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第九話

こちら、二話連続投稿の二話目です。お気を付けください。


 セインが目覚めて五日程が経ち、ある程度彼の体力も戻ったのでレミューリアへ向かう旅を再開する事になった。

 今彼らは、以前レシーラ達が占拠した洞窟の中を進んでいる。


 どうやら、魔王軍の配下はセイン達が戦った他にも居たようだが、レシーラの死を知ると早急に撤退していった。……と、旅立つ前にギルドに居た冒険者達からセイン達は聞いた。


「アレーナちゃん安心しろ、今回は暗い道は通らんから」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ルーアはからかうように言う。そして、アレーナは恥ずかしそうに頬が赤く染まった顔をそらす。


 それを見て、セナはセインの肩を軽く叩き、彼が自分の方を向くと話しかける。


「なんか見慣れてきたな、こういうの」

「そうだね。……なんだか馴染んできた気がするよ、パーティーってやつ」


 そう言って、二人はお互い笑い合う。


「あたしも、体を手に入れて……あんな風に……」


 セナは、誰にも聞かれぬように小さく呟いた。


「セナ、何か言った?」

「え? ……ううん、別に何も。……そう言えば気になってたんだけど、なんでルーアはこの洞窟にやたら詳しいのさ」


 セナは、誤魔化すように前を歩くルーアに向けて問いかける。

 それにルーアは、振り向かないまま答える。


「ああそれはな、ここワシが作ったんじゃ」

「ええっ! そうなの?!」

「勇士の剣を守っている間、あの遺跡に籠っているのも退屈だったんじゃ。だから、遊び場にする為にな。ただ、苔に関してはいつの間にか生えてた。ワシらは暗い所も関係なく見えるからな……自然に生えたか、どこかの人間が持ち込んだんじゃろう」



