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ロゼ•クロムハーツ

空から降ってきたフェンリルが言葉を発した。そんなバカなことがあるかと思う。しかし、事実なのだ。確かに発したのだ。もう大丈夫よ、と。


謎は解明されるどころか深まるばかりだった。


もやもやが脳内を駆け巡っている中、突然、見上げるほどのフェンリルの巨体がポリゴン化し四散した。ポリゴン化したということは誰かが倒したと言うことになるのだが、その人物は不明だ。さらにおかしなことにポリゴン化したフェンリルが人になったのだ。詳しく言うとポリゴン化したフェンリルの体が四散した後にそこに人が現れた。


「…フェンリルが人になった」


もう訳が分からなかった。もし、この敵キャラ達が倒すと人になる設定であったとする。そうなると先ほど倒したサンダーバードも人になっていたかも知れないと言うことになる。そうなると果たして敵か味方か。謎は深まるばかりだ。誰かに名探偵を呼んで欲しい。


「なぁ、莢。フェンリルが人になったのかな?」


「わ、私に聞かれても分からないよ」


驚く俺たちを尻目に噂の人物がこちらに歩いて来た。近づくにつれてその姿が露わになって行く。


金髪でロング。瞳はエメラルド。歩くたびに胸がぷるんと揺れている。どっからどうみても美少女だ。


その美少女は俺たちの目の前まで来ると右手を前に差し出してきた。


まずい攻撃か? 早く戦闘準備を。


「莢! 構え―」


「―始めまして。私はロゼ。ロゼ•クロムハーツよ」


「お、俺は天音」


ん? 突然の自己紹介。ロゼと名乗る美少女はポカーンとしている俺の手を取って握手する。喋り方からして高貴な感じがした。


敵? じゃない? じゃあ一体…。


ロゼは莢にも自己紹介すると俺たちの前に立った。


「君はフェンリルなのか」


最大の疑問を投げかけた。もし、敵ならここで一触即発するかも知れない。


「ふふふふふふ」


え? 俺の質問っておかしかったかな。


「私はフェンリルではないわ。フェンリルは私が倒したもの!」


最大の謎がこの瞬間、解決された。フェンリルが人になったのでは無かった。この人物こそ、フェンリルを倒した張本人だったのだ。あぁ、焦った。今もまだ心臓が早い鼓動で血液を送り出している。


「ねぇ、この人敵じゃなさそうだよ」


莢が俺にしか聞こえないような小声で耳打ちした。


「あぁ、だが油断は禁物だ。いきなり襲ってくるかも知れないぞ」


ロゼの行動一つ一つを見逃さないように目を凝らす。何か武器を取り出そうものならすぐさま攻撃に移れる様にクエストの報酬の雷鳴剣エクレールを…。


しまった! まだ、報酬もらってない。仕方なしにさっきまで使っていたカッターナイフを(ふところ)に忍ばせる。


しばらく目を凝らしていたが、一向に攻撃に移る気配はない。攻撃に移るどころか画面を操作し、持ち物からアタッシュケースを出現させる。


ふーとため息を一つつくとロゼはカシャっとケースのロックを外し開いた。


中には高級そうな陶器のポットとカップ。そしてカップを置く皿が入っていた。全てをケースから取り出すとカップに紅茶を入れ飲み始めた。


「うーん。戦いの後の一杯は格別だわ」


どうやらティータイムのようだ。なんか見張っているのがバカバカしくなってきた。まさに時間の無駄だ。本人に直接敵か味方か聞くのが手っ取り早い。その後は臨機応変に行動しよう。


