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 ヨグとリヴァイアが奥へ向かって走り出した。シェアリングとアルセイードもつられて走る。


「ふ・服が違ぁう! じ・じじいまさか、てめーが…」


 蝦夷えぞと同化した暁は身体の不調が回復する。

 王と長官が駆けつけ、そこで見た光景は宙に浮かぶ三人と亀裂だらけの部屋だった。

 ヘリオドールと同化したアズーアが力の加減を見る為に少々魔法を使った結果だ。

 ヘリオドールとの同化によって、魔法を行使する源である力の量だけでなく、その威力までが増幅していた。


 ぎくぅ、と暁の横に浮かぶアズーアの精神体が身体をこわ張らせた。

 暁がルルイエから帰還し、負傷していたのを治療したあと暁の服を着替えさせたのはアズーアだった。


 暁はそんなアズーアの様子に気づかずスーク神官を睨んでいる。

 アズーアはヘリオドールから力を借り魔法を使ってスーク神官の身体を拘束する。

 力が完全に回復していなかったアズーアはナイアーラトテップを守り通すことができるほどの強力な力を手に入れるために、鑑定を受けたのだ。

 彼なりに己の実力の限界を知り、考えるところがあったらしい。


『さ、どうぞ。今の内に…』


 アズーアに言われるまでもなく暁はスーク神官を蹴りあげた。


「この変態エロじじい!」


 スーク神官は贅肉をたるませつつ落下した。


「…一応牢屋から出してくれた礼は言っておきます。ありがとう」


 床で気絶したスーク神官に頭を下げる。


『牢屋!?』


 暁は慌てて口を押えたがそんなことで言ったことが消える訳でもない。


「あ。シェードとセイだ」


 この部屋の入口で呆然と見上げている四人に気づく。


『ごまかさないでください! …そんな…牢屋などに入れられていたのですか?』


 暁は気まずそうにアズーアから視線をはずし、そろり、と四人のそばに舞い降りた。


「でも…私が牢屋に入る事でこの世界の偉いひと達が安心して、ナイアーラトテップを攻撃したりしなくなるのならいいんじゃないかと…」


『一生牢屋で過ごすつもりですか』


「…そのうち、どうにかあっちの世界へかえれるんじゃないかな……と」


 消極的すぎることはわかるが、ほかにどうしていいか、などわからないのだ。


 王と長官達はアズーアからかばうように立つ少女を見た。


 なにやらこの娘に関して考え違いしていたようだと、シェアリングとアルセイードは知る。


『…そしてそのままこの世界から去るつもりですか?』


「まさか! …また落ち着いた頃にこっちにこれるよう蝦夷に頼もうかと思ってた」


 アズーアは哀しげに暁を見た。


『いつ帰れるかわからないのに…それまで牢屋ですごすつもりだったのですか?』


 応えられない暁を見てアズーアは首を振る

『そんなことに私は耐えられません。…アルハザートも…エリュオナだって見過ごすことなどできないでしょう。ナイアーラトテップに戻り、アルハザートを呼んできます』


 アズーアがなにをするつもりなのか即座にに悟った。シュブとアルハザートの会話で気づいた。アルハザートはどうやら強い権力を持っているらしい。それをアズーアは使わせるつもりなのだ。


 いつか『門』の間で言っていたもの!


「やめてアズーアさんっ アルハザートは権力を使うのが嫌なんだよっ」


 アズーアは笑って暁を見た。


『あいつは貴女のためになら出し惜しみなどしませんよ』



 

       ゴゴゴゴゴ…



 

