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第二十一話

 山頂を越え下る最中、見晴らしのいい広場に出たセイン達は、見渡す先に広がる街を眺める。


「凄い! あれが海!」


 今にも飛びださんという勢いで、セインは高台の柵から身を乗り出して広がる、一面の蒼を見つめる。

 日に照らされキラキラと光る海。そしてそれに負けないくらい、彼の目も輝いていた。


「まったく、はしゃいじゃってさ。子供じゃないんだから……」

「そんな事言って、セナだって見たくて仕方なかったくせに。ほら、来て! すっごく広いよ!」


 素直でないセナを強引に引っ張ってこの光景を見させると、彼女も、次第に大きく目を見開き、童心に帰ったように高揚した様子で、その果てのない海の姿に釘付けになっていた。

 アレーナはそんな二人をいとおしげに眺めて、セインの隣に立つ。


「そうか、二人とも、海は初めてか。感想は、聞くまでもなかったな」

「とっても綺麗……」


 それしか言葉も出ないほどセナは海に目を奪われていた。

 気持ち良さそうに海から吹く風を身に受けて、全身で感動を受けているらしい。


「二人とも、海が気になるのはよく分かったが、出来ればもう少し下も見て欲しい」


 言われて我に返った二人は、彼女の指差す方を見る……すると、またそこに広がる光景に目を見開く。


「あれがカザミノだ」

「これが、僕達が行く街かあ」

「すっごいなあ、これまでのどの街とも違う……」


 斜面に立ち並ぶ建物の数々は、今まで観てきた街のどれとも違う幻想的な雰囲気を醸し出し、セナはそれに圧倒された様子で唖然としていた。


「夜になるともっと綺麗なんだ。とはいえ、流石にそれまで待つわけにもいかないが」

「へえ、でも今でもなんていうか……オシャレって感じ」

「港は国外との物流の要でもあり、外の国からやってくる旅人も、まずここに立ち寄る。だから、商業の盛んな街なんだ。それだけに、目を引く建物も多いんだ」


 と、街をセナに説明していると、その横からルーアがニヤニヤと笑みを浮かべながら、割って入ってくる。


「そう、ここは商業の盛んな街。なんでも、カジノなんかもあるそうだぞ? 折角だ、社会勉強でもどうだ」

「「カジノ?」」


 イマイチピンときていない二人に対し、さらに続けようとするルーア。

 しかしそうはさせないとアレーナが力ずくで引き離した。


「二人に妙なことを教えるな! 何かあったらどうするつもりだ」

「良いものも悪いものも、実際に見て、人というものを学ぶ。大事な事だと思うのじゃが」


 真剣な表情でそう言ってくるルーアに、ただ呆れるアレーナ。


「だとしても未成年にギャンブルを教えるな……」

「近頃誰も動じなくなり出したのがワシは寂しい」


 二人のやり取りに、顔を見合わせて意味が分からないと首を傾げるセインとセナ。


「何をくだらないことを言っているんだ。さ、二人ともそろそろ行こう。ここを下ればすぐに街だ」


 ルーアを呆れた様子で摘まみながら、アレーナは二人に声を掛け、その地を後にした。



 街に入れば、その活気が彼らを歓迎する。

 坂道の多い地形ながら、人の往来が多く、道端には露店が広げられている。

 ざっと見ただけでも街行く人々の多様が分かる。エルフや獣人といった初めて見る人種や種族に、セインもセナも心が踊る。


「僕、今までで一番冒険してるって気がする」

「確かにな。里の外に出て色々見たけど一気に世界が広がった感じだ」

「まあルーアの提案は飲むわけにはいかないが、そうだな。折角だ、宿を取ったら荷物を置いて少しくらいなら観光も出来るだろう」

「「いいのっ?!」」


 二人は目を輝かせてアレーナに迫る。

 少し驚いてたじろぎはしたが、それでも、優しく笑って頷いた。


「どの道、叔父上の元に出向くのに私も支度が要る。数日はかかるだろうから、その間な」

「じゃあ、まずは宿探さないとな! あーお風呂入りたいなあ。浄化魔法使って体は綺麗にできるけど、やっぱ風呂に浸かりたい」

「ああ、それは分かる……」


 恥ずかしそうに微かな声ながら、アレーナはセナの言葉に深く頷いていた。


「じゃあ行こっか。露天風呂ついてる所探そうよ。なるべく広いの! 海を眺めながら入れるといいな!」

「いや、私は個室がいいな……」


 セナがアレーナの手を引いて街へと歩き出す。

