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第八話

大変お待たせして申し訳ございませんでした! これより第二章スタートです!

「おーいセインちゃん起きろー。おーい……」


 深い眠りについているセインの耳元でルーアがささやく。


「うーむ、起きんなあ。さて、どうしたものか……あ」


 何か思いついたのか、ルーアはポンと手をつく。


「なあセイン、今起きればアレーナちゃんに生着替えを見せてもらえるぞ」

「お前はいきなり何を言い出すんだ!」


 頬を赤らめたアレーナが、ルーアを怒鳴りつける。


「あのなあアレーナちゃん、ワシとてセインを起こそうと色々考えておるのじゃ」

「そんな事で目を覚まされてたまるか! ……あ、痛……」


 怒鳴ったのが傷に障ったのか、アレーナは言葉の途中で痛みで歯を食いしばった。


「大丈夫か? 時間が経ったとはいえ、酷い怪我を負ったのじゃから怒鳴るものではないぞ」


 なだめるようにアレーナに言い聞かせる。すると、彼女はルーアを恨みがましく睨み付ける。


「誰のせいだと……」

「セインちゃんとて男の子、いいと思ったんじゃがなあ……あ、それならキスしてみたらどうじゃ? おとぎ話でよくあるじゃろ?」

「それは、普通立場が逆ではないか? ……と言うか何故私なんだ」

「お主、本気でそれを言っておるのか」


 アレーナとルーアがそんな問答をしている横で、セナがセインの様子を見ていると、彼がピクリと瞼が動いたのを見た。

 そして、セインはゆっくりと瞼を開いて、気だるげに体を起こす。


「セイン、おはよ。具合はどう?」

「あ、おはようセナ……なんか、体と頭が重たい……」

「そりゃ、一週間も寝てたしな」

「えっ、そんなに?」

「気が緩んで一気に疲れがきたんだろうな」


 セインが目を覚ましたことに気がついたアレーナとルーアが、ベッドの傍まで寄ってくる。


「アレーナ、ちょっと顔赤くない? 大丈夫?」

「あ、ああ何でもない。気にしないでくれ……」


 アレーナはセインから目をそらし、ルーアを足先で軽く蹴った。ルーアの方は、悪戯っぽい笑みを浮かべている。


「あ、ルーア。体もとに戻ったんだね」


 アレーナをからかう事に満足したのか、一度深呼吸してセインに話しかける。


「まあ体は一週間もあったからな……ところでセインちゃん。お主、体に何か変化とかないか? 人の体に憑りつくというのは、ワシも初めてでな。実際に憑りつかれて戦ったのはお主じゃし、何か変化があるとすればお主じゃろう」


 言われて、セインは自分の体を眺める。すると、右手の甲に見知らぬ紋様が現れている事に気がつく。


「これ、なんだろう」


 セインは、紋様をルーアに見せる。


「これは……恐らくは勇士の証じゃな。先代の勇士にもあったぞ」

「ふーん、なんか意味あるの?」

「ワシは勇士じゃないからよく分からんが、体が頑丈になったり、傷の治りが普通より早くなったと先代は言っておったな。まあそんなのは単に先代が化け物じみてただけのような気もするのじゃがな」

