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第二話

 かつて、世界を闇に包もうとする者がいた。

 人々はそれを『邪悪なる者』と呼び恐れた。


 それは、決して傷つかない凶暴な魔獣を従え、長きにわたって人々を苦しめ続けた。


 人々の心から、希望が消えけた……その時、彼は現れた。


 彼は自らを勇士と名乗り、それまで誰も傷つけることのできなかった、邪悪なる者配下の魔獣を次々と打ち倒していった。


 そして、勇士は心強い仲間達と共に邪悪なる者との戦いに挑んだ。


 戦いは熾烈を極め、最後は勇士が邪悪なる者を封じ込め勝利したものの、彼らも大きな痛手を負っていた。


 邪悪なる者が居なくなり、人々は歓喜する。


 そんな中、勇士は言った……邪悪なる者はいずれまた現れる。


 そして、こう続けた……その時また新たな勇士も現れる。と……

  


「現在この国は魔王軍の侵攻を受けている状況。加えて封印の解かれかかっている邪悪なる者の影響で、凶暴化した魔獣が各地で暴れまわっています。国の騎士団は、魔王軍への対処で精一杯で、魔獣にまでは手が回りません。ただ、凶暴化さえ抑えられれば、魔獣の対処は冒険者たちでできます。そこで、私は邪悪なる者を再び封じるため、勇士を探す旅をしているのです。」

「ふむ……知らぬ間に外界ではそんなことになっていたとは。」


 アレーナが来て二日目の朝。アレーナは、空人の長の元へ来ていた。


「それで、長殿……あなたはこの里で最も長く生きていると伺いました。勇士について、何か心当たりなどはないでしょうか?」

「うーむ……儂らは長い間、人間との交流を断っていたからのう。人間の寿命は短い。今を生きる人間で知っておるのは、せいぜいお前さんとセインの二人だけじゃ。それに、伝承の時代は儂が生まれるよりも前の話……勇士と言うものがどのような存在かも、儂にはわからん。」

 長は少し間を置いて、口を開く。

「ただ、全く心当たりがないという訳ではない。あくまで可能性の話じゃが……」

「それは、もしかしてセインの事でしょうか?」

 アレーナの言葉に、長は深く頷く。

「左様。弱っていたお前さんの体が、回復の為に聖気を取り込んだお蔭でここに半日居られたのとは違い、あやつは至って健康な体で、この里で八年も過ごしておる。セインには聖気を取り込み巡らせる力があるからじゃ。人間にこのようなことが出来る者など他に聞いたことがない。故に、或いは……」



「あ、アレーナ! おじいの話は終わったの? ていうか、何の話だったの?」

「ああ……私の体が、これ以上聖気に触れるのは毒だから、あまり長居はしない方がいいとの事だった。」

「そっかあ……じゃあ、もうすぐに旅に出なくちゃいけないんだね。あ、アレーナさんの装備は出来る限り直しておいて貰ったよ。」

「そうか、それは助かる。では、受け取りに行くとしよう。」

 歩き出してからすぐに、アレーナは立ち止まる。

「……セイン殿、聞きたいことがある」

「どうしたの?」

「あなたは、結界の外……人間たちの世界に興味はあるか?」

「外の世界かあ。うーん、考えたことなかったなあ」

「……そうか。いや、それならいいんだ」

 セインが首を傾げていると、アレーナは先へと進みだす。

「案内を頼む。私一人では、ここから出られない」



 その後、セインはアレーナを結界の外まで送り届けるために、二人で森の中を歩いていた。

 その途中、アレーナは古びた遺跡を見つけて立ち止まる。

「ここで倒れていたところを、貴方に助けられたのだな」

「うん、そうだよ……アレーナさん、どうかしたの?」

 アレーナは、遺跡の扉らしきものが埋まる山を見上げていた。

 断崖絶壁、近くから見上げると頂上が見えないほどの高さ。


「私は、あんな所から……?」

「何か気になることでもあるの?」

「あ、いやその……この遺跡が何のために作られたのか気になってな。貴方は、ここが何の遺跡か知っているか?」

 セインは首を横に振る。

「分かんない。すごく古い遺跡で、扉もどれだけ頑張って開けようとしても、びくともしないんだ。だから、中に何があるのかも分からないんだ。」


 それからまたしばらく歩いて、ついに結界の目の前まで二人は辿り着く。

「ここから先に行けば、結界の外だよ。」

「そうか……では、ここでお別れ……」

 言いかけて、アレーナの体がふらっと倒れそうになり、セインはそれを抱きとめる。

「大丈夫?」

「……ああ、すまない。聖気に長く触れすぎたようだ。あなたと違って、やはり私はただの人間なのだな。」

 アレーナはふらつきながらも体勢を立て直す。

「本当に、世話になったな。あなたには、感謝してもしきれない。また……いつか会えるといいな。」

「うん、そうだね……」


 別れは、セインにとっては初めての事だった。


「それじゃあ……さようなら。」

「じゃあね、アレーナさん。」


 それでも、セインは笑った。別れの時は、笑顔でいたかった。


                  *


 アレーナと別れ、セインは一人で来た道を歩いていた。


「外の世界、か。今まで考えたことなかったけど、ちょっと興味でたかも」


 すぐには無理でも、戻ったら旅の準備をしてみようかと、考えていた時……


 ふと、アレーナを見つけた遺跡の前で立ち止まる。


(そう言えば、あの時は嫌な感じがしてこっちに来たんだっけ。でも、ここに居たのはアレーナさんだった。アレーナさんが嫌な感じの正体な訳ないし……じゃあ、アレは?)


