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第百一話

 『世界の中心』へと向かうセイン達。

 飛翔するクロムの背で、彼らは戦いに備えていた。


 その途中、ふとゲレルが問いかける。


「なあ、アレーナってのは、どんな奴なんだ?」


 セイン、セナ、ルーアは『え、今?』と言いたげな視線をゲレルに向ける。


「いや、これから助けに行くんだろ?!

 どんな奴か知っときてぇじゃん!」

《実は、クロムもちょっと気になるぞ》

「……そっか。そうだよね」


 セインは少し嬉しかった。

 こうして、二人が彼女を知ろうとしてくれることが。


「うーん、最初に会った時の印象は『お姉さん』って感じだったかなぁ。でも……」

「結構打たれ弱かったよな」

「そうそう、思ったより頼りない人かな? って思ったよね」


 セインが話し始めると、セナも乗ってきた。

 それにつられて、ルーアも話し出す。


「暗いところが苦手で、怯えておったな」

「そうそう、それまで凛々しい感じでやってたのに、急にしおらしくなってたっけ。

 そういえば、人と風呂に入るのも恥ずかしがってたな」

「もったいねぇなぁ、楽しいだろ、みんなで入るの。

 せっかくだから、終わったらアレーナも連れてみんなで行こうぜ」


 ゲレルが発端になって、女子が盛り上がり始めてしまい、なんとなく居たたまれないセイン。


「それ、僕がハブられるんだけど」

《クロムも、あついのは苦手だぞ》

「あー、それもそっかー……

 でもま、他にもみんなで楽しめることあんだろ」


 とゲレルは言う。


 そこで、セインはふと考える。


──アレーナって、なにが好きなんだろう──


 共に居た時間は、ほんの数か月。

 その間、彼女について分かったことは少ないな……と、気づく。


「セイン、どうかした?」


 急に黙りだしたセインのことが気になったのか、セナが話しかける。


「アレーナのこと、知らないこと多いなってさ」


 少しだけ、怖かった。


 彼女を初めて見た、あの日、あの時。

 自分の中で、何かがカチリ、とハマって動き出した気がした。


 心が、動いた。


 でも、今もまだ、その感情の正体が分からない。

 もしかすると、勇士としての本能が、彼女を敵と見做したのかもしれない。

 そんな風に考える時もある。


 だから、ぼんやりと、避けていた。

 彼女のことを知っていくうちに、この気持ちの正体を知ることが怖かったから。


 けれど、今になって後悔している自分がいる。

 もっと、彼女のことが知りたかったと。


 ……セナは、そんなもの思いにふけるセインを見て、『仕方ないやつだな』と言いたげに、苦笑いする。


「なら知っていけばいいじゃん。

 これから、また一緒に旅するんだからさ」


 彼の顔を覗き込み、勇気づけるように、そうほほ笑みかける。


「……うん! そうだね」


 セナの言葉に勇気づけられたのか、セインも顔を上げる。


 そして、先にある結界に覆われた島を見つめ、表情を引き締める。


「じゃあ、まずはアレを乗り越えようか」


 セインの言葉に皆が頷き、結界を見据える。


 結界……それは、複数の嵐が入り乱れているような乱気流のようだった。


「あの結界は、あの島から溢れる、四つの源素を用いて作り出したもの。

 『世界の中心』、あの島をそう呼ぶのは、火、水、風、土……四つの霊脈から流れる源素の本流が交わる場所だからじゃ。

 故に、あの結界は強固で、解除は出来ぬ。

 だが、一点の突破ならば、方法はある」


 そう言って、ルーアはクロムの首元に立つ。

 その両脇に、セナとゲレルが立つ。


「ワシらが、それぞれの源素で、結界の反転式を打ち込む。

 それで抜け道程度は作れる。

 ……だが、結界は即座に修復を始める。

 限界まで近づき、そこで叩き込まねばならぬ」

