるようになるなんて」
「ここは里の結界によく似てる力が流れてるから、それのお蔭だと思う」
遺跡の中に入って実体を得たセナは、普段アレーナと話すことが出来なかったからか、積極的にアレーナへ話しかけていた。
「それにしても、明かり付けてるのに全然先が見えないね」
「そうだな……気を付けて進もう。何があるか分からないからな」
「あ、二人とももう少し行ったところに段差あるぞ」
セナがそう言うと、二人は立ち止まり、アレーナが奥の方を照らして確認する。
「ホントだ。セナ、よく分かったね」
「凄いだろ」
セナは誇らしげに胸を張る。
「もしかして、セナは見えているのか? この暗い遺跡の中が」
「昼間と変わんないくらいには見えてるよ」
「そうなんだ。初めて聞いた」
「今まで特に使う所もなかったしな」
そんな事を話していた時だった。
奥の方から強い風が吹いてきて、アレーナの持っていた松明の火が消え、明かりの無くなった遺跡の中は真っ暗になる。
「きゃあ!」
誰かの悲鳴が響く。
「どうしたの。ねえ、セナ今どうなってるの?」
「え……ああ、うんっとねえ……アレーナ、大丈夫?」
アレーナから返事はない。
セナの戸惑う様子が気になり、何か照らす方法はないかとセインは考える。
「あ、そうだ」
セインは右手を突き出し、力を籠めると、右手が光だして周囲を照らす。
「えーと……アレーナ、大丈夫?」
そこには、涙を流しながら怯えて縮こまるアレーナの姿があった。
セインもセナも、どうしたらいいか分からず戸惑っていると、明かりがついたことに気付いたアレーナが慌てて立ち上がり涙を拭う。
そして、一度咳払いをして二人に話しかける。
「すまない二人とも、心配をかけた。私は大丈夫だ」
そう言ったアレーナの頬は、少し赤く染まっていた。
「ねえ本当に大丈夫? なんか凄く怯えてたみたいだけど」
心配するセインの服の袖を、セナが引っ張る。そして、セインの耳元に顔を寄せて話しかける。
「なあ、もしかしてアレーナって、暗い所が苦手なんじゃ……」
「私は別に怖いわけではない!」
「あ、聞こえた? ごめん……でもさあ、さっきのはどう見ても怖がってたようにしか見えなかったけど」
セナはセインに同意を求めると、苦笑を浮かべて頷いた。
「それは……! その……」
言い返そうとしたらしいアレーナだったが、自信を失ったのか、その場で膝を抱えてしまう。
「……もう隠すのは無理だな。そうだ、私は子供の頃からずっと暗い所が怖い。冒険者として、情けないのは分かっているのだが、こればっかりはダメなんだ」
気を落としたアレーナに、セインとセナの二人は彼女に寄り添う。
「気にする事、ないんじゃない? 怖いものなんて、誰にでもあるよ」
「そうそう。ってか、アタシは安心したよ。アレーナって怖いものなんてないと思ってたからさ。なんか急に親近感沸いた」
「その、幻滅したりは、しないのか?」
「「全然」」
二人は声を揃えてそう言った。
「結構可愛い所あるって思ったよ、アタシ」
セナの言葉に、アレーナは恥ずかしさで顔を背けた。
その時、どこかからクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「暗いのが苦手とは……そんな冒険者もおるのじゃな。すまんな、今火をつけてやろう」
声がこだました直後、パチンと指を鳴らす音がした。
すると、辺りに火が灯り、暗かった遺跡の中はあっという間に明るくなった。
急に明るくなったことで、セインとアレーナは眩しさに一瞬目をつむる。
ゆっくりと瞼を開け、目を慣らした時、前方に人がいるのが見えた。
そこに居たのは、額から二本の角が生えた、妖艶な体つきをした褐色の美女。
彼女は、その真紅の双眸でジッとセインたちを見つめる。
「ふむ、久しぶりの客人が何者かと思って来てみれば、一人は空人か。結界の外では肉体を維持できぬのに、よく来れたものじゃな」
「アンタ……何なの? 人間じゃないのは分かるけど」
「おっと、名乗るのが遅れたな。我が名はルーア、炎の悪魔じゃ」
悪魔と聞いて身構える三人を、ルーアは制止する。
