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第九十五話

 火の霊脈での戦いの後、セイン達はアリシアを連れ、王都に来ていた。


 城の客間で待っていたセイン達の元に、ステンシアが現れる。


「アリシアが目覚めたわ。

 セイン、あなたと話したいそうだけど……」


 気まずそうに問いかけるステンシア。

 だが、セインの方は迷いなく答える。


「分かった。

 会わせてほしい」


 ステンシアは少し驚いた様子だったが、すぐに納得したようにうなずいて、彼を案内する。

 セインは剣を仲間たちに預け、彼女についていく。


 案内された病室。

 セインは一人、中に入る。


 アリシアは、ベッドの上で上体だけを起こして待っていた。

 その姿は、今にも消え入りそうなほど、透き通って見える。

 肌も、瞳も、髪も、色が抜け落ちたかのように白くなっている。

 まるで、抜け殻のようだ。


 セインが来たことに気づき、おもむろに体を向ける。

 だが、いざ向き合うと気まずかったのか、顔を俯ける。


「体の具合、大丈夫そう?」


 そうセインが問いかけると、彼女は驚いた様子で顔を上げる。


「……あまり、体に力は入りません。

 何をされようと、抵抗はいたしません」

「しないよ。

 ただ、話をしにきただけ」


 両手を広げ、何もないということを伝える。

 そこで、アリシアはハッと目を見開いて、頭を下げる。


「申し訳ございません。

 無礼な物言いでした」

「こんなこと言うのも悪いけど……本当、別人みたいだ。

 前みたいな、棘々しい感じがないっていうか」

「……わたくしは、如何様な罰も受け入れるつもりです。

 それだけ、犯した罪は重い。

 命乞いをするつもりはない……のですが……」


 そこまで言って、アリシアは話すのを躊躇うように口を閉ざす。


「もしかして、だけど……

 『キミの中にいたもの』のこと?」


 セインが尋ねると、彼女は驚いていた。


「ごめん、助ける時、キミの記憶がほんの少し、見えたんだ」


 アリシアのベッドの傍に椅子を置き、腰かける。

 そして、真剣なまなざしで彼女を見つめた。


「教えてほしい。

 アレのことを、少しでも知っておきたい」

「……分かりました。

 お役に立てるかは、分かりませんが」


 アリシアは、遠いところをみるように、顔を上げる。


「八年前、わたくしの中に、あの『影』が入り込みました。

 ですが、特別操られていた……とは思いません。

 これまでのことはハッキリと覚えていて、自分の意志で行動していた、と思います。

 ただ……」


 アリシアは、言葉を選びながら口にしている様子だ。


「わたしが、彼女に抱いていた感情。

 『憧れ』『敬愛』……そういったものが、全て『憎悪』に変わった。

 ……いえ、変わったというよりも、憧れ、愛しながら憎んだのです」



 わたしは、『王女』を護る。

 ただ、そのためだけに生まれた『生きた人形』。


 護衛の対象によく似た姿に作られた。


 時には従者として、その方をお世話をし。

 またある時は、護衛として御身を護る。

 そして、必要とあらば……『代わりに死ぬ』。


 それが、わたしの役割。


 それがわたしの、生まれ持った『役割』だ


「王女さま、離れられては困ります」


 わたしの仕える王女さま。

 彼女は、いつもわたしの前から姿をくらます。


 まあ、見つけるんですけど。


 彼女はやけに身体能力が高い。

 それゆえに、城の壁面を駆けまわる。

 その姿はまるで、山を上り下りするかのよう。

 逃げられると厄介なことは確かです。


 しかし、どう頑張っても、行動範囲は城の中。

 王女の行動は単純ですし、見つけること自体はたやすい。


 むしろ、大変なのは見つけた後。

 いつもいつも、この方はダダをこねます。


「だって、いつもついて来るから……

 私の自由がない!」


 それが仕事ですもの。

 なにかあったら困ります。


「アリシアは固いのよ」

「いくら私が人工物でも、皮膚は人間と変わりませんが?」

「あ……いや、そういう……つもりは、なくて」


 王女さまは顔を引きつらせた。

 我ながらナイスなジョークだと思うのですが。


「では、どうすればアルミリアさまは満足されるのですか?」

「それは……ああ、そう。

 まずその呼び方!

 いつも『王女さま』か、『アルミリア』って呼ぶじゃない?

 アルミリアって呼ばれるの、やっぱりしっくり来ないのよ。

 アレーナって呼んでほしいな」

「それは……」


 そんなこと、わたしにはおこがましい。

 所詮、わたしは模造品。


 この方の……本当の名前を呼ぶなど、そんな資格はありません。


「わからずや……」


 王女さまはご立腹の様子。


「私のこと、そんなに熱心に守らなくたっていいじゃない。

 どうせ、私が王位を継ぐことはないもの」

「それはそうですが……」

「それはそうなのね……」


 自分で言っておいて、なんで落ち込むのだろう、この人は。


「とはいえ、国王直径の血を引いているのですから、他国の王族に嫁入りすることも考えられます。

 命を狙われることも、あろうと思われますが」

「どうせ嫁の貰い手なんてないわ。

 城の人が言ってるの聞いたもの『この娘は骨太すぎる、熊か猛牛くらいしか嫁に貰うヤツなどおらん』って」

「誰ですか? そんな無礼なことを言ったのは。

 教えてください、シメてきますので」

「アリシア?!

 冗談でしょ?

 冗談だよね?!

 目が怖いよ?!

 私、別に気にしてないから!」


 王女さまが腕を掴んで、わたしを引き留める。

 ……力が強い、もげそう……。


 ……そんなある日、王女さまが姿を消した。

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