「このあと戦わなきゃいけねぇってのに、きっちぃ仕事だな」


 と、ゲレルはため息を吐く。


「一番大変なのはクロムだよ。

 結界を解いたあと、潜り込まなきゃいけないんだから」

《大丈夫だぞ、セナ。

 クロムは出来る》

「分かってる。頼んだぞ」


 そう言って、セナがクロムの首をさすると、彼女は頷いた。


「その先は任せて。

 みんなが開いてくれた道……その先は、僕がやる」


 と、セインは腰に携えた剣に手をかける。

 そして、それに応えるように、ルーア、セナ、ゲレルも構える。

 彼女たちは皆、結界に放つ一撃のために力を集中させる。


「タイミングを合わせろ。良いな?」


 ルーアが問いかけ、セナ、ゲレル、クロムは頷く。


 島へ近づくと、徐々に吹きつける風が強くなってくる。

 近づく者を、弾き飛ばそうとしているようだ。


「……今だ!」


 ルーアが、嵐の中でもかき消されぬように声を張り上げる。

 それを合図に、四人は一斉に、ただ一点に向けて魔法を放つ。


 一点、結界に開いた穴。

 先ほどまでとは逆に、外のものを引っ張るように、強く吸い寄せ始める。


 その勢いはあまりに強く、気を抜けば、体が引きちぎられてしまいそうだった。


 だが、それ自体はすでに想定済み。

 セナ、ルーア、クロム、ゲレルの四人は、今度は防護の結界を展開する。


 そうして、結界を潜り抜けた先……そこで、セイン達目掛けて、黒い稲妻が襲い掛かる。


 島の結界を突破するのに摩耗していた、セナ達の結界は今の一撃で完全に砕けた。

 すかさず二撃、三撃と繰り返しその黒い稲妻が迫る。


 クロムは直撃を避けようと回避するが、飛行の体勢が崩れ、徐々に高度は下がっていく。


 激しく揺れるクロムの背中で、振り落とされまいとしがみつくセイン達。


 だが、このままではクロムは自分達を気にして下手に反撃するわけにもいかず、負担を強いるだけだ。


──せめて、着地だけでもできれば……──


 セインは必死に考え……イチかバチか、打って出ることにした。


「クロム……みんなをお願い!」


 そう言って、彼はクロムの背中を飛び降りる。


《セイン⁉ ……いや、分かった!》


 突然の行動に驚いたが、彼女もすぐにその真意を理解した。


 セインは落ちていく最中、自分達を攻撃してくる者の姿を確かめる。


 その体は、とても大きく、泥の積みあがった山のようだ。


──あれが、邪悪なる者──


 どこに目があるのかは分からないが、なんとなく、自分に興味が移っているような気がした。


 セインの髪と瞳が、緑に輝く。

 大地に引かれるままに落ちていた彼の体は、風に抱きとめられ、空に立つ。


 そして、風に背中を押され、滑るように邪悪なる者に向かって進みだす。


 邪悪なる者が、自分に向けて雷撃を放とうとするのを、肌で感じる。

 セインは、《勇士の剣》に手をかける。

 そして、剣に呼びかけるように、彼は目を閉じる。


「一緒に戦おう……《スパークレンス》!」


 その言葉と共に引き抜かれた勇士のスパークレンスは、彼の呼びかけに応えるように、強く煌めいた。


 邪悪なる者から放たれた、黒い稲妻。

 セインはそれを、スパークレンスで受け止める。


 スパークレンスの刀身は、黒い稲妻を吸収するように黒く染まっていく。

 そして、セインが右手の勇士の紋様を輝かせる。


 すると、黒く染まっていた刀身は、反転して白い光となってスパークレンスを覆う。


 セインの纏う光が、緑から黄色へ変わる。

 彼の足元に、砂粒のような物が広がっていき、足場が作られる。


 そこでセインは地に足を踏みしめて、スパークレンスを高く掲げ、勢いよく振り下ろす。

 縦一閃、光の刃が弧を描いて邪悪なる者へ向かって飛ぶ。


 それは邪悪なる者に深い傷を負わせた。


──あそこからなら、入れるか?──


 おそらく、アレーナはあの中に居る。

