プロローグ
薄暗い森の中を、一人の少女が駆ける。
息を切らしながら走る少女は、もう体力も限界に近かったが、それでも止まることはなかった。
止まれなかった……止まれば、きっと命はない。
明らかに殺意を持った者達が、少女を追いかけていた。
先に見える光を目指して少女は走る。
辿り着いた光の先、そこにあったのは……絶望。
底の見えない、急な斜面の崖。もう、逃げ場はない。
後ろからは敵が迫ってきている。退くことも、進むことも出来ない状況に、少女は絶望する。……もう終わりだと、諦めた時だった。
森の中から、激しい争いの音……そして、少女を追って来ていた者らしき人の悲鳴が聞こえてきた。
少女は何が起きているのか分からず、何もするわけにいかず、ただ呆然とその場に立ち尽くす。
やがて音が止み、少女は終わったことを悟る。
恐る恐る森に近づこうとすると、向こうからこちらへ歩いてくる音が聞こえる。
冷静さを取り戻した彼女はその場に立ち止まり、覚悟を決めて、背負っていた槍を両手で持ち、構える。
森の中から、一匹の獣が現れる。
少女より体よりも一回り大きな体躯、漆黒の体毛には、付着したばかりらしい血の跡がある。そして……
「赤い目の……魔獣」
獣の目を見て、少女は怯える。
獣が近づくたび、少女は一歩、また一歩と後ずさる。そして……
「あっ……」
気づいた時には遅かった。
足を踏み外してしまった少女は、そのまま崖の下へと落ちていく……