 胸騒ぎがした……里の方で何かが起きている。そんな気がした。


 セインは里へ向かって走り出す。




 誰かの悲鳴が、森の中にこだまする。

「チッ、コイツ……髪の色は同じだが、あの女じゃない。紛らわしい奴め……」

 人の姿はしているが、頭部には獣の耳が生え、血に濡れた口からは、鋭い牙が生えているのが見えている。

 その男の足元には、彼が襲ったらしい金髪の女性の遺体が倒れている。狩りの最中に襲われたのか、近くには槍も落ちている。

「それに、この血はなんだ。吐き気のする……俺の体が拒絶する血。この場所も何かおかしい。どれだけ進んでも、この森から抜けられねえ。」

 獣男は、体の具合が悪そうにふらふらと歩き出す。


 そんな彼の前に、黒髪の少年……セインが現れる。

 セインは、獣男の足元に倒れる女性の姿を見つけ、驚いたように目を見開く。そして、直後にその目は怒りを灯す。

「お前、ジーナに何をしたんだ!」

「ジーナ? ああ、これのことか」

 獣男は、足元の女性に視線を向ける。

「この女の知り合いか? 悪いがこいつはもう死んでるよ。あ、そーだ……おいボウズ、これみたいな金髪で、碧い目をした……そうだな、てめえと同じくらいの歳の女を知らないか? これ、そいつと間違って殺しちまってよお」

 セインは一気に怒りが引いて、息を呑んだ。


(コイツの狙いは、もしかして……!)


 その様子を見て、獣男は口元を釣り上げる。

「心当たりがありそうだな? 話せ、そしたらお前のことは見逃してやるよ」

「……言わない。お前なんかに言うもんか!」

「あっそ。そういうことなら、無理矢理でも口を割らせてやる」

 と言って、獣男はセインに襲い掛かる。

 セインは獣男の攻撃を、頬に傷を負ったものの、なんとか避け、ジーナと呼んだ女性の遺体の傍へ飛び込む。そして、彼女の傍に落ちていた槍を手に取り、獣男の脇腹に突き刺す。

「いてえじゃねえか……もうちょっと深く刺さってたら、ヤバかったかもな。」

 獣男は、刺さった槍を引き抜こうとする。

 より深く差し込もうにも、獣男の力が強く押し返されてしまう。


(このままじゃ、マズい……どうすれば……)


 その時、セインは内から何かが沸き出すような感覚を感じた。


 槍を握る手に力を籠める。

 

 セインの槍を持つ手が光りだし、その光は槍の先端まで伝わっていく。

「ぐああああああ!」

 槍の刺さった脇腹が煙を出し、獣男は苦悶の声を上げる。

 それでも獣男は槍をへし折り、セインから距離をとる。

 脇腹の部分を確かめると、焼けたように真っ黒に焦げている。

「なんだ今のは……てめえ、何しやがった!」

「さあね……」

 息を上げながら、一言そう答える。


「チッ……だが、この程度の傷、なんてことはねえ! てめえを殺すことぐらいは出来るぞ。無駄なあがきだったなあ!」

「そんなことはない。時間は稼げた。」

 背後から聞こえたその声に、獣男は驚き、振り向く。


 そこには、長を含めた里の大人たちが武器を構えていた。

 獣男がそちらに気をとられている隙に、息を整えたセインは大人たちの方へ回り込む。

「さて、どうする魔族の者よ。この場ではお前さんの力は弱まる。この人数を相手に出来るかな?」

「確かに、ここじゃ力が出し切れねえ……不利なのはこっちだな。」

 迫る里の者たちから距離をとろうと、獣男は後ずさり、少しずつ後退する。

 そして、彼はジーナの遺体を手に取り里の者たちの方へ投げつける。

「それは返してやるぜ! あばよ!」

 里の者たちが遺体を受け止めた隙に、獣男は脱兎のごとく逃げ出した。


「追わなくていいの?」

「既に結界の外まで逃げられた。儂らでは手が出せん。」

 後から駆け付けたセナに、頬の傷を治して貰いながら、セインは長と話していた。

「魔族相手に頑張ったじゃないかセイン。おじいも、魔族が入り込んでたのは分かってたらしいんだけど、あいつ力を弱めてたから、場所まではよく分かんなかったんだってさ。よく耐えたよ。」