「あの…」


「ん?何?」


「ロゼは敵? それとも味方……なのか?」


ロゼはニヤリと笑うと紅茶を一口啜った。そしてカップを皿に置く。


「敵なら天音達を見つけた瞬間に()っているわ。それにこうして紅茶を飲むこともない。そうでしょ?」


そりゃそうだ。敵ならもっと前に俺たちを殺っている。姿を見たときに戦闘に陥っている。


「あぁ、そうだな」


「でしょ?」


そう言うとケースの中に手を突っ込み何かを探り始める。ケースの中を覗くと大量のお茶っ葉、ポット、カップが(ほとん)どを占めている。


「何を探しているんだ?」


ロゼはケースの中から小さな袋を取り出した。袋には日本語ではない文字で何かが書かれている。


「ティータイムといったら紅茶の他にお菓子もいるでしょ?」


「それ何?」


気がつくと莢がロゼの取り出したお菓子を食い入る様に見ている。


「これ? これは私の国の銘菓、ビスケットよ。食べる?」


「うん! うん!」


もはや、ロゼへの警戒を(おこた)り、自分から近づく莢。全く捕まったらどうすんだ。まぁ、ロゼは敵じゃなさそうだ。うん、俺もお茶をもらうとしよう。


「ふふふ、フェンリルが私に変身?  何よ、それ」


高らかに笑うロゼ。敵で無いと判断した俺たちはロゼのティータイムへのお誘いを受け、紅茶を一杯もらった。


「仕方ないだろ。フェンリルの破片とロゼの姿がちょうどマッチしてたんだから。それとこの紅茶旨いなっ」


「ほうほう(そうそう)」


ビスケットを口一杯に頬張り、俺の言葉に頷く莢。うまいからっていくら何でも食べ過ぎだろ。


「これはダージリンという紅茶の中でも有名な種類の紅茶よ」


「へぇ~、ダイジリンかぁ」


「ダージリンよ。ダージリン!」


ロゼがムスッとした顔で言う。ダージリン…日本語じゃない分覚えるのが難しい。


「ほーだよ。バージリンだよ。バカだなぁ天音は」


莢も言えてないのに。何でそんな上からなんだよ。


「おいっ! 莢、お前リスみたいな顔になってるぞ」


ちょっとした仕返しをしてやる。


「えぇ!?」


莢の慌てる様子を見て笑ったりして和やかなムードになったティータイムは終盤を迎えた。


「えーと、話はこの辺にして、私がここに来た理由を説明するわ」


やっぱり、何か意図があってここに来たのか。やはり、敵…か? 仲良しごっこは終わりってか。


「私は天音と莢がここに来る前にもうすでにいたの」


どういうことだ? もうすでにここにいた? この世界には最初に集まった俺たちよりも先にプレイヤーがいたって言うことか。


「俺たちの前にってことは、もしかするとロゼの前にもここに来たプレイヤーがいるってことか?」


ロゼは黙って頷いた。ということはこのデスゲームにはかなりの人数が参加していることになる。一体何の為に俺たちはここに集められたんだ?


「そして、数いる新規プレイヤーの中からあなた達を選んだのは」


「選んだのは?」


莢が真面目な顔つきでロゼの言葉をリピートする。


「一緒にいると楽しそうだからっ!」


「え?」


単純な理由でこけそうになってしまった。


「もっと何か理由ないの? 一緒にいるとゲームを早く攻略できそうだからとか。ボス戦での戦いが楽になりそうだからとか」


「う~ん。特には無いわね」


「はぁ…」


せっかく、新しいプレイヤーと出会って仲間になりそうだったのに。頼りにされてないなんて。


「まぁ、そう落ち込むことないんじゃない?」


リスのように顔を膨らませた莢が俺の肩をポンと叩いた。励ましはありがたかったが、リスの顔で言われると何か腹が立った。


「そうよ。楽しそうにもちゃんと意味があるわ」


「どんな?」


「私はここに来て色んな人を見たわ。プレイヤー同士でパーティを組んでゲームをひたすら攻略する攻略組。攻略を諦めてゲームの中の都市で生活を始めるプレイヤ-。プレイヤーはこの二つが大半を占めているの。しかし、そのどれにも当てはまらないプレイヤーもいる。それは全てに絶望した人たち。この人たちは平気で自分の命を絶とうとする。私はその場面にいくつも遭遇した。そこで私は思ったの。楽しさや何か面白いことがあれば少なくとも全てに絶望することはないんじゃないかって。だから、楽しそうだからっていう理由にガッカリしないで」


知らなかった。全てに絶望した人がいたなんて。そうだ、俺も莢がいなかったら今頃始まりの街で命を絶っていたかも知れない。仲間がいるから喜怒哀楽が表情となって現れる。仲間がいるから奇跡が起こり、希望がある。仲間がいるから。


「楽しそうだからか。いいじゃん。思う存分このゲームを楽しんでやらぁ」


「納得してくれたみたいね。そこで、私からのお願いなんだけど。私とパーティを組んで一つクエストに行ってもらえないかしら」


「いいぜ。今だけなんて言うなよな。今から俺たち三人はゲームをクリアするまでパーティだ」


「もちのろんだよ~」


「ありがとう。じゃあクエストの募集をかけるわ」


ロゼがメニューを開き、クエストの準備を進める。しばらくするとピコンとスマホが鳴る。開くとロゼからのパーティ参加へのお知らせだ。もちろんYESをタップする。次にクエストの情報が送られてきた。


クエスト名 城壁の破壊神 アレス


情報はこれだけだった。アレス…。どっかで聞いたことのある名前だが、どこで聞いたのだろう。


「ねぇ? 天音。破壊神だって破壊神、神だよ、神」


「あぁ、神だ。強そうだな。ロゼ、このクエストの情報は他にないのか?」


「強そうだなって、もう!」


さらっと流したら莢が頬を膨らませ、ムスっとした顔つきになった。


「あるのはあるけど、多分役にたたないわ。まっ、一応言うわね。このクエストはパーティ専用の特別クエストらしいわ。私が知っているのはこれだけよ」


確かにあまり役にたたない情報だった。こうなったらクエストを開始してからじゃないと何かをするにも情報不足だ。おっと、前のクエストの報酬を受け取っておかねば。


メニューを開いて報酬をタップする。雷鳴剣エクレールの画像が表示される。装備の欄をタップすると腰に鞘に入った雷鳴剣が装着された。雷をかたどった剣らしくカッコイイ。これで準備は万端だ。


「それじゃあ、クエストを開始するわね…。ねぇ、天音、防具とか回復アイテムとかって持ってる?」


防具? 回復アイテム? なんだそれ。そんなもんどこにあるんだ?


「いや、持ってないけど」


「はぁ!? 防具もアイテムも無しでクエストに挑んでたの? よくそれで生き残ったわね。逆に尊敬するわ」


何か知らないが呆れられた。何で? 回復アイテム持ってないことがそんないけないのかな。まぁ、防具はあったほうがいいけどさ。


「今から街に行くと時間がかかるから、分けてあげるわ。防具はクエストが終わってから買いに行くことにして」


ロゼが再びメニューを開き操作をする。しばらくするとアイテム、回復薬が十個ほど送られてきた。これが回復アイテム。画像だけ見るとすごく美味しそう。


「それじゃあ行くわよ」


「「おー」」


準備は整った。さぁ、かかってこいアレスとやら。ギッチョン、ギッチョンのボコボコにしてやるからな。


クエスト 城壁の破壊神 アレス 開始

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