クエストNo.1 雷鳥サンダーバード討伐① 恐怖の雷電峠
死のゲーム、REVIVAL SKILLが始まって三日が経とうとしていた。二日たった時点でゲームからログアウトする方法は見つかっていない。全プレイヤーが望んでいることがそう簡単に見つかる訳がないことは百も承知だったが、改めて残念に思う。
「あのさぁ、このクエストやってみない?」
彼女、天沢莢がスマホのメニュー欄に表示されているクエストを指差して俺に見せてきた。
クエスト名、No.1 雷鳥サンダーバード討伐
それをタップしてクエスト内容を確認する。
クエスト名 雷鳥サンダーバード討伐
依頼内容
依頼人 雷電峠の村 ターミガン 村長、バレーノ
雷電峠では雷は特に気にすることのない日常的なものである。ターミガンはその雷を燃料にして村全体のライフラインを補っている。しかし、突如として雷電峠に出没した雷鳥サンダーバードがその雷を食べ始め村は非常に困っている。どうにかして雷鳥を討伐してもらえないだろうか。
報酬 雷鳥から作られた刀。雷鳴剣エクレール
報酬が剣か。Sランク能力の黒騎士にも相性がいい。やってみる価値はありそうだ。しかし、勝てるだろうか。
「難易度は…」
表示されている画面をスクロールする。
難易度は☆で表されており、最高が☆の数が二十個。このクエストは☆三個。簡単な部類に入るようだ。
「最初だし、様子見がてらやってみようか」
「うん。やってみよう」
すんなりクエストを受注することが決まった。
「それじゃあ、受注するよ」
スマホのクエストページの一番下に表示されている受注をタップした。
『クエストナンバー 1 雷鳥サンダーバード討伐が受注されました。十秒後、依頼場所へ転移します。準備を始めてください』
スマホのスピーカーから女性の機械音声が流れる。準備を始めてくださいと言われてもまだ何も始めていない訳で武器やアイテムなどそんなものは一つとして持っていない。であるから準備をすることは何もなかった。いずれはたった十秒の間に色々やらなければいけないんだよな。
そうして何もすることがないまま準備時間十秒が経過し俺たちは転移を始めた。転移する時、俺たちの体はポリゴン化されるらしい。
ゴロゴロゴロ。
転移が終わり、俺たちはクエストに書かれていた雷電峠にいた。雷電村ということもあって雷が多々あることは予期していたが、俺の予想を上回るほどの大音量の雷があちらこちらに落雷として落ちていた。
ゴロゴロガッシャーン。
「きゃあ」
莢が耳を塞ぎその場にうずくまる。小刻みに体が震えていた。
「今の結構近かったなぁ。大丈夫か? 莢ってもしかして雷苦手だったり……」
すると顔を上げた莢が目に涙を浮かべながら頷いた。やっぱりそうなんだ。
「何で苦手な雷のクエストを選んだの?」
雷が当たらないように峠近くの休憩小屋に避難した。そして、疑問を聞いてみた。
「それは……このクエストの報酬が…きゃあ。グスッ、天音の能力に役に…立つかもって…思ったから…」
莢はうずくまり顔だけを上げ涙混じりにそう言った。
「そこまで俺の事を考えてくれてたなんて。なんか嬉しいな」
本当に嬉しかった。自分が苦手とする雷をものともせず、人の為に行動することが俺にも出来ようか。答えは否だ。今の俺は自分が生き残るためにはどんなことでもすると思う。人を囮にしてでも生き残ろうとするはずだ。裏切ることもするかもしれない。でも、莢は知り合って間もない俺の事を考えてくれていた。なのに自分のことしか考えていない俺は、なんて情けない男なんだ。つい、三日前には俺が守るって言っていたのに。ここで変わらなければ男がすたる。俺が莢を守るんだ。
「嬉しいの…?」
「ああ、嬉しいよ。だから絶対クリアしような」
頬をほんのり赤らめた俺の言葉に反応し莢の顔にも笑顔が戻りつつあった。さっきまでと違い莢の頬をほんのり赤みがかっていた。よし! まずは莢を安心させることから始めよう。笑顔を絶やさないように。
ゴロゴロガッシャーン。
「いやぁ~!!!」
……。この雷はどうしようもないな。うーん。早く雷鳥を倒すしか方法がない…よな。
「う、嬉しいって言ってくれたし、私も頑張る!」
「わかった! 二人で頑張って雷鳥を倒そう!」
雷にびくつく莢の手を引きながら先を急いだ。道なき道を歩いて行く。しばらくすると雷の音もそこまで怖くなくなった。莢も少しずつだが雷に抵抗が出来つつあるようだった。
「うわぁ~」
「すげえ」
雷電峠のおそらく頂上であろう場所に辿りついた。頂上からの眺めは絶景だった。
いくつもの落雷が幻想的な景観を作り出していた。始めてこんな素敵な景色をみた。こういうのはおそらくゲームの中でしか見ることが出来ないだろう。
「そういえば、雷もう大丈夫そうだな」
莢が確かにと驚いた表情を見せる。
「これも天音のおかげだね。フフフ」
何もしてないけど。お礼を言われるとやっぱり嬉しい。莢につられて俺も笑った。自然な笑顔だったと思う。いい雰囲気だと思う。
さぁ、目的の雷鳥、どこにいる? 俺と莢が倒してやるから首洗って待っとけ。豪語して峠を降り始めたその時。
「キシャアアアアオオオオオオ」
雷に似た音と共に俺たちの前に巨大な黒い物体が上空より現れた。黒い物体は鳥だった。雷鳥サンダーバードのお出ましだ。
サンダーバードはその名のとおり翼が雷を帯びている。そして、ワニのような鋭いくちばし。赤くたぎった燃えるような瞳をもっていた。さらに触れると感電死してしまうかもしれない。慎重に戦いを始めないとすぐに全滅しかねない。
ここは俺と莢二人のコンビネーションが試される。
「準備はいいか? 莢」
「も、もちろん。準備はいいに決まってるケド…」
気の抜けた声に異変を感じ莢の方を向くと腰が抜けたのかへたり込んでいた。
おいおい、これヤバくないか? …仕方ない、莢が立て直すまで俺が一人で相手するか。
早くもピンチが訪れた俺たちをよそにサンダーバードの咆哮が峠中に響き渡った。