 洞窟を抜け、ある程度整えられた道を進んで行くと、先の方に集落のようなものが見えてきていた。

 アレーナはそれを指さし他のみんなに声をかける。


「そろそろ日も落ちてくる、今日はあそこまで行って休むとしよう」

「大体予定通りじゃな。このまま順調に行けば明日中にはレミューリアに着くか」

「そういう事言うと良くない事が起こるって、あたし前に本で読んだことあるよ」


 そんな会話をしながら、セイン達は集落へと到着する。


 たどり着いた集落の住人の間には、何やら重い空気が漂っているようだった。


「なんかさ、くつろげそうな雰囲気じゃないよな」

「何かあったのかな……警戒してる感じにみえるけど」

「気になるな、ギルドに行った時に話を聞いてみよう」

「こういう所にもギルドってあるんだ」


 セインが尋ねると、アレーナは首肯する。


「ギルドは行政も担っているからな。ある程度人の住んでいる地には必ずある」

「へえ、そうなんだ」



 ギルドで聞いた話では、近頃この集落の住人が次々と行方不明になっているとの事だった……それも、レミューリアへ向かう方角に遠出した者達が。

 調査の為に依頼を受けて向かっていった四人組の冒険者も消息が途絶えている。

 何が起きているのかさえ分からず、この集落の住人は不安で怯える日々を送っているという。


 宿で待っていたルーアに、ギルドで話を聞いてきたアレーナ達が事情を説明すると、彼女は頭を抱えた。


「う〜む……なかなか順調に旅が進まんのう」

「まあ計画通りにいくとも限らないのが旅だ。こればかりは仕方がない」

「今度は魔王軍か、それとも新手の魔獣か……次から次へと面倒ごとが起こるのう」

「それよりも、これからどうする。これ以上足踏みもしていられないぞ」


 ルーアは、おもむろに顔を上げ、アレーナに話しかける。


「そんなこと決まっておる。既に魔王軍に喧嘩売ったりもしてるんじゃから、相手がなんであれ関係なかろう」

「それもそうだが、セインは……」


 アレーナはセインに視線を向ける。


「僕の事なら大丈夫だよ。体ももうすっかり元通りだし、ね」

「そう、か……君がそう言うなら」

「決まりじゃな。とは言え、どんな敵が居るか分からん。備えだけはしておこう」



 次の日、集落を出てレミューリアへ向かい始めたセイン達。


「今のところ、特に変わったところはないな」

「むしろ静かすぎる。お主ら、魔獣の足音や鳴き声を聴いたか?」


 セインもセナも首を横に振る。


「魔獣どころか、普通の獣のも聞こえないよ」

「やはりな、獣たちはどこかに身を隠しているのかもしれん。……何故じゃと思う?」

「考えられるのは、何かの脅威に怯えていると言ったところだろうか。奴らは、本能で何かを感じ取っているのだろう」

「それって、もしかして……結構な大物が来てるって事なんじゃないか?」


 全員周囲を警戒しつつ慎重に進んだ。

 途中までは順調に進んでいたが、レミューリアの街の外壁が遠くに見え始めた頃……数人分の人影が見えてきた。


「アレーナ、待って」


 前を歩いているアレーナをセインが呼び止める。


「セイン、どうした?」


 立ち止まって振り返ると、セインは既に臨戦態勢をとっていた。

 ルーアも、険しい表情で正面に見える人影を見つめている。


「よく見ろ、あの人影……人間ではない」


 言われて、アレーナは人影の方をよく見る。

 それは、二本の足で立ち、腕が左右に一つずつと人の形はしており、服も着ている。だが、腕は毛深く、爪は鋭く伸びている。そして、顔は狼というものだった。


「あれは、ワーウルフか」

「ああ、生まれながらのではなく、元は人間だったもののようじゃ」

「そうなの?」


 あまり魔獣に詳しくないセインは、何故ルーアが見分けられたのかがわからない。


「奴ら、所々体が腐敗して崩れている所があるだろう? アレは人の体が急激な変化に耐えきれなかったからだ」

「ついでに言っておくと、アレは人としてはとっくに死んでおるから容赦などせんで良いぞ」

「うん、分かった」


 セイン達はワーウルフの群れに向かって走り出し、攻撃を仕掛ける。


 セインはメイスで足を叩き、倒れたワーウルフの頭部にもう一撃を与え仕留める。

 一体倒すと、すぐさま別の個体に標的を変え、それを倒す。


 二体目を倒した後、近くにある茂みから、何か物音がしたのをセインは聞き取り、その直後に、茂みから別のワーウルフが襲い掛かってくる。

 避けようとしたが、何かに足をとられセインはその場で尻餅をついてしまう。

 噛みつかれそうになった寸前、槍がワーウルフの体を貫く。


 上の方を向くと、そこにはアレーナの姿があった。


「アレーナ、ありがとう」

「セイン……まだ動くなよ」

「え?」


 アレーナは槍を引き抜き、それをセインの足元の方へ向けて何かを突き刺した。


 足元を見ると、頭の無くなったワーウルフが、アレーナの槍に刺されしばらく痙攣した後、動かなくなった。しかもそれは、セインの側まで近寄って彼の足を掴んでいた。


「えっ何これ、頭が無くなったのに動いてたの? 気持ち悪い」

「すまない、言いそびれていたが、コレは既に死んでいるんだ。……死体が動いていると言えばわかるか? だから、普通の攻撃では仕留めることは出来ないのだ」


 アレーナに差し出された手を掴みセインは立ち上がる。


「えっと、じゃあどうすればいいのかな?」

