1 ✳︎ 歩きながら人間関係の定義はするべきではない。
1話目です。
どうぞよろしくお願い致します。
1月8日 訂正しました。
内容の大幅な変更はありません。
わたしと秋空優は恋仲ではない、と千歳明は考える。
では、その関係はなんなのか。
そもそも学校が違うからクラスメートとは言えないし、ただの知り合いにしてはわりと親しい。
「一体何に分類されるのか…」
平均より早めの測度で歩くと、紺色のスカートがそれに合わせてゆれる。腰に巻いたグレーのカーディガンも風になびいた。
シンプルなデザインのシャツとスカートを身をまとった千歳は、今年始めてそれを着た。つまりはそこそこ頭のいい公立進学校の、一年生だということを示している。
また独り言を、と少々反省しつつも、歩調は緩めない。目的の場所まで、あと少し。
そう、わたしと秋空の関係性についての定義だ、と思い直した。
知り合いよりは親しい。
だか、恋人にするには少し違う。
そこまで考えた千歳は、立ち止まって呟いた。
「じゃあ、友人……?」
「僕と君の関係性なら、友達以上恋人未満ってとこかな?」
やあ、今日はどうしたのと明るい声が後ろから続く。
「秋空、久しぶり」
千歳がくるりと後ろを向くと、今の独り言の関係者が立っていた。
明るい茶髪にほどよく癖がついており、にこにことした表情によく合っている。瞳の色は光を通すと緑がかった黒になる。着ているブレザーはとても質がよく、一目みて有名私立のものだとわかる。実際秋空は頭がよく、全国模試の順位は僅差で千歳に勝利した。
「叔父さんに言われて迎えに来てくれたの?」
仮にも後ろから声がかかったというのに表情の変わらない千歳。
「……千歳の驚いた顔がみてみたいよまったく。それにしても、そんな言われなきゃ迎えに来ないみたいに言わないで欲しいね」
と、秋空は苦笑する。
「はいはい。言わなくても迎えに来てくれるのね」
それよりなんで叔父さんの家こっちなのに後ろから来たの、駅の近くの公園で待ってたんだよ、ああ私そっちじゃなくてビル側から行ったんだごめん、と会話は続く。
千歳は、これは傍から見たらカップルなのかと薄ぼんやりと考えた。
ちなみに千歳も茶髪にくせ毛だ。しかし秋空よりくせが強く、ストレートパーマをかけても緩くふわふわとしてしまう。聞いたら秋空は入学式に速攻指導部行きだったらしいから、それよりかはましだとも言える。確かに秋空の茶髪は染めたかのように明るい。
その茶髪を秋風に揺らしながら、秋空は言った。
「今日は、叔父さんに用があるんだっけ」
いい紅茶の葉が入ったんだよって叔父さん喜んでたよと、続ける。
さすが女子力の高い秋空の叔父だけある。千歳はすこし感心した。
だが、正直本題は秋空にあるのだ。叔父さんへの用事は秋空に言付けて貰えばいい。
「いや、どちらかといえば秋空に用事かな」
「へえ、珍しいね。何の御用かな」
いつもの笑みで茶化す秋空を軽くスルーした千歳は、持っていた指定のバッグから何かを取り出した。
「秋空、うちの文化祭、くる?」
「え?」
いつもと変わらぬ冷めた表情で、千歳は1枚の画用紙を差し出した。
「わたし、文化祭実行委員なんだけど、チケット余ってるからって。来れないなら捨てるし。…あ、でもうちの高校にはさすがに知り合いいないだろうし、つまらないかな。」
とくに悲しそうにするわけでもなく、その水色の長方形をしまおうとする。
「いやいやいや、行くよもちろん」
「え、ああ、そうなの?」
少し首を傾けた千歳に、にっこり笑いかける秋空。彼女が気がついたときには、チケットはもう手に無かった。
「千歳のクラスは、なにをするの?」1年B組だったよね、と付け足す。
「そう。うちのクラスは劇だよ。それもミステリー」
「へえ!?」
千歳は秋空が何か言う前に口を開いた。少し微笑んでみよう、とらしくもないことを考えながら。
「楽しみにしててね」
秋空は少し目を逸らし、口ごもる。
「…ずいぶん自信があるんだね?」
「……脚本、わたしだから」
千歳は少し目線を落として言った。
「委員会の仕事にかかりきりだったから、脚本ぐらいかかせてもらわないとクラスの一員として示しがつかないなって」
千歳は自ら進んで委員に立候補するタイプではないが、誰も手を挙げなかった場合。それなら千歳は手を挙げる。あの誰かやるだろうって時間が無駄で大嫌いだから、が千歳の言い分だ。
まあただ一つ残念なのは、と秋空は呟いた。
「君を舞台の上で見れないことかな」
「………秋空、それ勘違いされるって」
「ええ?」
え、なにに勘違いされるの、ねえ、と尋ねる秋空に千歳は、
「鈍感にもほどがあるな……」
額に手を当てて嘆いた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。