 セインはこのまま、中に突入しようと考える。


 足場で勢いをつけて飛び上がる。

 すぐさま風の力を纏い、先ほど開けた傷口へと向かう。


 その中は、真っ黒だった。

 闇に塗りつぶされて、何も見えない。


 だが、これは一度『見ている』。


 セインは、胸に拳をあて、自分の中の『熱』を意識する。

 内側から熱く燃えがらせるように、強く、滾らせる。


 すると、彼の周りから炎が発生し、スパークレンスを振るうと同時に広がり、周囲の《黒》を燃やしていく。


 それによって、邪悪なる者は、セインを危険な存在だと認識したらしい。

 彼を体内から排除しようと、四方八方から、逃げ場のない雷撃を行う。


 それはセインに直撃した……かのように見えたが、彼には傷一つなかった。

 なぜなら、彼は自身の周囲に結界を張っていたからだ。


 暖かな、青白い光。

 セインの身を包むその光は、セナから受け取った力だ。


 如何なる攻撃も、その身には通らない。


 セインは、周囲を見渡してアレーナを探す。

 近くに居ることは分かる。

 あとは、彼女の手がかりさえ見つかれば……


 ……見つけた。気がする。


 一点、ずっと光っては消える、そんな場所がある。


 きっとそこに居る。

 そう確信した。


 セインは一度防護の結界を解く。

 両手でスパークレンスを握り、意識を集中させる。


 邪悪なる者が、再度黒い稲妻を放つ。

 全方位からの攻撃、セインは、スパークレンスを振るい全ての稲妻を絡めとっていく。


 剣に纏わせ、渦巻く稲妻は、今にもはじけ飛びそうなほどに、震えていた。


 セインはその力を抑え込み、光に変換しようと両腕に力を籠める。

 重さに腕を震わせながらも、スパークレンスを高く掲げる。


 黒い稲妻の螺旋を、白く変えていく。


 遥か高く、山さえも真っ二つにできそうなその稲妻を、勇士の閃光に変えた。

 その瞬間、セインは、重さに任せて勢いよく振り下ろす。


 この黒い空間を断ち切るほどの、光の刃。

 それが断つのは、《邪悪なる者》のみ。


 邪悪なる者を真っ二つに斬り、その間に浮かぶアレーナ。


 落ちていく彼女を受け止めるべく、セインは風の力で飛んでいく。

 その手を取り、自らの元へ抱き寄せる。

 アレーナは、閉じていた瞼を開き、セインと目を合わせる。


「わざわざ、ありがとう」


 そう言ってからかうように笑う彼女は、自らの体を漆黒の鎧に包み、翼を広げる。


「まあ、ワタシは飛べるんだけどね?」

「……まあ、無事みたいで何よりだよ、エデン」


 セインは少し不満げにそう言った。


「ごめんごめん、少しだけキミと話したかったんだ。

 すぐにアレーナは返すよ」

「どういうこと?」


 おかしな彼女の態度に、セインは首を傾げる。


「こういうことを言うと、キミがワタシを倒しづらくなるだろうから、あえて言うんだけど。

 ワタシはね、誰かに触れてみたかった。

 でも、ワタシは傷つけることでしか、他者に近づく方法がなかったんだよ。

 この有象無象の怒りと哀しみの中で、唯一確固たる《意志》を持ったワタシの望み。

 それが、《邪悪なる者》を動かした。

 まあ結果として、『この世の全てを飲み込んで、一つになる』なんて、ねじくれた行動しだすんだけどね」


 エデンは左右真っ二つに割れた《邪悪なる者》を見渡し、ため息を吐く。


「この子の体に居れば、少しマシになるかと思ったけど、やっぱりワタシの本質は変えられない。

 やっぱりワタシは、倒されるべきなんだと思うよ」


 その時エデンは、どこか物悲しそうな顔をして……直後、アレーナの体をセインの元に弾き出す。


「なんてね。どうだい、少し倒しづらくなったかな?」

「……一つだけ聞きたい」

「なんだい?」

「お前は今も、全部飲み込んで、一つになりたいなんて、考えてるのか?」


 エデンは、しばし黙ったあと、答える。