「私はこの槍に特別な魔法がかかっているから、アンデッド系の魔獣も倒せる。セインなら……そうだな、あの光の力で仕留められると思う」

「分かった、やってみるよ」


 セインは光の力を纏わせたメイスで、先ほど頭を砕いたもう一体のワーウルフを叩きつける。

 頭なしでまだ動いていたワーウルフも、今の一撃を受けて完全に動かなくなった。


「よし、これで通じるみたい」


 顔を上げると、茂みから更に二体のワーウルフが現れたのが見えた。


「また出てきた、どれだけ居るんだ……」



「あたしってば、こういう時さっぱり役に立てないんだよなあ。……せめて、あの時みたいにセインに憑りつければ……」


 セナは戦いの邪魔にならぬように、離れたところから戦いを眺めていた。


 レシーラとの戦いで起きたセインの体への憑依は、その後何度か再び使えないかと試したが、もう一度それが起こることはなかった。


「みんな、なんか苦戦してるみたいだな。さっきまで戦ってたのより、ちょっと強そうだもんな……あっ」


 三人がそれぞれ別のワーウルフと戦っている中、もう一体ワーウルフが居るのを見つける。しかもそれは、アレーナの死角から彼女に近づいていっている。


「アレーナ、危ない!」


 危険を伝えるため、アレーナに向かって叫ぶが、彼女は気づかない。


「そうだ、アレーナにあたしの声は……届かないんだ……」


 だが、彼女の声に気付いた者が居た。


 セインが、自分が相手をしていたワーウルフを突き放し、アレーナの方を見る。

 そして、彼女に迫っているワーウルフを見つけ、そちらへ向かって走り出す。


 ワーウルフがアレーナに飛びかかろうとしたところ、セインが彼女を突き飛ばし、二体のワーウルフの攻撃を受けて倒れる。


 アレーナは立ち上がり、ワーウルフを一体倒し、もう一体のワーウルフを相手する。


「セイン!」


 倒れたセインの元へセナは駆けつける。


「ごめんセイン、あたしが何もできないから……!」


 セインは静かに首を横に振り、彼女の手をそっと握る。


「そんな事、ない。……セナが言ってくれなきゃ、アレーナを助けることが出来なかったよ……」

「でも……でも……!」


 そんな時、セナはあることに気がつく……セインの勇士の証が輝いていた。


「これ、レシーラと戦った時みたいだ。もしかして……」


 セインの右手を両手で包み、祈るようにセナは目を閉じる……



 何かが強い光を放ち、周囲を照らした。


 光が収まると、そこには立ち上がるセインの姿があった。そして、彼の髪の色は水色に変化する。


 セインは大きく息を吸って声を上げる。


「ルーア、ちょっと離れた方がいいよ!」

「は? いきなり何を……」


 ルーアが一瞬セインの方を見ると、彼の足元から魔法陣が広がっているのが見えた。


「なるほど、確かに離れた方がよさそうじゃ」


 セインが何をしようとしているのか分かったらしいルーアは、戦っていたワーウルフを投げ飛ばし、広がる魔法陣から離れる。


「これぐらい……かな?」


 光を纏ったメイスを振りかざし、地面に叩きつける。

 すると魔法陣が光り、その中にいたワーウルフは全て消滅する。


 その後、魔法陣が消えると同時にメイスが砕け、髪の色が戻ったセインはその場に倒れる。


 倒れたセインの傍にアレーナとルーアが近寄る。


「気を失っているようだな」

「憑依の力が使えたようじゃが……また一週間も眠るような事がなければいいのじゃが」

「今のがそうだったのか。とすると、セナが?」

「ああ、セナちゃんならセインちゃんの傍で気を失っておる……セナちゃんはワシが抱えて行くからそっちは任せるぞ」


 アレーナはセインを肩に担ぐと、ルーアと共にレミューリアへ向かって進みだす。


「ルーア、セナの事をもう少し丁寧に抱えてあげる事は出来ないのか?」


 ルーアは、セナを背負いはしているが彼女の下半身はほとんど引きずられている状態だった。


「仕方がないじゃろ、背が小さいのだから。……それより、さっきのワーウルフの事じゃが」

「ああ、行方不明になっていた人数と一致する。恐らくあの集落の人間と、強い個体は冒険者だろう」


 そうか……とルーアはため息をつく。


「あそこにはゾンビ型しか居なかった。あれでは数を増やす事はできぬ。親となる者が出てこなかったのは気になる」

「まだ、近くに居るかもしれない……か」

「ああ……」


 不安はあるものの、四人は目的地『レミューリア』へとたどり着く。



 レミューリアの周囲を囲む魔獣を寄せ付けないための外壁。その上から、戦いを眺めていた者が居た。

 獣の耳が生えた、茶色の髪の男……グレイガ。


「あの髪の色……それにあの力。瞳の色までは分からんが間違いない、あの時のガキだ。ワーウルフをけしかけた甲斐はあったな。……ん?」


 街に入っていく三人の中に、金髪の少女の姿を見つける。


「金髪の女……? そういや、なんかやらなきゃいけねえ事があった気がするが……」


 グレイガは思い出そうと考えるが、あまり時間のたたぬうちにそれをやめる。


「いいや、めんどくせ。それよりも……」


 街を歩く三人の冒険者、その中の黒髪の少年を見つめ、口元を釣り上げる。


「どうやってアイツを街の外へ誘い込むか、考えなきゃな」


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