第十七話
「寂しくなるねぇ。もう少しここで暮らしてってくれても、いいんだよ?」
「そう言って貰えるのは嬉しいけど、僕らも旅をしなきゃいけないから。……エリー、元気に育ちなよ?」
ギルの妻、リエナが抱き抱えた赤子に、セインはそっと頭を撫でてそう告げる。
ワイバーンとの戦いから数日。
セインの新たな剣が完成し、ここでの目的を果たした彼らは、次なる目的のため旅立ちの日を迎えた。
別れの挨拶を終えたところに、リエナはよけ、ギルがセインの前に立つ。
「これが、頼まれてた剣だ。ちょっとやそっとじゃ壊れねえ。お前さんの力って奴でも、耐えてみせるだろうさ」
「うん、ありがとう」
受け取った剣を腰に差し、振り返って後ろの仲間たちの元へとセインは歩く。
「じゃあ、元気で」
「またいつでも来なよ! ……ほら、リリーも恥ずかしがってないで前に出な。あるんだろ、渡すもの」
リエナは、自分の足元で後ろに隠れるリリーに前に出るように促す。
それを聞いた仲間たちは、セインをもう一度彼女たちの元へと近づける。
セインは片膝を着いてしゃがみこみ、まだ隠れるリリーを見る。
躊躇っていた様子ではあったが、意を決したのか、リリーはセインの前にたち、手にもっていたものを差し出した。
「これ……持ってて。みんなの、お守り」
それは、いくつもの紐を束ねて編まれた腕輪。
旅の無事を祈り、結束を強めるという意味でパーティーの人数分だけの紐を組み込む、旅のお守り。それが、四つ。
「ありがとう、大切にするよ」
受け取ったお守りを大切に握りしめ、立ち上がるセイン。
「また、来てね」
「うん。きっとこのお守りが僕らを守ってくれる」
「それと……」
「?」
何か照れているのか、もじもじと、顔をほんのり赤く染めながら、はにかんでセインを見上げるリリー。
「ありがとうね……おにいちゃん」
そんな事を言われるとは思ってもみなかったセインは、驚きで一瞬固まるも、すぐに貰った腕輪を腕に巻き、笑みを浮かべて返す。
「どういたしまして」
*
街を出てから半日ほど。セイン達は、森林と山の間に挟まれた道を進んでいた。
「そういやここ最近、リエナさんとなんかやってたみたいだけど何してたんだ?」
「というか、何故そのようなマントで身を隠しておるのだ」
道中、問いかけられたセインは、待ってましたと言わんばかりに口元を吊り上げ、全員の前に飛び出る。
「そう言ってもらえるの、待ってたんだ! これを見てよ!」
セインは、纏っていたマントを脱ぎ去った。
その下には、赤を基調とした真新しい服が着られていた。そして、鞄の中から白いマントを取り出し、身に纏うと、見せびらかすように大きく広げる。
「実は新しい服を作って貰ったんだ! 燃えにくいし、破れにくい特別な布を使ったんだって! どう?」
セナとアレーナは、驚きか、感心か、目を見開いて興味深そうに眺める。
「燃えにくく破れにくい布……というと、魔術を編み込んだ布か。たしか、加工するのにはかなりの技量が要ると聞いたが、すごいなよくできている」
「ああ、話していなかったか。リエナは服職人なのだ。ギルとも、その繋がりで出会ったらしい。職人夫婦なのじゃよ、奴らは」
「えっ? よくわかんないけど、そういうのって高いんじゃないかのか? セイン、それってタダで貰ったのか?」
「うん、まあ元々着てた服がボロボロになってきてたし、街の英雄なんだからもっとちゃんとした服着なさいって貰ったんだけど……ねえ、そんな事より……」
セインの言葉も聞かず、セナは頭を抱えて悶えだす。
「うわあ、そういう事は先に言えよなあ……お礼も何も出来てないじゃないかぁ……」
「いや、お礼なら僕が貰った時に言ったし、ねえ……」
構って貰えず、顔をむくれさせて明らかに不機嫌になるセイン。
そんな彼のとなりにアリーナが立つ。そして、
「その服、様になっていると私は思う。もうすっかり、一人前の冒険者だな君も」
と、微笑んだ。
「あ、ありが……とう」
思いがけない言葉、表情。セインは、初めて感じる胸の高鳴りに、戸惑う。なぜこんなにも、体が熱いのか……と。
そんな光景を傍から眺める二人。
「良いのか?」
「何が?」
「アレ」
「別に」
ルーアの指差す方向に視線を向けることは無く、セナは即答。
あたしのはそういうんじゃない……と心の中では思いつつ。
「いつの間に、そんなに仲良くなったんだよ、お前ら」
ポツリと呟かれたセナの言葉。ルーアは聞き逃さなかった。
「冗談のつもりだったが、本気だったか」
「うるさいよ」
「そう言えば聞くのを逃していたのだが、お主らはどんな関係なのだ?」
「それ、今聞くか?」
呆れた様子で聞き返すセナ。対して、ルーアは至極真面目そうだ。
「どうしたんだよ、急に」
ふざけている様子ではない、と分かったセナは、そんな彼女が気になった。
ルーアは、アレーナ達の方へと、視線を向ける。セナも、それに釣られた。
「まあ、大したことではないのだが。仲間同士、もう少しお互いを知り合ってもいいのか……と思ってな」
「……そう、かもな」