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1:今までで一番最悪の目覚め

 俺が覚えている最初の人生は、日本という国のごく普通の青年だ。そのときの名前は石崎竜也いしざきたつやと言った。

 どんな人間だったかと言えば、害の無いオタクだ。ゲームオタクというヤツだった。アニメも好きだった。漫画も好きだった。けれど、三度の飯よりゲームが好きで、仕事と食事と風呂とトイレと睡眠以外の時間は、全てゲームに当てるぐらいに、ゲームが好きだった。特にRPGゲームが好きで、シミュレーションだろうがアクションだろうがダンジョンだろうが、とりあえずRPGとなっているなら、たいていのゲームはプレイしてみた。

 そういう、ごく平凡なオタクだった。

 その俺、石崎竜也の人生は、記憶している限り、三十路半ばぐらいでぷつっと終わった。別に無理をしたツケで病気になったわけじゃ無い。交通事故にあったわけでもない。どうやって死んだのかは知らないが、とりあえず、俺は、三十路半ばくらいで死んだ、らしい。

 そろそろ収入も増えてきて、彼女もいない気楽な独身貴族で、貯金をしつつもゲームに明け暮れ、攻略本やガイドブック、ドラマCDなどの周辺グッズに手を出しても誰にも文句を言われない、素晴らしい生活のただ中で、だ。何で死んだのかはっきりしないのだが。そこだけはどう考えてもわからない。誰か教えて欲しい。

 まぁ、そこは良い。

 問題は、その後だ。

 俺は、自分が死んだのだなということだけ理解して、次に妙な世界で目覚めた。日本人ゲーオタの記憶を保持していた俺に取って、そこは見知っているが見知らぬ世界だった。…あぁ、わかりにくい例えで申し訳ない。飽きるほどに知っている、けれど実際に現実には存在するわけが無い世界。俺がいたのはそこで、さらに言えば、《自分》が《誰》であるかを理解して、衝撃で頭が吹っ飛んだ。



 最初に目覚めた世界は、王道RPGのそれで、俺はその世界を救う勇者、の幼なじみの魔法使いだった。



 何を言っているのかわからないかも知れない。だが、それが事実だ。俺は勇者の親友として、幼なじみとして、相棒として、魔法使いを頑張った。やりこみすぎて色々知っているゲームだったので、知識というチートスキルを発揮しながら、それはもう、頑張った。そこがゲームの世界だとわかりつつ、だって登場人物の一人なんだから否応なしにシナリオに巻き込まれるんだから、と。

 多少、楽しんでいたのは理解している。俺はゲームが大好きだったから。その世界に入り込めたことが嬉しいというか、もう、コレが夢だったら夢として、割り切って楽しもうと思ったんだ。

 頑張って頑張って、勇者と他の仲間達と共に魔王をぶっ倒して、凱旋した。それから数年は魔法学校の先生みたいなことをやりつつ、平和に生活していた。

 で、そこでも気づいたら死んでいた、らしい。たぶん。まだ若かったよ。今度も若かったよ。20歳そこそこだよ。ちなみに記憶が復活したのは勇者が旅に出る直前だから、16歳くらいかな。俺、4年ほどしかあの世界を堪能できなかったよ。平和になった世界でもっと頑張って生きていたかったよ。

 


 その次に目覚めたら、また同じように違うRPGゲームの世界だった。



 これを、俺は何度も繰り返す。

 大概、ゲームが始まる直前とか、その数年前とか、ある程度の年齢になっているキャラクターとして目覚める。転生してるのか、憑依しているのかわからない。けど、目覚めた時にはそれまでの記憶が全部あるし、そのキャラクターとして生きてきた記憶もあるんだ。ご都合主義素晴らしいって感じだよな。

 もう、何度ゲーム転生してるのか、わからない。片手は軽く越えた気がする。ちなみに、転生する前のスペックは引き継げない。まぁ、ゲームの世界が変わるんだから、仕方ないよな。唯一の武器が自分の記憶と知識だ。別に身体能力にチート補正はついてないので、常に頑張って修行している。

