Is this a prologue, or……
山間の村の朝は冷え込みが厳しく、温暖な街からやってきた彼女には辛い。
朝もやの中、見えるのは木立ばかり。聞こえるのは、これから眠りにつくのであろう小動物達の足音だ。姿が見えず、林をがさがさと歩き回る音だけが聞こえるのでは、例え音の主が小動物であろうと、愛らしいとは思えない。
ここへ来てすぐの頃、怯える彼女に、あれはリスとか、可愛らしい生き物の足音だよ、怖くなんかないよ、と諭してくれた子供がいた。それこそ小動物みたいな、くりくりした眼の可愛い子だった。
彼女は簡素な服に着替えた。やはり寒いので、ストールを羽織る。自室の扉を開けると、途端に強い風にさらされ、彼女はストールを強く体に巻き付けた。白い息を吐きながら祈りの間へと向かうと、既に修道女達が揃っていた。
「リア」
咎めるような声色で呼ばれた名に、彼女はまだ慣れない。修道院長は厳めしい顔で追い打ちをかけるように告げる。
「遅刻ですね」
彼女は黙ったまま俯いた。
「早くしなさい」
小さく頷いた時には、修道院長はもう彼女に背を向けていた。
――ここは、つめたいところ。
――神様がいらっしゃるのに?
――かみさまなんて、いないよ。
――どこにも、いなかったんだ。ずっと。