表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑わない男の、左手  作者: 柚木
Kと友情
6/19

金色の旋風

 キーラは素早く立ち上がり、階段付近に視線を固定したまま、じりじりと後退した。その一方で、こいつはどこから侵入したのだろう、と冷静に頭を働かせる。

 彼女に余裕があるのは腕の立つ殺し屋が近くにいるからだった――が、肝心の彼は一向に動く気配がない。

「アレン」

 キーラは苛立った声を出した。侵入者に焦りを悟られようが、知ったことではない。

「さっすがぁ、“黒い嵐”さんは落ち着き方が違うねえ」

 皮肉と苦笑を含んだ声がそんなことをのたまう。キーラはつと眉を上げた。

「何だい、“黒い嵐”って」

「え? あんた、情報屋だろ? この殺し屋さんの渾名、知らねぇのか」

「知らないね」

「まあなぁ……しょうがねぇか、最近はもう渾名で呼ばれねぇもんなぁ」

 そこで一度口を噤むと、侵入者は階段に一歩足を踏み出したらしく、暗闇からぎしりと木の軋む音がした。

 キーラがアレンの過去を詳しく知らないのは、探らないように注意を払っているからだが、今はそんな反論をしている場合ではない。彼女はさらに後ずさる。

「知らないなら教えてやるよ。黒い目、黒い髪を持つ、カラスのような男。嵐のように、一瞬で現れて、一瞬で殺って、一瞬で消える殺人鬼。奴が通った後には死体の山だけが残され、草も生えない――それがこの男、アレンだよ」

「……嵐と言うか、台風みたいだね」

 無駄口を叩くと、侵入者はさらに一歩階段を降りて近づいてきた。

「ねえ、そんな奴に友達とか言っちゃうってさあ、あんた、馬鹿なの?」

 キーラは訝しげに顰めていた眉を、今度は吊り上げる。

「裏稼業のくせにな。笑えるよ……ああ、そんな怖い顔すんなって。わかってるよ、あんたは馬鹿じゃねぇ。だから、友達なんて嘘に決まってんだ。腹の底では、ただの情報源だと思ってんだろ?」

「……見くびってもらっちゃ困る」

「へえ?」

「こいつは、友達だよ」

 彼女は低い声で言い放った。

「――あたしを、タダで働かせるくらいには、ね」

「ふうん……じゃあ、ごめんね」

「は?」

「俺は殺し屋さんだって言っただろ? 何しに来たと思ってんだよ」

 次の瞬間、侵入者の全身が、舞い降りたように階下に出現していた。実際には階段を駆け下りたのだろうが、そんな音は全く聞こえなかった。

 すらりとした若い男だ。右手にナイフが握られている。

「へへ、俺だって“黒い嵐”さんには敵わねぇけど、“金の風”なんて呼ばれてたことがあるんだぜ?」

 そう言うと、顔にかかった金色の髪を鬱陶しそうに振り払う。確かに、彼の姿を形容するのに、金という単語は相応しく思えた。

「アレンを殺す気かい」

 キーラは言いながら、妙な引っ掛かりを感じていた。

 ブランドン・ガーティンの名を騙る奴は、殺し屋まで雇って、アレンをこの世から消し去ろうというのか。

 最も恨むべきは、ウェントワース男爵ではないのか?

 そもそも、実際に手を下した人間を知っているとは。

 ――まさか、本当に蘇ったとでも言うのか?

「くだらん」

 キーラの心を読んだかのように、アレンが呟いた。

 しかし、次の言葉に、キーラは唖然とする。


「いい加減にしろ、ルーカス。ふざけすぎだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