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笑わない男の、左手  作者: 柚木
Kと友情
7/19

ねえさん

「ごめんねぇ、キーラさん」

 侵入者改め、金髪碧眼のルーカス――所謂美形の部類であるが、如何せん第一印象が悪すぎた――は軽い調子で謝罪しつつ、出されたパスタを美味そうに口に運んでいる。フォークを持つ彼の右手は無傷だが、左手には生々しい傷跡が幾筋も残っていた。改めて見れば、男にしては少し長めの髪も、手入れはされていそうだった。ものぐさ故の伸び放題というわけではないらしい。先程は酷薄そうに細められていた青い目も、演技をやめた今は普通、いや、人並み以上に大きくぱっちりとしていた。

 そんな風に冷静に観察しながらも、彼女の怒りはまだ収まっていなかった。

「ごめんですんだら殺し屋さんも廃業じゃないのかい、え? “金の風”さん」

 キーラは嫌味をぶつけた。

「あんたもだよ、“黒い嵐”だっけ? 確かに、アレンにカラスってのはいい例えだね。これからそう呼んでやったっていいんだよ?」

 彼女は、アレンの全身を上から下まで睨め付けた。アレンは顔をしかめる。

「まあまあ、そんなに怒ることねぇだろ」

「怒って当然だ」

 珍しく、アレンが口を挟んだ。

「え、アレンまでこの人の肩持っちゃうの?」

 ルーカスは不貞腐れたように言う。

「あんな演技は不要だっただろう」

「ちょっと演出するぐらい、いいじゃねぇか」

「演出過剰だ」

「なかなか上手かったよな! キーラさん、完全に殺しに来たって思ってたもんな」

「殺気がわざとらしかったがな」

「何だよ、お前だってもっと早くバラせただろうが! 同罪だ同罪」

「だから、二人共に、怒ってるんだよ!」

 キーラは一言一句に怒りを込めて怒鳴りつけた。

 それにしても、アレンがまともに会話している。言葉にはしないが、キーラはルーカスに半ば感心していた。

「……とりあえず、あんた、口に物を入れたまま喋るんじゃないよ。誰かに習わなかったのかい?」

「習ってねぇよ」

 ルーカスはぶっきらぼうに答えた。

「ああ、そうかい。じゃあ、今、あたしが教えたよ」

 キーラがそう言うと、彼は一瞬呆けた顔をした。が、すぐに大げさなため息を吐き出す。

「あーあ、あんたみたいなのは、裏稼業なんか向いてねぇんだろうなぁ」

 ちょっと羨ましいよなぁ、とアレンに同意を求めるようにぼやくが、案の定アレンはどこ吹く風であった。

「向いてるって言われたところで嬉しくないよ。ほら、さっさと食べな」

「はいはい」

「はい、は一回でいい」

「うるさいなぁ、キーラ“ねえさん”は」

 口では悪態をつきながらも、ルーカスは随分楽しそうだ。


 アレンと自分が皿を空けたところで、キーラは聞いた。

「――で? あんた、本当は何をしに来たんだい、“金の風”さん」

 彼は口を開いたが、慌てて口を閉じ、しばらくもぐもぐとパスタを咀嚼した。意外と素直な奴だな、とキーラは心の内で微笑んだ。

「何か調子狂うなぁ……ルーカスでいいよ」

 口から物がなくなった彼は、頭を掻きながらそう呟く。

「へえ? 気に入ってるんじゃないのかい? “金の風”って渾名」

「最近呼ばれてねぇもん。何かむずむずするから嫌だ」

「そうかい」

 ルーカスは水を一口飲んで、言った。

「ブランドン・ガーティンを殺したのは、俺なんだよ」


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