「でも、ジーナを助けることは出来なかったよ。」

 セナの言葉に、セインは沈んだ様子でこう返す。

 しまったという表情を浮かべるセナ。そんな二人に里の青年が肩に手を置く。

「それは仕方ないさ……助けられなかったのは、セイン、お前のせいじゃない。あまり気に病むな。さあ、里に戻ってジーナを弔わなきゃいけない。帰ろう。」

 里の者に抱えられたジーナの姿をみて、セインは思い出す。

「そうだ……アレーナさんが危ない!」

 慌てて走り出そうとするセインを、セナが止める。

「待って、どうしてアレーナさんが出てくるの?」

「アイツは、アレーナを殺そうとここまで追いかけてきたんだ! このままじゃ、アレーナさんが……!」

 そう言って今にも飛び出しそうなセインを、セナは必死で抑える。


「待ってよ! さっきは結界の中だから、アイツの力が弱まってて、だからなんとかなったかもしれないけど……結界の外じゃどうなるか分からないんだよ? アイツにやられて、セインが死んじゃうかもしれないじゃんか!」

「だけど……!」


 セナを振りほどこうとするセイン。そんな彼の頭を、長が手に持っていた杖で軽く叩いた。


「落ち着かんか慌て者め。そのまま行ったところで、あの魔族どころか、魔獣にさえ殺されかねんわ。……ちゃんと装備を整えて、準備してから旅をせい。」

「おじい……ありがと。ちょっと焦り過ぎた。分かった、一度里に戻るよ。」

 セインは、一度深呼吸をしてから里に向けて走り出す。


「おじい、いいの? セインの事、旅に出しちゃって……」

「いずれはこの時がくると分かっておった。きっかけはどうあれ、今がその時だっただけの話じゃ。セナ、あやつの事が心配なのは分かる。いつも一緒に居たからの。じゃが、これもセインの為じゃ。あやつは人間の世界を知るべきなんじゃ。」



 メイスを背負い、必要最低限の荷物を詰めた鞄を肩にかける。

「よし、これで大丈夫だな。」

 準備を終えたセインは、家の戸を開けると、その先に広がる光景に驚愕する。


 里の者たちが全員、家の前に集まっていたのだ。


「みんなどうしたの? こんなに集まって……」


「お前が旅に出るって聞いたから、皆で見送りに来たんだよ。」

「まさか、黙って行くつもりじゃなかっただろうな。水くさい奴め。」

「こんな小さな里で、隠し事なんてできるはずないよー。」

「あはは……それもそうだよね。」

 セインは、照れながら里の者たちの元へ向かう。


 一通り里の者たちがセインに声をかけた後、長がセインに何かの詰まった小袋を渡す。

「セイン、これ持ってけ、なんかの役に立つはずじゃ。」

「おじい、これは何?」

「人間の世の中では金と言うやつが必要らしい。今の人間の金は持っとらんが、そいつの中身を売れば幾らか足しになると思う。」

 袋の中身を見ると、いくつかの宝石が入っていた。

「分かった。ありがと、おじい。大切に使うね。」

 セインは宝石の入った小袋を大切そうに懐へしまう。

「あと、ジーナの事……よろしく」

「ああ、分かっておる」

 その後、周囲を見渡してセインはあることに気付く。


「セナは、居ないの? 家にも戻ってこなかったし。」

 里の者たちは目をそらし、長はどこか気まずそうに髭をなでる。

「儂の家におるよ。まああやつは、お前と幼い時から兄妹同然のよう育った間柄じゃったから、別れが辛いんじゃろう。」

「そっか……セナにはちゃんと、お別れ言っておきたかったんだけど……」

「お前に会えば、きっと引き留めてしまうと思っとるんじゃろ。あやつなりの別れ方なんじゃ。」

「……うん、分かった。そういうことなら……じゃあ僕、行くね。」

「うむ、達者でな。」


 セインは見送られながら、里を出て行った。



 里を出てから、森の中を歩くセイン。

「もうすぐ結界を抜ける。アレーナさんが結界を出てから半日も経ってないけど、追いつけるかな。」

「急いで追いかければ間に合うかもよ? まあでも、ここからしばらく行った先に街があるみたいだし、今日はその街の宿に泊まるかもね。あたしたちは野宿になるかもだけど、それでも朝までに着けば大丈夫じゃないかな。」

「そっか、じゃあひとまず街を目指そう……って、あれ?」

 聞き覚えのある声がしたことに驚き、セインは声のした方を向く……


 そこには、腰に剣を携え、鞄を背負ったセナの姿があった。

「セナ?! どうしてここに……」

「どうしてって、そんなの、あたしも一緒に旅をするからに決まってんじゃん。」

「それは見ればなんとなく分かるけど。」

「あたしだって狩りは何度もしてきたし、戦えない訳じゃない。それに、セインが怪我したら誰が治すの? あたししか居ないでしょ。その……だから、ね? あたしも一緒に、旅に連れてって、貰えない……かな。」

 断られることが怖いのか、だんだんと言葉が弱くなっていくセナ。

 そんな彼女を見て、セインは自然と笑みを浮かべていた。


 そして、セナに手を差し伸べて答える……


「ありがとう。一緒に行こう、セナ!」

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