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暁は息を呑みバルコニーへ出る。後ろからシェアリングとアルセイードが抱きとめた。
「アルハザート!」
炎を吐こうと口を開けた赤龍の眉間に、現れた人影。
暁には見える事ができた。
足の先が炭化し、身体中火傷を負っているその痛々しい姿。
それでもなおアクアの槍を振りかぶるアルハザート。
だがその姿は…
「人型? …なぜ…? 半身がアクアになる同化をすればもっと強くなるのに…」
世界を守る理由を知った今の俺なら、もっと強くなれる。
アルハザートはそう言っていなかったか?
では今、アルハザートは…
赤龍の眉間にアクアの槍を突き立てる。だがこれしきの攻撃で大人しく死んでくれるとは思っていなかった。
何度も繰り返し串刺しにしていく方法しかないだろう。
さらなる同化をすれば、あるいは一撃で倒すこともできるかもしれない。
炎に巻かれた獣騎士のなかにそれを望む声もあった。
だができないのだ。あれきり、できなくなってしまったのだ。
理由はわかっている。
…俺は…俺が守りたいのは…世界よりも………
だがそれを認めてはいけない。彼らはナイアーラトテップなのだ。世界を守る者なのだ。
その葛藤が、歯止めをかけている。
だからアルハザートはさらなる同化ができない。
お前のそばにいけば強くなれるだろうか。
ナイアーラトテップであることを忘れ、ただ守ることのみ考え………ああ……だがもう、手に力が入らない。
それでもなんとか赤龍の額にアクアの槍を突き立てた。己の血で手は滑り、足首より下のない足はもう立つこともできない。
魂の終焉。
アキラ…。
遠く、そびえるアザトース城。身体を炎に包まれながら視た。
愛しいその姿。遠く、遠く、泣いている姿。
なぜ、こんなにも自分が、守りたいと渇望したのか…ようやく…わかった気がした。
「アルハザートぉ!」
ナイアーラトテップ、全滅。
愕然として座り込む暁を、アルセイードが支えた。
彼もまた、見えなくとも弟の死を悟っていた。
コアアアアアアァァァォォオオオオ
赤龍は激痛に身悶える。炎を巻き散らしながら世界の空を暴れ回る。
ナイアーラトテップに隣接する街、バルサイとインクアノクはすでに炎に包まれていた。
そして今、クトゥルー、ハスター、ノーデンス、シュトリ…と世界の城街は次々に炎の餌食と化していく。
法学館のあるイリオン城とヴーア城は結界を敷いたのか、多少炎を回避したものの結果は同じく炎に包まれた。
世界は炎によって燃え尽くされようとしていた。
世界の中央、ウルヴァーハンプトン湖はその世界を忠実に映し、血の色に染まっている。
赤龍は、唯一炎に染まらぬ城に向く。
王城アザトース城。
「アルセイード王、奥へ!」
ヨグ=ソトースが叫んだ。だが奥に逃げ込んだからといって炎を免れるとは思えない。
シェアリングが暁を引き寄せ奥へ連れて行こうとする。
「嫌…嫌だよ……」
大切だったナイアーラトテップ。そこから逃げ出した理由は守る為だった。でも今、目前の光景はそれが正しくなかったことを皮肉っている。
私だけが、生き残っている。
この場所を離れても、なんの解決にもならない。自分だけが逃げ出してなんになる
「せめて…お前だけでも」
アルセイードの呟きが届く。シェアリングごと覆いかぶさってきた。
王である力など、なんの役にも立たぬ。
空は暗雲立ち込め、豪雨が地を濡らそうとしていた。しかし赤龍の吐く劫火によって白い靄となり死にゆく世界を優しく包むのみ。
せめてひとりでも多くの民を、この身体でもって生かすことができるのであれば……!
そうだ、とリヴァイアの呟きが聞こえ、さらに重みが増す。剣を投げ出す音と共にまた重くなった。ヨグだ。
刹那の静寂。暁の嗚咽のみが響く。
グュォォォォォォォオオオオオオ
くる、と誰もが知った。
拡張した暁の意識が、一瞬にして吹き飛んだシュブの結界を感じ取った。彼女の身を呈しての結界。
かけがえのないものが、瞬きすら許さぬ勢いで消滅していく。
襲いかかる爆風。熱風のみで死に至らしめることができるだろう。それほどの威力。
私は…なぜ、ここにいるんだろう。
ここにいることが一番いいのだと思っていた。私がここにいればすべてはまるく納まるのだと、思っていた。
大切だったナイアーラトテップ。
愛しい世界。
その全てを…守りたかったから、だから私は…
シェアリングが暁を強く抱き締めた。熱風が、もうすぐそこまできている。アルセイードの歯をくい
しばる音が聞こえた。激痛をこらえているのだ。
守るために、ここにいる。




