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クエストNo.1 雷鳥サンダーバード討伐④ 乱入

荒野から急いで莢の元へと駆ける。早く、もっと早く。この際、筋肉痛になっても構わない。だから、間に合え、頼む! 限界を超えろ、須和天音!


「莢ぁー!」


気づいてくれない。目の前のサンダーボールに意識を取られている。気が動転しているのかもしれない。あれだけ巨大なものが迫っているのだ。気がおかしくならない方がおかしい。


「莢ぁーー!!」


莢を助けた後にすぐさま攻撃に移れるようにとカッターナイフの刃を出しておく。後は莢に当たる前に切ってしまえばいい。そんなプロみたいな事が簡単に出来るのかと言われると自信を持ってうんとはとても言いにくい。しかし、今なら出来ると思う。


あとちょい……よしっ! 間に合った。サンダーボールとの距離が発見時よりちと縮まっていたが間一髪で間に合った。


「良かった。間に合った。もう大丈夫だ」


莢の前に立ち、カッターナイフをサンダーボールに向けた。すると、カッターナイフが巨大化し始めた。


「!?」


変化が止まるとカッターナイフは即席の片手剣みたいになっていた。いわゆるつかの部分がカッターナイフ本体で刃がナイフの刃だ。


これが黒騎士の能力なのだろう。カッターナイフがちゃんとした武器に、片手剣になった。なんか面白い。


「おりゃあ~」


などと気合いを…入れるまでもなく、縦に片手剣を振ってみた。


なんだこれ? サンダーボールを斬った時の感触が豆腐を斬ったかのようだった。本来ならばあの巨大なサンダーボールなぞ、斬れるハズがないのだが。黒騎士の能力のおかげなのか切れ味も格段に上がっていた。


「もう大丈夫だ。さ…」


莢の方を向くと莢が倒れかかっていた。急いで莢の元へと駆け寄り抱きかかえる。


「莢っ! 莢っ!! さ…」


「すーすー」


どうやら、疲れて眠っているだけのようだ。莢の着ている衣服の汚れ具合から相当無茶をしたのだと推察出来た。


莢をサンダーバードの手がかからない安全なところまで運んだ。目が覚める頃にはクエストクリアの表示が出ているハズだ。だから、安心して休んでいるといいさ。


そしてサンダーバードに気づかれないように素早く移動する。いよいよ、雷鳥との一騎打ちだ。最初は優勢な武器がなく完全に劣勢だったが、今は同じくらいだと感じる。


「キシャアアアアオオオオオオオ」


片翼をもがれたサンダーバードが苦しそうに吠える。それは人間も同じだろう。だが、これはゲームだ。情けをかけるとこちら側が死んでしまう。


今まではサンダーバードの隙をつきながら攻撃の機を伺っていた。しかし、今は違う。俺には武器がある。武器といっても巨大なカッターナイフだが。ないよりはマシだ。これにより正面から攻撃することが可能だ。


「キシャアアアアオオオオオオオオ」


サンダーバードが飛べないことを学習したのか翼で飛ぶ事を辞め、二足で立ち上がる。そして鋭く尖ったクチバシを開き、サンダーボールの発射体勢に入る。バチバチと何かが破裂する音が空気中を通して振動する。


サンダーボールが発射される前に決着(ケリ)を付ける。巨大カッターナイフを握り締め、サンダーバードの動きを一つたりと見逃さないように視線を集中する。


サンダーバードの前足がかすかに動く瞬間を見逃さなかった。前足が動くと同時にサンダーバードに向かって一気に突撃した。


「喰らえぇぇぇぇぇ」


サンダーバードの横を通り過ぎるのと同時に前足に一太刀いれる。サンダーバードは前足にダメージを受け、崩れ落ちる。そして、溜まっていたサンダーボールが糸が切れたかのように制御を失い暴発した。


「うわっ!」


爆発の近くにいた俺は爆風に巻き込まれ地面に叩きつけられた。凄まじい衝撃だった。


かろうじて立ち上がることが出来た。しかし、左腕が機能していない。多分、ぶつかった衝撃で折れているか、一時的に麻痺しているかのどちらかが発症している可能性が高かった。


一方でサンダーバードも無事ではすまなかったようだった。爆風により引き起こされた砂煙が晴れ視界が良好となった時、サンダーバード自身から煙が上がっていた。間近で自身が作り出したサンダーボールを食らったのだ。相当なダメージを受けているハズだ。


