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短編集

僕と君の革命

作者: 枝鳥

 三上梓と僕、前橋優也は向かいの家同士。

 つまり幼馴染だ。


 小学生までは登校班も一緒。

 低学年の頃なんかは、お手てつないで仲良く登校したものだ。

 学校から帰ったら、どちらかの家でいつもよく遊んでいた。


 でも、高学年になったあたりからは何となく僕は男友達と、梓は女友達とばかり遊ぶようになった。

 何ていうか、そう。

 別に嫌いになったわけじゃないけど、男子は男子、女子は女子で遊ぶことがいつの間にか当たり前になっていたんだ。


 だから、同じ地元の中学校に通うのも何となくお互いに時間をずらすようにしていた。


 だから梓がどこの高校に行くかなんて、高校生になってGW過ぎて制服を見かけるまで知らなかったぐらいだ。


 久しぶりに見かけた梓は、ブレザーの制服を短めのスカートにしていた。

 多分、僕の通う高校とは反対の方向にある女子校の制服だった。

 何となく、小学生の頃までは梓の方が真面目だったからそのイメージでいた僕はとても驚いたものだった。

 中学校で見かけた時も、梓はどちらかというと地味目のグループにいたくらいだったから。


 僕はすっかり気後れしてしまっていた。


 もう、僕の知っていた梓じゃないんだなって思ったのを覚えている。



 それから何度か見かけたけど、見る度に少しずつ派手になってるみたいだった。



 高三の二月の最初の週。

 僕は第一希望の大学に合格した。

 大学の合格通知をもらった二日後に、母さんから梓が僕と同じ大学に受かったって聞いた時には驚いた。

「へえ、そうなんだ」

 なんて言いながらも、あの派手な格好をした梓が進学校でもないのに僕の行く予定の大学に合格したことに本当に驚いたんだ。

 だけど、僕はそれよりもこれから始まる新生活に浮かれていた。


 初めての一人暮らし。

 どんな生活になるのかワクワクしていた。

 不動産屋に予約した部屋を本契約したり、家具の通販サイトを覗いたり注文したりして過ごしていた。



 その日の夜、梓がうちにやってきた。

 しかも僕に会いに、だ。

 十年振りくらいじゃないのか?


 梓は僕の部屋に入ると、昔みたいにペタンとカーペットと上に座った。

 近くで見た梓は、明るい茶髪に派手目な格好がなぜか妙に浮いて見えた。

「久しぶり、優也」

「う、うん。久しぶり」

「あんた、あたしと同じ大学に行くんだって?」

「うん、そうみたいだな」

 そこで、一旦沈黙が広がった。

 梓はイライラしてるのか、親指の爪をガジガジと噛んでいる。

「その癖、まだ治ってなかったんだな」

 僕がそう言うと、梓はパッと親指を背後に隠して俯いた。

 長いつけまつげが、梓の顔に影を落としていた。


「あのね、優也にお願いがあるの」

 俯いていた梓がようやく話し始めた。

「あたしね、高校で一年の頃に少しいじめられてたの。

 ダサい、暗いって。

 それでね、いじめられないように周りと似たような格好とかしてたんだけどね。

 いじめにはならなかったけどね、ずっとからかわれるのは続いてたんだ」

 僕は衝撃を受けた。

 短くしたスカートで堂々と歩く梓を何回か見かけたけど、まさかそんなことがあっただなんて。

「でね、格好だけは周りに合わせられたと思うんだけどね、多分、大学に行ってもまた同じことになるかもしれない。

 ううん、そうなると思う。

 だからね、優也にお願いがあるんだ」



 それから、僕は梓とずっと話し合った。

 翌日も話し合った。

 今までずっと話していなかった分を埋めるくらいにたくさん会話した。

 そして僕らは行動した。




 梓は僕の指示通りに変身した。

僕は派手だったり露出が多い女の子は嫌だ。

スカートの方がかわいいと思う。

ケバい化粧はちょっとひく。

つけまつげはひじきに見える。


 だから、明るすぎる茶髪は、落ち着いたダークブラウンに。

 傷んだ毛先は落として、肩にかかるくらい。

 パーマはかけないけれど、サラサラしてツヤが出るようにトリートメント類はしっかりと。


 派手で露出の高い服は、シンプルで少し可愛らしいものに。

 パンツよりはスカートで。

 色も明るく淡い色を中心に。


 化粧も色は抑え目になった。

 あんまり唇もテカテカしないようにして、つけまつげはやめた。

 つけまつげをやめるのに、梓はものすごく抵抗してたけど。



 僕も梓の指示通りに変身した。

 黒かった髪は少し明るくした。

 梓よりも暗め、外だと少し茶色に見えるくらい。

 長過ぎた髪はやや短めになってツンツンしている。

 ワックスの使い方では梓に何度も怒られた。

 つけ過ぎ、足りなさ過ぎって。


 僕のパンツを買いに行った時は、梓は裾直しを何度も何度も調整した。

 微妙な違いが大事だと力説された。

 梓曰くの、こなれたシャツや春物のニット。

 ピンクなんて生まれて初めて着るんじゃないかな。


 それから化粧品。

 洗顔も化粧水と乳液。

 女みたいで嫌だと言っても、梓には敵わなかった。

 使い方を何度もレクチャーしてくる。

 そしてマルチビタミンとビタミンCのサプリ。



 僕曰くの、ちょっといいなと思えるような女の子。

 明るくて清楚で、優しい雰囲気。

 でも派手じゃない女の子。


 梓曰くの、ちょっといいなと思えるような男の子。

 清潔感がある=男でも美肌。

 黒紺グレーばかりじゃなくて明るい色も着る=少しオシャレな人。

 髪は短めの方がだらしなく見えないから好みらしい。



 あの日、僕らは話し合った。

 大学でリア充になるって。



(1)異性から見て、高感度の高いファッション

(2)異性の信頼できるオシャレな友人がいる。

 この二点があればだいたいリア充っぽいんじゃないのかって結論になった。


 僕らはリア充になる。

 リア充になって、自分たち自身に革命を起こすって決めたんだ。


 僕と梓は共闘することにしたんだ。

 目標はそれぞれリア充の証拠、『恋人』を作ること。






 この時の僕らはまだ知らない。

 たしかにリア充のように大学を過ごすことができるようになったことを。

 だけど、周囲からは幼馴染のカップルとして扱われ続けることを。

 そのせいで、二人とも恋人ができないことを。




 まあでも、気心が知れていて自分の好みになろうとしてくれる幼馴染って、案外かわいいってことも。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  微笑撃のラスト。 ニヨッてしてしまいました。 [一言]  この二人はコレでイイんじゃないかな! (ノ*゜▽゜*)←
[良い点] 完璧なラブコメだ(笑) [一言] トラブルと、それを乗り越える過程と、周囲の誤解とハッピーエンド。これたけの要素をよくこの文字数で過不足なく詰め込んだと思います。
[一言] もしかして幼馴染がいちゃいちゃするだけの話なんですかね?
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