「まあ、本能みたいなモノだしね」


 納得のいかない答え。

 セインは「そんなはずないだろう」と直感していた。


 だが、反論する間もないまま、エデンの雷撃がセインを襲う。

 痛みはない。ただ、遠くに突き飛ばそうとするように……


「エデン!」


 遠ざかるエデンに、手を伸ばそうとするセイン。

 だが、その手は届かず、エデンは邪悪なる者に飲み込まれていった。


 アレーナを抱え、地上に降り立ったセイン。


「……セイ、ン……」

「……! アレーナ!」


 目を覚ましたアレーナが、セインの瞳を見つめる。


「あいつは……エデンは?」


 その問いかけに、セインは答えず……ただ、再生した邪悪なる者を見上げた。


「……そうか」


 アレーナは、セインに支えられながら立ち上がる。


「助けに、いくんだね」


 セインが聞くと、アレーナは静かに頷く。


「これは、私の我儘だ。

 セイン、キミは自分の使命を果たしてくれていい」

「理由を、聞いてもいい?」


 そう聞かれて、アレーナはセインの方へ振り返る。


「理由……か。そうだな、キミにこんなことを、言うべきか……」


 少しためらう彼女に、セインは笑みを浮かべて答える。


「教えてほしいんだ、アレーナにとって、あいつがどんな奴だったのか」


 アレーナは少し驚いて、そして、少し嬉しそうに答える。


「こんなことを言うと、おかしいと思われるかもしれない。

 でも、エデンは私にとって、友達だった。

 確かに、この体を乗っ取りもしたが、私の意志を奪うことはしなかった。

 あいつはひねくれて……いや、素直とは言い難い奴だ。

 本当は寂しがり屋で、誰かと触れ合いたいんだ。

 『別の誰か』がいることを、望んでいる」

「邪悪なる者とは、違うってこと?」

「ああ、そうだ……と、私は思っている。

 あいつは、邪悪なる者に飲み込まれることを恐れていた。

 だから、助けてあげたい」


 そう語る彼女の碧い瞳には、強い意志が宿っていた。


「そっか、キミがそこまで言うなら……

 『僕たち』も、手伝うよ」


 そう言って、セインは振り返る。


「ね、みんな!」


 そこに現れた、仲間たち……セナ、ルーア、クロム、ゲレル。

 四人は、彼の言葉に頷いた。


「いいのか……?」


 戸惑うアレーナ。


「ま、あたしらの大事な仲間が『友達』って言うんだからな」

「見捨てたら、後味が悪かろう」


 セナとルーアは、そう答える。


「キミたちは?

 私のことは、知らないだろう?」


 アレーナは、クロムとゲレルに問いかける。


「お前はセインの大事な人だ。

 クロムには、それだけで充分だぞ」

「ま、おれにはあのヤローがどんな奴かなんて知らねぇが。

 倒すかどうかは、助けたあとに考えるわ。

 それでも、遅くねえだろ……おれたちは、勇士だからな」


 何の迷いもなく答える、クロムとゲレル。


 アレーナは、四人を見渡して、胸を押さえる。


「みんな、ありがとう……!」


 そして、振り返るアレーナ。

 エデンを取り込み、姿を変えた邪悪なる者を見据える。


 四つ足で立つ竜の下半身、隆々とした上半身の背中から禍々しい翼が生えている。

 そして、女性を模した人形のような、冷たい作り物の顔。


「天使、悪魔、竜……人間の恐怖の象徴といったところか」


 その姿を見て、ルーアが気まずそうに呟く。


「邪悪なる者は、人の怒りと哀しみで形作られている。

 奴に対して抱く、『負の感情』はそのまま奴を強くしてしまうんだ」


 とアレーナが説明すると、「なるほどな」と彼女は頷いた。


「先代の勇士が勝てなかった理由が、ようやくわかった。

 ワシらはかつて、人類にとって敵だった。

 ワシらの戦いが、奴を生み……むがっ?!」


 感傷に浸りかけていたルーアの両頬を、ゲレルが引っ張る。


「今そんな昔話してる時じゃねぇっての!