今なら、後何連撃かすることで倒すことが出来るだろう。


爆風によりダメージを負った足を引っ張りサンダーバードに最後の一撃を決めに向かった。


「これで…終わりだ」


ギュッと握ったカッターナイフの細く。鋭い刃がモンスターの心臓部を貫いた。


「キシャアアアアオオオオ」


サンダーバードの最後の悲鳴が雷電峠中に響いた。そしてサンダーバードはポリゴン状となり四散した。遂に雷鳥サンダーバード討伐に成功した。


そして四散したポリゴン状の物体が何かの文字を作り出した。しばらく見ているとそれはクエストクリアという文字を作っていたのが分かった。


遂に俺たちは最初のクエストをクリアした。この喜びを早く莢に伝えたかった。


「おい、莢! 莢! 莢! 起きろ!」


横たわっている莢の体を右腕で揺する。すると、多少なりと反応が見られた。


「ん……。何? 朝?」


莢が目をこすりながら体を起こした。寝ぼけているみたいだった。


「ねぇ? もう朝? …ちょちょちょ天音。どうしたのそれ?」


慌てて俺の怪我を心配してきた。起きたり、心配したりと忙しいやつだ。


「これはちょっとね。そういえば莢が寝ている間にクエストクリアしておいたよ」


喜んでくれると思った。だが、莢の反応は俺の予想を反するものだった。


「えぇ~~~~~~~~!? 倒しちゃったの?」


「…うん」


「…私が倒そうと思ってたのに」


ガーン。クリアしたのにこれじゃあ意味が無い。仲が親展すると思いきや逆の方向に行きかねない。


「ごめん!」


これ以上、莢の機嫌が悪くなる前に謝っておこう。合掌のポーズをとり、頭を下げる。


「……」


莢からの返事は無い。これは非常にまずい自体だ。仕舞いにはパーティの解散も有りうるかも知れない。何とかして避けなければ。


「あのさっ!」


「―ごめんねっ! わがまま言って…ごめん。私じゃ倒せなかった。助けてくれてありがとね」


莢が目にキラリと光るものを浮かべながら満面の笑みを向けた。


「俺も莢の助けがなかったら最初に死んでた。それに莢がアイツを引きつけていてくれたから勝てた。ありが―」


♫~!!


突如、スマホから設定していない危険な匂いのする音が流れた。


「「何?」」


二人が顔を見合わせる。


スマホをタップしていくとお知らせが一件来ていた。


緊急


雷電峠に第一級危険生物 神殺巨狼(ゴッドイーター) フェンリルが降臨しました。

雷電峠にお越しのプレイヤーの皆様は十分お気を付けください。



フェンリル。確か神をも飲み込んだと言われる巨大な口を持つオオカミ。それがこのゲームにいるの? 奴と鉢合わせしないようにさっさとこのエリアから立ち去らないと。


「なぁ、莢。フェンリルに出会わないようにさっさとここから出よう」


「……」


「莢?」


問いかけに莢の返事がない。莢の方を向く。すると莢が何かを見ていることが分かった。さらに莢の体が小刻みに揺れている。


「莢? どうしたんだ?」


「あ、あれ」


莢が何かに向かって指を差す。莢の指が指し示す位置から巨大なものである事がわかった。


「あれ?」


何かを確かめるために視線を向けた。そこにいたのは、天まで届くかと思われる裂けた巨大な口。青く冷たそうな目。そう、つい先ほど届いたお知らせにあった第一級危険生物 フェンリルだった。


「フェ、フェ、フェンリル~~~!?」


早速、フェンリルと鉢合わせしてしまった。今の状態で戦うのは正直言って不可能だ。とにかく逃げなければ。


「莢! 逃げるぞ!」


「うん!」


莢の手を取ってフェンリルから逃げるために走り出す。どこへ向かえばいいのかははっきり言って分からない。だが、生き残るためにはとにかく逃げるしかない。


グルルルルルルルル。


背後からフェンリルのお腹を空かせたという意味のこもったような鳴き声が聞こえる。


「莢、大丈夫か?」


「うん。大丈夫」


機能しない左腕のせいでとても走りにくかったが、しばらく走ったところで気配がしなくなった。気になって振り返ってフェンリルの様子を確認する。


「あれ?」


背後にいたフェンリルの姿がなくなっていた。何か新しい対象を見つけたのか定かではないがとにかく助かった。


「もう大丈夫みたいだな」


「うん」


大丈夫だと思ったのも束の間、突如周りが暗くなった。


「何? 急に日が暮れた!?」


莢が顔をキョロキョロさせ、辺りを伺う。


すると空から何かが落ちてきた。砂埃が晴れたところでその正体が明らかになった。正体は消えたフェンリルだった。俺たちを追いかけていたフェンリルが空から落ちてきた。どうしてだ?


「もう大丈夫よ」


フェンリルから聞き覚えのない声がした。もしかしてフェンリルが言葉を発した?

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