「うーん、じゃあ僕にはあんまり意味なさそう……」

「いや、そんな事はないと思うぞ」


 セインが首を傾げていると、ルーアが話を続ける。


「それの凄い所はな、他の誰かに勇士の力を分け与える事が出来るのじゃよ」

「力を分ける?」

「そう、まあ簡単に言えば勇士を増やせるという事じゃな。まあ、力を分けるのじゃから増やし過ぎるとお主の負担になるがな」

「へえ」


 勇士の証を眺め、セインはふとあることを思いつく。


「それって、アレーナも勇士になれるって事?」


 その一言でアレーナに他の三人から視線が集まる。


「うむ、アレーナちゃんならいいと思うぞ」

「そっか。じゃあアレーナも勇士になる?」

「私が、勇士に? いいのか?」


 アレーナがルーアに視線を向けると、彼女は首肯して答える。


「ワシが見たところ、アレーナちゃんには素質がある。セインちゃんの負担になることはないと思うぞ」

「そうか……そういう事ならセイン、頼む」

「うん、わかった」


 セインは、ベッドから起き上がり、アレーナと向かい合う。


「あ、アレーナが勇士になったら、いつでもあたしの事見えるようになるのかな」

「うむ、そうなるじゃろうな」

「……あれ、セインどうした?」


 セインは困った表情で頬を掻いている。


「どうやれば、いいのかな……」


 ポツリとセインが呟いた後、ルーアに他の三人の視線が集まる。


「すまん……そこまでは、ワシも知らんのじゃ……」


 三人の視線に耐えられなくなったのか、ルーアは顔をそらした。



「すまんな、その……期待させておいて……言い訳をすると、そのワシが先代の仲間になったのは最後じゃったから……」


 申し訳なさそうに頭を下げるルーア。


「分からないものはしょうがない。私は、勇士の力なしでも出来る事をするまでだ」

 と、気にしていない様子でアレーナは言う。


「それで、これからどうすんの? セインも起きたし、レミューリアに行くの?」


 セナが尋ねると、ルーアは「いいや」と首を横に振る。


「セナちゃんの為にもそうしてやりたい所じゃ。だが、セインちゃん一週間も寝ておって体も鈍っているだろうから、まずは体を動かしてある程度調子が戻ってから出発じゃな」


「ごめんねセナ、僕のせいで」

「気にするなよ、そんなに焦ることもないんだ。アレーナと話す方法も分かったからな」

「そうなの?」


 よく分かっていないセインの左手を掴み、アレーナの手を握らせる。


「? セイン、どうかしたのか?」

「えっと……セナ、どういう事?」


 戸惑うセインに、セナは笑みを浮かべて語りかける。


「こうすると、アレーナがあたしの事見えるようになるんだよ」

「そう……なの?」


 セインがアレーナに聞くと、彼女は首肯する。


「ああ、その事か……そう言えばセインは知らなかったな。まあ私たちも偶然分かったのだが、どうやら君に触れている間は私にもセナの姿が見えるらしい」

「そういう事、分かった?」

「う、うん」


 セインは赤くなった顔を見られぬようにアレーナから顔を背けた。



 セインのリハビリがてら街を散策する事にした四人。


「しばらく歩いてみて、調子はどうじゃ?」

「これくらいは大丈夫。でも戦うのはちょっと無理かも」

「だろうな。だが、あまりリハビリに割く時間はないぞ」

「うん、分かってる。出来るだけ頑張るよ……あ、ちょっと待って」


 セインは、途中で見つけたある店へと立ち寄る。


「武具屋、か。なぜここに?」

「ほら、レシーラと戦った時にメイスも剣も、使い物にならなくなっちゃったから新しいの買おうと思って」


 セインがそう言うと、アレーナは首を傾げた。


「勇士の剣があるだろう? それで充分じゃないのか?」


 そうアレーナが尋ねると、セインは首を横に振る。


「今はこの剣がくれる力に、体がついていけないから……だから、もっと強くならなきゃこの剣は使わない事にしたんだ」

「なるほど、そういう事か」

「安易に大きな力に手を出さないのは感心じゃな。どれ、せっかくじゃから防具も合わせてお主に合った物を見繕ってやろう」


 武具屋の中で、セインはルーアがいくつか見繕ってきた防具を合わせたり、手に合った剣を確かめたりしていた。

 それを眺めていたセナは、あることに気がつく。


「セインのその服、大分ボロボロだな」

「言われてみればそうじゃな。着替えたのではなかったのか?」


 聞かれたセインは、照れながら答える。


「あんまり荷物にならないように二着を着まわしてたんだけど、結局どっちもボロボロになっちゃった」

「激しい戦いばかりだったからな。それも仕方ないだろう」


 セインは服の裾や袖を掴んでじっくりと眺め、ため息をついた。


「まあ、でも……やっぱり、買い替えた方がいいかな」 

「そうなると結構色々買う事になるけど、お金は大丈夫か?」

「それなら大丈夫だよ。……ほら」


 そう言って、セインは一枚のカードを取り出す。

 それは、冒険者である証……冒険者カード。


「おや、セインちゃんもそれを持っていたのか」

「前の街で私が作っておくように言ったんだ。これから旅をする上で、あった方が都合がいいからな」

「とりあえず、おじいから貰った宝石を売ったお金はギルドに預けてて、買い物する時にこれを出せば勝手に引き出されるんだって。魔獣を倒した報酬とかもあるからまだ余裕はあるよ」


 ルーアは何やら不思議そうにセインのカードを眺めている。


「ところで、なぜお主の名前は手書きで書かれておるのじゃ? そう言うのはギルドの機械によって書かれるものではなかったか?」


 そう聞かれると、セインは困った様子で頬をかく。


「なんでかは分かんないんだけど、僕が作った時は名前が書かれなくって、仕方なく手書きにしたんだ」

「ほう、そんな事もあるんじゃな」


 ルーアは何か考え事を始めたので、その間にセインは買い物を済ませる。



 街の外れ、人気のない森の中で、セインは一人剣を振るう。

 しばらくの間、無心に剣を振り続けた後、疲れたセインは近くの木にもたれかかって座る。


「一人隠れて特訓、か。剣の使い心地はどうじゃ?」

「ルーア……見てたの」

「ああ、めちゃくちゃな振り方をしていたところをしっかり見ていたぞ」


 セインは恥ずかしそうに後頭部を掻く。


「何なら、ワシが剣の使い方を教えてやろうか」

「えっ、ルーアが……?」

「まあ、見てもらうのが早いじゃろ。剣を貸してみよ」


 ルーアは彼から剣を受け取り、木の葉を数枚掴んで空に舞いあげる。

 そして、落ちてくる葉に向けて剣を横に一振りする。


 葉が地に着くと、舞い上げた葉は全て綺麗に二つに斬られていた。


「凄い……」


 セインは思わずそう呟いていた。


「うーむ、斬った位置がバラバラじゃな。腕が鈍った」

「そうなの?」

「まあ、戦うのにそこまで不便はしないがな。で、どうする? 今なら夕飯を奢ってくれるだけでよいぞ」


 ルーアが差し出した手を、セインは握り返す。


「お願いするよ。僕は……もっと強くならなきゃいけないから」

続けてもう一話更新します。

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