脅し文句
「はあ?」
キーラは素っ頓狂な声を上げ、アレンの顔を見た。
「どういうことだい?」
アレンはキーラの視線には応じなかった。が、どこか人を試すような目でルーカスを見つめた。仕方なく、キーラも彼の方に顔を向ける。
「ウェントワース男爵が、ブランドン・ガーティンを殺せと俺に頼んできた。俺は、男爵に事情を聴いた」
「へぇ」
キーラは目を瞬いた。この男は、そういうやり方なのか。すると、彼女の考えを見透かしたようにルーカスは続ける。
「酔狂で聴いてるんじゃねぇぞ。俺は、そこらの悪趣味な野郎共とは違うからな」
「十分悪趣味だ」
「お前には言われたくねぇよ」
アレンの、珍しく――キーラにとっては珍しいが、ルーカスとはいつもこんな感じなのだろうか?――茶化すような言動を軽くいなし、彼はまた喉を潤した。
「俺は貴族やら、金持ち連中と契約する時は、事情を聴く。それで、こう言うんだよ。『俺が聴いた情報は、情報屋の奴らには絶対に売らねぇ。ただ、お客さんが金の力に物を言わせて俺の口を封じる気になったら困るからな。この情報は、口が堅くて、腕の良い一人の殺し屋に教えておくことにするよ。万が一俺が死んだら……後はわかるな?』って」
キーラは無言で眉間に皺を寄せる。こいつは、敵に回すと厄介な奴だ、と直感が言っていた。
「ま、ただのこけ脅しの時もあるし、本当に教えておくこともある……ブランドン・ガーティンの時は、相手が超大金持ちで、頭が切れるって噂のウェントワース男爵様だったからな。俺は、口が堅くて、腕の良い一人の殺し屋に、教えておくことにしたってわけ」
「……それが」
「ああ。お察しの通り、この男だよ」
ルーカスはにやりと笑った。
「俺が死んだからって、こいつみたいな我関せず人間が動くとも思えないけどさあ。ただの抑止力なんだから別によかったんだよ。口が堅くて、腕がまともならそれで」
あっけらかんとした口調だった。アレンも、特に反論はしなかった。
「……事情はわかったよ。どっちにしろ状況は同じだ。ブランドン・ガーティンはウェントワース男爵の雇った殺し屋に殺され、三年後に偽者が現れた。目的は不明だけど、ブランドン・ガーティンを殺した者たちへの復讐の可能性がある、ってことだろ」
キーラは淡々と言う。
「ええっ」
途端にルーカスはむくれた。
「殺し屋がどんな奴かって、重要じゃねぇか! こんなカラス野郎と、俺みたいな金髪美形を一緒にしてくれるなよ」
「自分で言うな」
アレンが一蹴した。キーラもルーカスに生温かい目を向ける。
「面倒くさい奴だね、あんた。何でアレンと馬が合うんだか、さっぱりわからないよ」
「馬が合うだと?」
アレンは不満気だが、キーラはだんだん面白くなってきた。今夜の彼は――あくまで彼にしては、だが――表情が豊かだ。
「殺し屋がどんな奴か気にするのは、小説の読者ぐらいのもんさ。そもそも、殺し屋が出てくる時点で、犯人当ての楽しみもなさそうだけどね」
「それを言っちゃあおしまいだぜ、キーラさん」
ルーカスは肩を竦め、続けた。
「それに、だ。ブランドン・ガーティンを名乗ってる奴の嘘を暴くには、殺し屋の容姿も結構使える情報じゃねぇのかな?」
何気ない調子で告げられた言葉に、キーラははっとする。
ルーカスは、満足気に口角を上げた。
「覚えてて損はない情報だろ? な?」
「はいはい、わかったよ」
「あ、はいはいって言った!」
ルーカスは鬼の首を取ったように、キーラねえさんを指差して笑った。