 で、俺は毎回、主人公の周りにいる誰か、に転生している。これはお約束で、まぁ、主人公陣営にいるなら死ぬこともないし大丈夫だよね?という謎の安心感もあった。


 ただし、主人公の周りにいる厄介な属性を抱えてる奴ら、に転生するのだ。


 最初の魔法使いだって、幼なじみで親友で相棒って言う一番安全パイに見せかけて、実は父親が敵方魔王に魂売った魔法使いだったとかいう、それ必要在るの!?魔王城まで乗り込んで、いざ尋常に勝負って時に暴露するネタじゃないよね!?俺知ってるから平気だけど、それまでもそれとなく皆に根回ししてたけど、そうじゃなかったら、裏切り者扱いされるよね!?っていうアレだった。

 その次のゲームの時は、主人公達が旅の途中で出会う傭兵だった。飄々としたイケメンで、気さくなお兄ちゃんだった。けど、彼は実は敵対勢力に廃嫡された王子様で、本人はその気は無かったけれど、主人公達が頑張ったおかげで最終的に王様になっちゃうキャラだった。おかげで、主人公じゃ無くて俺が常に宿屋で刺客に狙われる、スリリングな人生でした。

 その次の時は、自分の内側に別の人間の魂を抱え込んでる神官だった。困っているところを主人公達が助けてくれる、というポジションで、そこから仲間になるんだが。彼が後生大事に護っていた魂が、現在傀儡とされていた大司教(幼女)の魂だったというオチだ。密命を帯びて主君のために自分の身体を差し出す、という。

 おかげで、神官の彼になっているときは、イベントの度にその大司教ようじょが表に出てきて、俺の口で勝手に喋るというイタコ状態だった。神官に見えない筋肉ムキムキの黒人系の口を借りて、幼女が喋る。しかも声は幼女の声だ。どんなカオスだ。あり得ん。

 まぁ、そんなわけで、俺が転生するのはいつもややこしいポジションの人たちばかり。敵との板挟みだったり、そもそもがスパイだったり、誰かに命を狙われていたり、主人公達に気を許しつつも秘密を抱えていたり。何でよりにもよってそんな面倒くさいのになるのか、俺は一度カミサマとやらに物申したい気分だ。

 で、そんな風にゲーム転生もぼちぼち慣れてきて、だんだん、死ぬとき(意識がブラックアウトしていく感じ)もわかってきて、次はどのゲームかなとか暢気に思ってた俺ですが。



 今回ばかりはマジで詰みゲーなので、今すぐリテイクを物申したい!



 うーあー、嫌だー。これ、俺の記憶が間違ってなかったら、こいつすっげー面倒くさい。ありえない。何でよりによってこいつなんだよぉ…。

 と、俺はたった今取り戻した記憶で泣きそうになりつつ、部屋にある姿見で自分の姿を確かめた。そこにいるのは、ハイティーンの美少年だ。キラッキラの典型的な王子様タイプっぽい美少年がそこにいる。

 ほんの少し毛先が外に跳ねているようにも見える髪は、女子が揃ってお手入れ方法を聞いてきそうなぐらいに艶々なアッシュブロンド。ややツリ気味な細い眉に、対照的に目尻が少し下がった垂れ目がちの切れ長の青い瞳。右目の目元には泣きぼくろがある。北国の人間かと思うほどに白い肌に、すっと通った鼻筋が美しく、唇はきりりと引き結ばれている。

 背も決して低くはない。すらりとした長身に、鍛えているので引き締まっている四肢。立ち居振る舞いも洗練されており、そこにいるだけで謎のキラキラオーラ、いわゆる上流階級オーラが垂れ流しになっちゃうように、そういう美形だ。

 名を、アルフォンソ・ソル・ラ・クインティーヌ、という。家族や親しい人間は、アルと呼ぶ。王国でも一二を争う名門貴族、クインティーヌ侯爵家の嫡子だ。

 そして、一世を風靡した戦記モノのRPG《ラベル戦記~太陽王と呼ばれた男~》の主要キャラクターです。

 《ラベル戦記》てのは、ラベル大陸っていう同一の世界を舞台に繰り広げられるRPGで、シリーズが何本も出ている。その中でもファンに人気があるのが、シリーズ3作目に当たる《ラベル戦記~太陽王と呼ばれた男~》略して《ラベ太陽》だったりする。庶民出身の主人公が、王国の圧政に苦しむ人々を助け、悪の国王(実際は魔王に操られてた不憫な王様)とその背後にいる魔王をぶっ倒して王国に平和をもたらす、という典型的なヒロイック・ファンタジーです。

