二人の先輩と突っかかり少女
入学当日、大河は朝からテンションが急降下で下落中だった。なにせ自らの意思で入学したいとは言ったものの”女子”校とは聞いていなかったのだから
「で?これを着ろと?」
「はい♪絶対似合いますよ!」
「似合わなくて結構なんだが…」
「では、行きましょうか♪」
「わかったよ…」
大河は溜息を深々とつくがルナシアは気にした様子はなく、ぐんぐんと大河の腕を引いて進んで行く。為されるがままに学校へと引っ張られていく。しばらく進むと徐々に人通りが増えてきた、そして人が増える度に大河の頬に赤みが差してきた。
片や顔を朱に染めている少女、片や今にも鼻歌を歌いだしそうな少女。もう周りから注目を集めるのには十分で、しかも片方は校長の娘、逆に注目を集めない訳がない。視線が集まれば集まるほど大河の顔が真っ赤になっていくわけだが、その姿を見る周りがその表情にふにゃんと顔を緩めたりしている。
「は、恥ずかしい……」
「注目されますね~。やっぱりティルさん可愛いですもの」
「いや、男の俺としてはそんな事言われても嬉しくな…あだ!?」
「ティルさん!言葉遣いには気を付けてください!貴方は今女の子なんですよ!?」
「あ~はいはい。りょーかいしましたよ」
「本当に分かってますか?」
「分かってますとも、表面上だけは気にしておきますから」
「心配です……」
「ルナシア?そろそろ着きますよ?」
「ああ、はい。それじゃあまた後で会いましょう」
「それじゃあ」
ルナシアを見送る大河の顔は笑顔だったが、ルナシアの姿が見えなくなると仏頂面に戻ってとぼとぼと歩き始めた。
「たく、猫被りすんのはいやだってーの」
「あの……」
「そもそもよ。女学校って知ってたら入るわけねぇしさ」
「すいません」
「あ?」
「ひうっ」
「あ~、いや、ごめん。どうしたの?」
「えっと…1年生のクラスは北舎ですよ」
「あぁ、そうなの?わざわざありがとう。そうだ、俺ティル・インセインて言うんだ。よろしく」
「あ、あう……クリス・アーメシアです。2年です」
「先輩だったか……失礼しました。それと教えていただいてありがとうございます」
「いえ…それと普通に喋っていただいてもいいですよ」
「マジ?じゃあよろしく」
そのまま北舎へと向かう大河にポカーンとその場に放置されてしまうクリスは少し抜けていたりいなかったり
教室に着いたティルは自分の席を見つけるとクラスメイトになった他の生徒に目もくれずどかっと座って窓から空を眺め始めた。周りでは他の生徒と雰囲気の違う大河を話題にひそひそと話し始めたが、それを気にするそぶりを全く見せず、ぼーっと空を流れる雲を見てあれは犬か?なんてどうでもいい事を考えていた。
だが、そういう中立の立場の人間を仲間に引き入れたがる人間は居るもので、空を見ていた視界が制服によって遮られた。あきらかに不機嫌そうな表情で雲鑑賞を邪魔した人物の顔を見上げる。ウェーブのかかった金髪の碧眼の少女が気の強そうな瞳で大河を見ていたがそれを気に留めもしないで席を立つと教室を出ようとしたが手首を掴まれた。
「その行為はあまりにもご挨拶じゃない?」
「そうか?そろそろ入学式が始まると思うんだが、行かなくてもいいのか?」
「あら、もうそんな時間?」
「わざわざ教えてやったんだ。そろそろ、その手を離してくれないか?」
「そうね。気付かなくてごめんなさい」
少女の態度に鼻で笑ったが振り返らず大河は講堂へと歩みを進めた。講堂へと入ると香水の香りが漂ってきたが、人数のせいで凄い事になっており大河は顔をしかめた。空いている席に座ると腕を組んでもう寝る準備は完璧だったりするが後から来た先ほどの金髪碧眼の少女が隣に座った事で片目を開いてそちらを見た。
機嫌が悪いのが分かる笑顔を向けられて大河は目をすっと細めた。校長であるルナシアの父が何やら入学する時の心構えを説いていたが興味のない事だったので大河は睡眠を取ることにしたらしい。
――――
ちょうど入学式が終了する頃に目が覚めた大河は終わったとすぐに席を立ち、来る途中に見つけた居心地が良さそうな場所へと向かった。
目当ての場所にはすぐに着いた。学校の敷地内で最も大きな木の下である。根元に座ると猫のブレイヴを呼びだして胡坐をかいた足の間に寝転がして撫でながらまた空を眺め始めた。
「あら?そんな所で何をしているの?」
声のした方を見ると見るからに上級生の少女が居た。大河は愛想笑いを浮かべて、空を見ていたんですと答えると微笑んで隣へ腰をおろした。
「貴女、新入生?」
「はい。そうですけど…なんですか?」
「新入生なら校内を案内してあげようかなって思って」
「いいんですか?初対面のはずですけど」
「いいのよ。上級生ですもの」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「ですって、いいわよね?クリス」
「は、はい。大丈夫です。ユウさん」
「もうっ、敬語じゃなくていいっているのに」
「えっと……」
「ティルさんよね?クリスから話は聞いてるわ。だから普通に話してくれていいわよ」
「はあ、いいならいいけど。仮にも上級生相手にタメ口やらなんやらっていいのか?」
「私が良いと言ったのだから私達相手の時は素を出していいのよ」
「ならいいが……」
あまりにも上級生ぽくない態度で困惑気味だったがそれならそれでいいかと割り切った大河は速攻で態度を変えた。
その身替わりの速さにユウは一瞬呆けたが、すぐに先ほどまでの態度に戻った。根元に最初は大河一人だったのが数分後には三人に増えてと当初の予定とは違うが大河はのんびりとブレイヴの背中を撫でて楽しそうに話すユウとクリスを見ていた。
遅くなりました m(_ _)m