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笑わない男の、左手  作者: 柚木
Kと友情
11/19

琥珀の海 1

 一週間後の定休日までに、キーラはブランドン・ガーティンを騙る宗教家とのコンタクトを試みた。情報屋の情報網を駆使すると、信者何名かには辿り着くことができた。

 彼女は、レストランに出入りするスパイに伝言を頼んだ。「あんたを殺した人間の居場所を知ってる」という実に端的なメッセージだったが、彼の目的が復讐だと仮定するならば、興味を持ってもおかしくない。

「いらっしゃいませ」

 その女は、ふらりと店に現れた。

「ブラックコーヒー頂戴」

「かしこまりました」

「ねえ、あんたがキーラさん?」

 女が蓮っ葉な口調で問う。

「……そうですが」

「伝言だよ。明日、琥珀の海で」

「……それだけかい?」

「うん。そうだよ」

 あまりにもストレートだ。謎かけのような反応を期待していたわけではないが、少し意外だ。と言っても、キーラの方からシンプルな伝言を送ったのだから、当然とも考えられる。彼女はじろりと女を睨んだ。

「ねえ、早くコーヒー出してよ」

 女は笑いを噛み殺すような顔で言った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 定休日、キーラは大通りの分かれ道を、今日は右に進んだ。右に進めば、道の左右に高級宿屋が立ち並んでいるのである。

 今日を指定し、レストランにきっちりと伝言を届けてきたところを見ると、ブランドンたちは彼女のことを調べ上げているのだろう。

 キーラは「琥珀亭」の前で足を止めた。

「琥珀の、海、ね」

 躊躇いなく、両開きの扉を押し開ける。

 たちまち、ボーイが寄ってきた。

「あの、この宿屋に、海の名前がついた部屋はありませんか?」

 ボーイは一瞬訝しげな顔をしたものの、すぐに口を開く。

「海、でございますか……お部屋はございませんが、地下のラウンジが、『菫色の海』と申しますが」

「ありがとうございます」

 キーラは礼を言い、地下へ降りていった。

 階段は高級宿屋らしく豪華で、細かい細工の施された木の手すりは、しっかりと磨き上げられていた。

 地下のラウンジの内装も、フロントより凝っているぐらいだ。壁紙やソファーは落ち着いた紫の色調でまとめられている。キーラは適当なソファーにかけ、辺りを見回した。それらしき人物どころか、まだ一人の客もいないようだ。

 彼女は手を挙げてウェイターを呼び、レモンティーを注文した。


 果たして、現れたのは、またしても女だった。

 黒衣に身を包んだ――キーラにとってはある人物を思い起こさせる風貌だったが――その女性は細い声で、しかし妙な威厳をもって、こう言った。

「ブランドン・ガーティン様はどなたにもお会いになりません。わたくしが代わりにお聴き致しますが、わたくしの言葉はブランドン様のお言葉と相違ございませんので」


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