 二人のやりとりに割って入る訳にもいかず、所在なさげに佇んでいたセインは、気が付けば離れていくのを眺めてハッと我に返り、慌てて追いかける。


「ちょっと待って、置いてかないで!」


 と、周りも見ずに走り出した為、早々に人にぶつかってしまうセイン。


「あ、ごめんなさい!」

「いや、大丈夫だ。気を付けて歩きな。ここは人通りが多いからね」


 とても凛とした、それでいて爽やかな印象のある男の声だった。

 何故かその男には、どこか知った雰囲気を感じたのだが、顔を上げれば、その頃には人の波に紛れてしまい誰か分からなくなっていた。


 首を傾げていると、誰かに手を引かれた。


「おいセイン、何してんだよ。置いてく所だったぞ」


 振り返ると、そこには少し怒っている様子のセナと、心配そうにしているアレーナの姿があった。


「あっ、二人とも。ごめん、今行くよ」


 後ろ髪を引かれるように、改めて探そうとするが、やはりもう見つけるのは無理そうだった。


「セイン? どうかしたのか?」

「いや、なんでもない……」


 湧いてくる疑問を振り払い、セインは二人を追って歩き出す。



 その後、無事宿の部屋を二つ取った彼らは、セインとセナ、そしてアレーナがそれぞれの部屋へと入った。


「はぁー体が軽い」


 荷物を置いて、ベッドに飛び込むセナ。


「ふかふかだあ」


 隣のベッドに腰掛けていたセインも、体を伸ばしてベッドに沈む。


「旅の間は硬い地面の上で寝てたしねえ。……ほんとだ。体が楽……」


 今にも寝いってしまいそう。そんな時、部屋の戸がノックされる。

 セインが戸を開くと、そこには鎧を脱いだ、旅装束姿のアレーナが居た。


「どうしたの?」

「ああ、風呂の準備をしていたんだが、まだ沸くまでにかかるから下の食堂で昼にしないかと誘いに来たんだ」

「お、いいね。行こう行こう。あたしらもお風呂の準備するからちょっと待って」

「分かった、部屋の外で待っているよ」


 それから、風呂の準備を終えた二人とアレーナが食堂へ向かい、昼食を食べ始める。


「ああ、ここんところ保存食ばっかりだったから、染みる……血の通った料理を食べてるって感じる」


 出された魚料理を口にして、喜びを噛みしめるように味わうセナ。


「なんというか、セナは見ていて飽きないな」


 そんな彼女の様子を眺めながら、アレーナは楽しそうに笑っている。


 初めて会った頃と随分と、柔らかい表情を見せてくれるようになった。使命やそういうのを抜きに、共に旅をする、命を預けられる仲間として打ち解けられた。

 言い方は悪いが、ダメな所を晒して、開き直れたのかもしれない。なんであれ、今はもう肩の力を抜いて自分達に接してきてくれている。そう感じる。


(今のままなら大丈夫だ。きっと)


 アレーナを見つめ、言い聞かせるように心の中で呟くセイン。


「そういえばさ、ルーアどこ行ったんだ? 街に入るときどっか行ったみたいだけど」

「さあ? 後で合流するから先に行っていろ、としか私も言われなかったからな」


 セナが問いかけるも、ただ首を傾げるアレーナ。

 そう、今はルーアが居ない。街に入る直前で、彼女はどこかへ姿をくらましたのだ。


「まあ、ルーアなら大丈夫じゃない? 子供って訳でもないからさ、小さいけど。それよりアレーナ、これからどうするの? すぐに領主って人の所に行くんじゃないんでしょ?」

「そういえば、支度があるとか言ってたけど。何すんの?」

「ん、いや大したことではないんだ。そもそも何の連絡もなしに領主に会うのは難しいだろう。先に会う段取りをつけたいのがある。それにな……」


 セインとセナの問いかけに、特に何の気なしに返してくるアレーナだったが、何故かその先は言葉を詰まらせる。


「流石に、まあ、私も位は最低とはいえ王女は王女。叔父でもある領主の家に、旅姿のまま訪問……という訳にも 、いかないから」

「なるほど、服を仕立てて貰うんだ」


 セインに小さく頷くアレーナ。


「柄ではないのは分かっているし、生まれも育ちも田舎娘がとも思うが、やはり交渉事ならそれなりの恰好をすべきと思って。……みんなの為にも」


 言っていて恥ずかしくなってきたようで、徐々に言葉尻が小さくなっていく。しかしそれはしっかり二人の耳に届いて、優しい目を向けられ、余計に顔が暑くなってくるのだった。


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