 突然、振動が床から伝わってきた。


「な・なんだ!?」


 ヨグは意味もなく抜刀する。


「ただの地震じゃないの?」


 暁は動揺する長官達を見て呟く。

 地震の多い国で育った暁はこの程度の揺れで動揺することはない。


『こちらの世界に地が振動することなどありません。まさかナイアーラトテップにな』


 アズーアの姿がかき消えた。

 その突然の退場に暁は違和感を感じる。


「なにをボサっとしているんです! さっさときなさいっ」


 シェアリングは乱暴に暁の腕をつかみ、駆け出す。


「痛いよシェード。飛んでついていくから離して」


 長官達は神殿を駆け抜け出口に向かう。


「……なあ、ずいぶん親しげだがそういう仲だったのか、お前ら」


 長官達に囲まれながら神殿を脱出するアルセイードが、暁とシェアリングを見比べつつ言う。


「あ!」


 やべ。今はミワーキラだった…。


 口を押えつつ彼らの頭上を飛び越し真っ先に神殿を出る。

 視界が開けた。眼下には城へと向かう階段がある。王城を見下ろす位置に神殿はあったらしい。世界を見渡せる位置にだ。遠く染まる空の色をそれゆえに見る事ができた。


「・・・・!」


 声のない叫びを上げ、暁は虚空に佇んだ。


「ナイアーラトテップが」


 リヴァイアの叫びが駆ける。


「燃えている…?」


 そんな馬鹿な、とヨグは呆然と赤く染まる空の下ナイアーラトテップを見た。


「そんな……あれは……魔物…」


 蝦夷と同化した暁の視力は異常に発達していた。炎に舐め尽くされたナイアーラトテップ城群を見ることができるほど…。


「なに!?どういうことだ!」


 シェアリングが詰問する。


「狂った『門』から…大きな魔物が顔を出している。口から炎をまき散らして…」


 龍に似た魔物。けれどアルハザートが倒した魔物とは大きさと色が違う。あの龍よりこの魔物の方が大きく、赤い。


「ナイアーラトテップはなにをしている」

「『門』が狂うだと!? どういうことだっ」

「皆…炎で焼かれてしまっている…城も崩壊して……『門』が狂っているから…閉じることができないから……」


 問われるままに暁は応える。


 炎の中に黒い影がある。ひとであったものだ。そのあまりの数に絶望を知る。


 アズーアが不可解な消え方をした理由に思い当たり、暁は身体を小刻みに震わせた。


 まさか…皆…


「どこへ行く! 戻れっミワーキラ」


 背後でアルセイードが叫んだが、暁には届かない。

 無意識の内にナイアーラトテップに向かっていた。

 炎の柱が立った。激しく地を震撼させその口から炎をまき散らし、赤龍はこの世界へ侵入してくる。


「アキラ!?どこへ行く気です!」


 アザトース城から人影が近づいてきた。

 獣魔法使い、シュブ=二グラス。


「アルハザートが! 皆が!」


 叫ぶ暁を腕に抱き留め、逃げないよう抱える。そして王と長官達のいる場所へと移動する。


「アズーアさんが消えたのっ 消えてしまったのっ 皆・・・アルハザート…」


 アズーアが消えたのは、その肉体が滅んでしまったから。『門』を守っていたアルハザートは、真っ先に…その身体を炭とされてしまったに違いない。


 シュブは愛おしげに暁を抱き締め、シェアリングに渡す。


「アキラを、頼みます。お早く王城へ…私が結界をはりますゆえ」


 一礼するシュブの姿は、風に飲み込まれる 最終の同化。同化している魔物の姿になる。


 リヴァイアとヨグは頷くとアルセイード王をかばうようにして王城に向かわせた。

 呆然としていたシェアリングとアルセイードは二人に諭されようやく走り出す。


 ミワーキラが…アキラ


「離して! 離せってばーっ シェードっ!私はナイアーラトテップに」


「お前が行ったとて何の役にも立つまい」


 アルセイードの言葉に、暁ははっとする。


 そう…邪魔だからこそ…足手まといになるからこそ、私はナイアーラトテップを出たんだ。彼らに迷惑をかけたくないから…。


 その彼らナイアーラトテップが今、完全崩壊してしまっている…。


 万全でなかったナイアーラトテップは、あの巨大な魔物に打ち勝つことができなかったのだ。


 その原因は


 暁を抱き上げる手に、冷たいものが落ちてきた。


 涙。


 シェアリングは責めるようにアルセイードを睨む。

 アルセイードはしまった、と顔にでかでかと描き、困ったように暁を見る。


 だが何も、言う事はできなかった。

 ナイアーラトテップのあの現状を見て、気休めなど言えるはずがなかった。


 四人は城内に駆け戻ると、見晴らしのいい王室へとまた階段を駆け上がった。


 途中暁が降りる事を申し出たが、シェアリングは承諾しなかった。

 地響きはなおも続き、四人が王室にたどり着いた時には赤龍は腹部まで現れていた。


 ナイアーラトテップ城群の周りに張られた結界『檻』は、赤龍のひと吐きした炎で消し飛んでしまった。

 


 キュゴオオオオオオォォァァアアアア



 

 赤龍の咆哮と同時に、地響きがおさまった 身体がすべて、この世界へと現れたのだ。

 崩壊し、炎に包まれたナイアーラトテップ城群上空、とぐろを巻く炎の色をした赤龍の姿は、今や誰の目にも見る事ができた。


 ナイアーラトテップより最も離れた、アザトース城でも。


 誰もがその恐ろしい姿に絶句した。


 あんなモノと戦っていたのか、ナイアーラトテップは。


 今更ながら、世界はナイアーラトテップの重要性を知る。


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