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クエストNo.1 雷鳥サンダーバード討伐③ 第二ラウンド

 カーンと第二ラウンドのゴングが鳴った。さぁ、作戦開始の時だ。


 サンダーバードが他に気をとられないように莢に囮役をお願いした。精一杯戦ってくれている中、俺は隠れていた洞窟から数メートル離れた荒野にいた。俺の目的は武器になりそうなものを見つけ出すこと。そして、見つけたと同時にすぐさま莢の元へ向かいサンダーバードを倒すこと。


 ……すぐ見つかると思った。木の棒や石、武器になりそうなものがそこら辺に転がっていると思っていた。


 だが、その考えが甘かったことを痛感させられた。辺りを捜索したが、木の棒どころか石ころ一つ無い。何もないのだ。あるのは役に立つことは無そうなすすきに似た植物のみ。これほどまでに雷電峠に何もないとは思いもしなかった。


「ハハッ、こりゃ作戦ミスったかな?」


――ん?何だこれ?


 ふと触れたポケットに何か硬いものがあった。物は細長く、長さは大体ボールペンぐらい。


「こ、これは!?」


 ポケットにあった物。それはこのゲームに連れて来られた際、用心のために持ってきた文房具。


 名はカッターナイフ。あらゆる物を切り裂く。さらに刃が欠けるとポキッと折るだけで新たな刃が顔を見せる。現時点で最強の武器と言える。


「よしっ! これならあのサンダーバードさえ討伐できる。待ってろ莢!」


 カッターナイフを手に、来た道を行きの倍のスピードで駆ける。全ては囮となっている莢の安全が気にかかっているためだ。早く戻らなければ、急げ、早く、早く。もっと早く。


――頼む無事にいてくれ(さや)


● 雷電峠洞窟内、天沢莢サイド


――まずは、サンダーバードを逃がさないようにしなきゃ。


 天音(あまね)が武器を探しに行ったのを見届けるとパンっと顔を叩き気合を入れ、戦闘の用意をはじめる。


「天音は囮って言ったけど、私が倒してやるんだから」


 私が見つけたクエスト。私が絶対に倒してみせる。私のこの能力、(ヴェント)で。


 スマホの索敵(さくてき)によるとサンダーバードは雷電峠北東、雷電峠にただ一つある湖、レビンにいるらしい。全速力でレビンへと飛んでいく。ちなみにレビンは英語の古語で稲妻と翻訳するらしい。


「キシャアアアアオオオオオオオオオオ」


 レビンに着いてすぐ、サンダーバードに発見され威嚇される。だが、そんなもので動じる私ではない。


「吹き飛べっ! 風の矢(サジットヴェント)


 左手で仮想の弓を持ったふりをし、右手で矢を射る動作をする。この技は何も武器を持たなくても放つ動作をするだけで周囲の風がまとまり一本の矢のようになって放たれるという優れた技。


 先の戦いでもこの技を使って天音を助け出した。最初はSランク能力―黒騎士が当たった天音を羨ましく思った。だけど十分、この能力(ちから)で戦える。


「喰らえぇぇぇぇぇぇぇ」


 レビンの高台から風の矢(サジットヴェント)で地上にいる(サンダーバード)に向かって数本の矢を射る。放たれた矢は全てサンダーバードの翼に命中する。しかし、全体のたった10パーセントくらいしか削れなかった。


「そんなっ」


 再び矢を射る。しかし、サンダーバードの羽ばたきによって全て落とされた。サンダーバードは咆哮すると私に向かって羽ばたいてきた。


「空中戦はあんまり自信がないんだけどな」


 サンダーバードを迎え撃つために私も能力を使って空に浮く。今更ながらこの(ヴェント)という能力には戦闘にも、移動にも使える優れたものだと改めて気づかされる。


「さて、こっからよ。サンダーバードさん」


「キシャアアアアオオオオオオオオオ」


 サンダーバードもそれに応えるかのように咆哮する。そして先の戦いでも放ったサンダーボールをクチバシから吐き出す。


「遅いっ!」


 風の力を利用してサンダーボールをかわす。そしてすぐさまその風を攻撃に移す。戦闘面の特性としては攻防を瞬時に切り替えることができること。これがあればどんな敵が現れようが余裕だ。