「待て待て、悪魔と聞いて信用ならんのは理解しておる。じゃがこちらはまだ何もしておらぬ。この場に居る我らは皆、話が出来る種族じゃ。まずは話をしようではないか」
ルーアの言葉に、セインは背負っていたメイスにかけていた手を放す。
「そうだね。僕たちに何かする気なら、わざわざ明かりを点けたりしないよね」
ルーアはそれに深く頷く。
「話の分かる奴ではないか。お主のような奴は好きじゃぞ……おや、よく見たらお主黒い髪に黒い瞳をしておるのか、珍しい。お主、名は何という」
「僕はセインだよ」
「そうか、セインと言うのか。よろしくな」
ルーアはセインに近づき、彼の手を取る。
「で、お主らここに来たからには、目的は勇士の剣なんじゃろう? ついてまいれ」
そして、ルーアは遺跡の奥へと歩き出す。
セインは彼女に着いていくが、セナとアレーナはまだ警戒が解けていないようだった。
「二人とも、どうしたの?」
「セイン、お前は信じるのか? あのルーアという悪魔を」
「そうだよ……何があるか分かんないよ?」
「僕は信じてるよ、きっと大丈夫だって」
二人は、まだ不安が拭えないようで、セインは少し考えて……
「じゃあ、とりあえずルーアを信じる僕を信じてよ。それならいいでしょ?」
*
遺跡の奥にある広間、ここにはルーア以外にも数人の悪魔が居た。
そしてこの広間の奥に、悪魔の住処には不相応な神聖さを感じる祭壇があった。
「あれが我らが千年と少しの間守り続けてきた、勇士の剣じゃ」
ルーアが祭壇に祭られている剣を指さしながら言う。
「何故、悪魔が勇士の剣を守っているのだ?」
アレーナの問いかけに、ルーアは笑みを浮かべて答える。
「まあ悪魔には似つかわしくない代物じゃな。我もそう思う。では、何故そんなものを守っているかと言えば、答えは簡単……頼まれたんじゃよ、かつての勇士にな」
それを聞いて驚くアレーナを見て、楽しそうに笑い声をあげるルーア。
「驚くのも無理はないのう、なにせ勇士が悪魔と共に戦ったとは伝わっておらんだろうからな」
「勇士と一緒に戦ったのは、あたしたちのご先祖様じゃなかったの?」
「勿論、伝承の通りお主ら空人の先祖である天使も共に戦ったさ。それに偽りはない。つまり、邪悪なる者との戦いは、勇士と天使、そして我ら悪魔が揃って戦ったということじゃ。まあ、人間に好かれる天使と違って、我らは忌み嫌われる存在……人に伝えられる伝承の部分ではあまり目立つことはせんかったがな」
ルーアは、セインの肩に手を置く。
「さあセイン、あの剣を取るがよい。お主ならきっと、アレを引き抜くことができるはずじゃ」
「僕が? でも、剣が必要なのはアレーナでしょ?」
と言って、アレーナの方を見る。
「行ってくれセイン。その剣が主と認めるのは、勇士のみ……私も、きっとあなたが勇士だと思ったからこそ、ここに連れてきた」
アレーナに背中を押され、セインは祭壇の方へ押し出される。
「ねえ、本当に僕が勇士だと思うの?」
「思っているだけで、確証はない……ただ、私はそうであってほしい。私に出来ないことを託したい、あなたにはそれが出来るだけの力がある。だから、頼む」
「分かった。じゃあ、行ってくるよ」
剣の前に立ったセインは、両手で剣の持ち手を掴む。
その瞬間、剣は眩い光を放つ。
この場に居た者たちは、眩しさに目を伏せた。そして光が収まり再び目を開いた時、セインの手には、刃が淡く発光する勇士の剣が握られていた。
「これが、勇士の剣……」
剣を見つめるセインの元に、ルーアが近寄る。
「どうじゃセイン、その剣を手に取った感想は」
「凄い力を感じるよ。気を抜いたらこの剣の力に振り回されそうだよ」
「おっと、それで暴れられても困るな。ディア、アレを持ってまいれ」
すると、奥の方に控えていたディアと呼ばれた悪魔がセインとルーアの元に、何かを持ってやってきて、それをセインに差し出した。
「勇士殿、こちらをお受け取りください」
「その剣の鞘じゃ。それに納めれば、剣の力は封じられる」
セインは差し出された鞘を受け取り、剣を収める。
「……まるで力を感じなくなった」
「強い力は時として、より強い者を惹きつける事があるからな。お主がその剣を振るうのに相応しい力を付けるまでは、それに納めて持っておけ」
「うん、そうするよ」
