夢と記憶のあいだ
それは、何度もみた夢だった。
夢の中の彼は作り物のように綺麗な顔で眠っていた。月明かりに浮かび上がるその表情は、少し困ったように微笑んでいる。
キーラは、いや、キーラの体は彼に縋り付いていたが、「キーラ」はそれを少し離れて見ているのだった。
夢の中で「キーラ」は、これは夢だ、と認識していた。
夢と、忘れていたい現実との相違にも、いちいち気づいてしまった。
初めてその夢を見た後、本当に作り物であったら良かったのに、と嘆いた記憶が蘇る。
――本当は、彼の顔がもっとずっと歪んでいたことまで。
――本当は、あまりに恐ろしくて、彼に縋り付くどころか指一本触れられなかったことまで、はっきりと覚えている。
――本当は、彼が死んだのは――
「あんたが、アレン?」
キーラは目の前に現れた少年を見て、訝しんだ。彼女が呼び出したのは、「最も凶悪な殺し屋」と評判の男のはずだ。
「何歳なの?」
「十五だ」
「あたしより一つ若いじゃない。本当に、ひとごろし、なの?」
「ああ」
簡潔な返答だった。
「依頼は?」
「友達が……、死んだんだよ」
彼は黙ったまま、先を促すように頷いた。
「……殺された、みたいなの」
「誰に?」
「そんなのわからない」
「依頼は復讐か? だったら標的の情報を持ってくるのは当然だろう」
常識だと言わんばかりの彼に、キーラは苛立った。
「そ、そんなこと言われたって……」
「持ってこられないなら、依頼は受けられない」
「でも……」
「もういいか? 俺は暇じゃない」
ぶっきらぼうな言い方だった――まあ、それが彼の普段の喋り方であることに、キーラはすぐ気づかされるのだが、この時は気に食わない奴だと思った。
「ちょっと、待ってよ!」
帰ろうとする後ろ姿に叫ぶ。
「……調べれば、やってくれるのね?」
彼は首だけで振り返って、キーラを見つめた。
「さあな」
「え? どういうこと?」
慌てて聞き返すも、アレンは踵を返し、去っていった。
それが、二人の最初の接触であった。