荒ぶる風(ワイルドヴェントス)


 手の平に風をボール大の大きさに圧縮しその形にとどめる。そして、それをサンダーバードに向かって投げつける。風にのったボールは銃の如くスピードで飛んでいく。


「行っけぇ〜」


「キシャアアアアオオオオオオオオ」


 ボールはサンダーバードの右翼の付け根に当たり爆発する。圧縮された風は元に戻ろうとするときに嵐のような風を引き起こす。その作用で右翼が吹き飛ぶ。


 右翼を失ったサンダーバードは空中にとどまる事が出来ず地面に激突する。その衝撃で砂塵が舞い上がり辺りを隠してしまう。


「まだまだ〜。ほりゃほりゃほりゃ〜」


 攻撃の手を休めることなく落下したサンダーバードに向かって投げつける。砂塵のせいで全弾命中したかは分からないが、恐らくかなりの数が命中したはずだ。


「へっへーん、どんなもんだぁ。これなら私一人でやれたね。一人でクエストクリアしたって言ったら天音ビックリするぞ〜」


 とは言ったものの一向にクエストクリアの表示がされないのはおかしい。


 もしかしたらまだ生きていたりして。そんな思いが頭をよぎる。あれだけの数を投げたのにまだ生きている? そんなバカな話があってたまるものか。


「キシャアアアアオオオオオオオオ」


 前よりも勢いのある咆哮が辺り一面に響く。それに伴って大地も鳴動した。そこで私はここに来て初めて恐怖というものを感じた。たかがゲームだと思っていたのもあると思う。だが、これはデスゲーム。HPが無くなれば即死が待っている。もう私には今現在有効となるであろう攻撃手段はない。天音が間に合わなければ恐らく私は…。


 嫌だ。死にたくない。奴に会うまでは死ねない。奴に会って一発殴るまでは死ねない。


……天音、早く助けに来て…。今の私じゃあ残念だけどコイツには……。お願い。私を助けてっ!


 砂塵が落ち着き辺りが視界良好となる。怒り狂ったサンダーバードの咆哮が聞こえる。その中でバチバチと何かが弾けるような音が混じっていることに気づいた。


「しまっ!」


 気づいた時にはもう遅かった。目の前に巨大な、過去最大級のサンダーボールが迫って来ていた。


 は、早く逃げないと。いや、この距離じゃあ、もう逃げられない…。


「…天音。早く…来てっ!」


 もう自分の運命を信じるしかない。


 サンダーボールは刻々と迫って来る。遂に私の視界一面がサンダーボールになるほど、近くまで迫って来た。


 改めて見ると本当にデカイ。☆3の難易度でこんなに苦戦していてはゲームクリアには程遠い。まぁ、ここで終わるんだから。そんなの考えてもしょうがないか。


「はぁ、死ぬのは嫌だな…グスッ」


 最後は笑って死のう。あの人を一発殴れなかったのは残念だけど。…最後は…最後は。悲しみの涙が頬を伝う。でも…やっぱり、最後にはしたくない!


「莢ー!」


「!?」


 気のせい? 声が聞こえたような。暖かい声が聞こえた気がした。


「莢ーー!!」


 気のせいではない。天音だ。天音の力強く暖かい声が聞こえた。助けに来てくれたのだ。よかった。間に合った。


 ありがとう。私の黒騎士さん。


 私の黒騎士。天音は今まで見たことないほどのスピードでサンダーボールの前に来る。


「良かった。間に合った。もう大丈夫だ」


 そして、何かでサンダーボールを真っ二つにした所で天音が揺れる。疲れているのか? いや、私が倒れているのだ。


 天音は倒れかかっている私を抱えると耳元で(ささや)いた。


「良かった。無事で」


 その言葉で安心したのかそこで私は気を失ってしまった。

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