 昔は昔! 今は今!

 おれは、おまえらが昔なにしてたなんて知らねえし……

 今は、天使も悪魔も竜も、みーんな仲間だろ? な!」


 ルーアの体ごと、セナとクロムの方に向くゲレル。

 二人は頼もしく笑みを浮かべ、セインとアレーナが、肩に手を置いて頷く。


「僕らは、天使も、悪魔も、竜も憎んだりしてない。

 だから、あいつを怖れたりなんか、しない」

「ああ、私たちならきっと、乗り越えられる」


 そして、セインはこう続ける。

 

「それに、これは倒すためじゃなく、救うための戦いだ」


 その言葉に、彼の姿に、ルーアも笑みを浮かべて頷く。


「ああ……そうだな!」


 皆が、共に同じ方向を見据える。


 そこで、セナが杖を頭上に高く掲げた。


「みんな、景気づけだ! 受け取れ!」


 杖の先から、光の粒が降り注ぐ。

 その光を浴びると、体の中から力が沸き起こった。


「加護の魔法だ、みんな思いっきり行け!」


 セナの言葉に頷いて、セイン達は邪悪なる者に向かって走り出す。


 クロムは竜に変化し、ゲレルを乗せて飛び立つ。

 ルーアは自らの走る先の地面を隆起させ、邪悪なる者の眼前に向かって走る。


 邪悪なる者は、近づく者を排除しようと、黒い稲妻を放つ。

 だが、それはセナの作り出す結界によって弾かれる。


 そして、いち早く邪悪なる者の前に辿り着いたクロムとゲレル。

 クロムの放つブレスに合わせ、ゲレルが炎の矢を射る。


 それは巨大な炎の渦となって邪悪なる者を焼く。


 邪悪なる者が炎を振り払うと、目の前には、周囲の土を集め、巨大な体となったルーアが立ちはだかっていた。


「とはいえ、一発くらい殴っても許されるだろう?」


 巨体の拳を、更に固めた土で大きくして殴りつける。

 体勢を崩す邪悪なる者を、巨大なルーアは組み付いて押さえる。


 そこを、セインとアレーナが、足元から背中へ駆け上がっていく。


 邪悪なる者にとっての《心臓》に当たる部分を、アレーナが探り当てる。

 エデンは恐らく、そこに居るはずと考えたからだ。


 長い事エデンと肉体を共有したアレーナは、その存在を大まかに知覚出来るようになっていた。

 そして、セインが使う《魂の対話》の際、自分がいれば互いに引かれ合うという確信があった。


 邪悪なる者の心臓の真上。

 そこで、セインとアレーナは向かい合い、手を重ねる。

 セインは右手、アレーナは左手。

 二人を繋げ続けた《勇士の紋》が刻まれた手だ。

 二人はその手で、勇士のスパークレンスを握り、もう片方の手で、セインのエスプレンダーを握る。


「セイン、中に入る前に一つだけ、頼みがある」


 真剣な表情で、語りかけるアレーナ。


「どうしたの?」

「エデンのことだ。

 あの子を……」


 アレーナの願いに、最初は驚いた。

 だが、セインはすぐに「いいよ」と頷く。


「……ありがとう、セイン」

「うまくいくかは、まだ分かんないけどね。

 でも、なんだかそれが一番いい気がするんだ」


 セインは、スパークレンスを握る手を見つめ、続ける。


「今、アレーナに言われて気がついたんだ。

 きっと、僕の力はこの時のためにあったんじゃないかなって」

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