セインが、待っていた二人の元に戻ると、アレーナは気分が悪そうに顔を青ざめさせ、セナに支えられていた。
「アレーナ、大丈夫?」
「急に気分が悪くなったみたいなの。さっきまでは平気そうだったんだけど」
「うーむ、ここの魔力に当てられた……か? それなりに霊力はあるから適応できそうなのじゃが」
ルーアはアレーナの様子を見て首を傾げる。
「軽く立ちくらみがしただけだ……問題ない」
そう言いながら、セナから離れたアレーナだったが、少しふらついていた。
「あまり無理をするでない。お主らの目的は果たしたのじゃ、外に出て休むとよい」
「そうだよ。ほら見て、勇士の剣ちゃんと手に入れたよ」
セインの差し出した剣を見て、アレーナは嬉しそうに微笑んだ。
「やはり、セインが勇士だったんだな」
「そうだったみたい。目的も済んだしここから出よう?」
「そうだな、そうするとしよう」
アレーナはセナに支えられながら来た道を戻っていく。
それに後ろからついていこうとするセインを、ルーアが引き止める。
「少し待っていてくれ。なに、あまり待たせはせん」
*
「お待たせ二人とも。あれ、セナまた薄くなっちゃったんだ」
「そうなんだよ、まあこうなるとは思ってたけど……そんで、そっちはなんで遅くなったのさ」
「ああ、それはね……」
「いやすまんな、ワシの事を待って貰っておったんじゃ」
「……誰?」
セインの後ろから、褐色の肌をした幼い少女が現れる。
「おや、ついさっきまで会っておったというのに、もう忘れてしまったか」
そうセナに言った少女は、イタズラな笑みを浮かべている。
「え? あ、もしかしてルーアなの?」
少女は満足そうに頷く。
「その通り、ワシはルーアじゃ」
「どうしてそんな姿になったの? ていうか、なんでここに?」
「なぜこの姿か、というのはこの姿が一番維持が楽だから。で、なんでここにいるのかについては、お主らの旅について行くからじゃ」
「ええ?! ついてくるの? どうして?」
セナの疑問にセインが答える。
「剣を守る役目が終わったから、外の世界を見て回りたいんだって」
「そういう事じゃ。それに、かつて邪悪なる者と戦った訳じゃから、ワシの知識は役に立つはずじゃ」
セナはセインの元に近寄り、耳元に顔を寄せ小さく呟く。
「セインはいいの? ルーアがついてきても」
「僕は別にいいよ。セナは嫌?」
「うーん、嫌じゃ……ないけど」
「ならいいじゃない。で、アレーナにも言わなきゃだけど、アレーナはどこ?」
「アレーナならそこの木陰で休んでるよ」
セナの指さした方に、セインは向かう。
セインがアレーナの元へ向かった後、セナは小さくため息を吐いた。
「大丈夫かなあ……」
「まあそう警戒するでない。どうせこの姿では大したことは出来んよ」
「そうなの?」
ルーアは首肯して答える。
「まあ、腕力だけならそこそこ強い。が、まあさっきは維持が楽だからと言ったが、ホントのところは、この肉体を作るので精一杯なのじゃ」
「どうして?」
「かつての戦いで、ほとんどの力を失ってしまったからな。結界の中で供給される魔力無しでは本来の姿にはなれんのじゃ。それはお主も同じであろう?」
ルーアはセナの様子を見ながら続ける。
「今のお主は魔力でギリギリ存在を保てている状態じゃから、結構危ういのう」
「あ、やっぱりそうなんだ……」
「うむ、まあそれでも結界の外で存在を維持できている辺り、見所はあるな……」
ルーアがぶつぶつと何かを呟いていると、セインがアレーナを連れて二人の元へやってくる。
「おお、戻ってきたか二人とも。で、えーとアレーナちゃん、じゃったか。どうかの、お主らの旅にワシがついて行くというのは」
難しい顔をしていたアレーナだったが、しばらくして観念したようにため息を吐く。
「正直、私の知る勇士の知識は限られたもので、あなたの知識は欲しい。だから、一緒に来てもらえるのならありがたいと思っている」
「ふむ……それで?」
「だが、悪魔であるあなたを、まだ信用しきれない。何か怪しい動きがあれば、すぐに退治するぞ? それでもいいか?」
アレーナの問いに、ルーアは不敵な笑みを浮かべて返す。
「それで構わんよ。ま、この体でもお主のような小娘にやられる事はないがな」