 いやー、懐かしいねぇー。《ラベ戦》シリーズは大好きで、特にこの《ラベ太陽》は思いっきりやり込んだ記憶がある。ちなみに大学生の時だ。やりこみすぎて、単位の取得がヤバくなったことは覚えているが、それを差し引いてもこのゲームに青春を捧げたことは、俺に取って間違いでは無い。俺の原点とも言える作品だ。

 …で、だ。俺は《ラベ戦》が好きだが、その中でも《ラベ太陽》が一番好きだが、この状況はいただけない。別にアルフォンソが嫌いなわけでは無い。彼は作中で主人公と人気を二分するほどの素晴らしいキャラクターだ。俺も彼のことは気に入っているし、仲間になってからはずっと使い続けていた。


 だがしかし、彼の生い立ちとポジションと主人公達と共闘するに至る過程が、俺に楽観視を許さない。


 この、アルフォンソという男、典型的貴族のご両親と弟妹に囲まれて、由緒正しい貴族になるべく生まれ育っていたはずなのに、どこかで突然変異を起こしてしまったハイパーミラクルな善人サマだったのだ。

 具体的に言えば、彼は、庶民であり、王国の圧政を許せずに立ち上がる主人公・ジュアとは、本来ならば敵対するポジションにいる人種だ。それなのに彼と意気投合し、二人協力して戦うことになる。その理由とは、アルフォンソが秘密裏にレジスタンスを組織し、腐敗している王国の暴挙を細々とながら食い止めていたことにある。

 いやー、驚くよな?田舎から出てきた主人公がさ、レジスタンスと意気投合して、彼らのアジトに出入りするようになって。彼らと普通に仲間として協力してた矢先に、ボスに会ってくれって言われるの。お前がボスじゃ無いの?って聞いたら、俺は副官だとか言うおっさんに案内された奥の部屋で、キラッキラの王子様系イケメン(しかもパレードという派手な行事で身分バッチリ確認してたがな)が出てくるんだぜ?


 で、だ。俺、今、その、アルフォンソ様なんですけど、どうしたら良いっすか???????


 主人公とアルフォンソが出会う頃、アルフォンソは公式設定で成人してた。ので、たぶんまだまだ数年後だと思います。恐らくは、この状況は、彼がレジスタンスを立ち上げ始めた頃じゃ無いかと思います。つまり、俺は、この後、主人公と出会うまでの数年、侯爵家の嫡子&レジスタンスのボスという二足のわらじを履いて、誰にも正体を掴ませずに、けれど仕事はきっちりこなさなければならない、と…???

 無理だ。どう考えても無理だ。詰みゲーすぎる。何より、情報が足りない!

 俺達は主人公サイドでゲームをするので、どうやったって、《仲間になる前》の情報は足りてない。アルフォンソがどうやってレジスタンスを立ち上げたのか、それを維持するためにどうしたのか、その間にどんなイベントが山盛りだったのか。何一つ、俺には知識が存在しない!

 今までの世界で俺が何とか出来たのは、殆どの場合、主人公と合流する直前に記憶が戻ったからだ。ついでに言えば、ここまでややこしい状況の人間になったことは無い!普通にゲームをプレイしてたら手に入る情報だけで、何とかなっていたんだぞ…?!



 …頼む。今回ばかりは、リセットボタンを押したい気分だ。


総員!とは違うタイプのゲーム転生(こっちは完全に死んで転生してます)をやってみたかったので、うっかりやらかしてしまいました。

書いてる当人が頭悪いので、難しい話は出来ませんが、頑張っていきたいと思います。

日本人石崎竜也改め、アルフォンソ様の戦いが始まるようです。

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