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ウェストニア書史  作者: 熊海苔
序章:黒と白
4/7

勇者と落ちてきた少女

 少女二人を地上へ運び終わる頃には、ティルは感情が全て取り戻していた。そのためか、少し性格が変化していたが本人はこれからどうするかについて考え込んでいたため、自覚していなかった。


 そもそもだ。ティルはインセイン遺跡に居たため帝都どころかこの国の国民ですらないのだ。だが、現状は少女二人の面倒をみなければならない上、金銭と住居が必要なのだ。

 その事でテイルは王族に借りでも作らないと無理だろうなっと考えていたりする。


「どうしたものだろう?なあ、アル」


 あまりにも良い案が浮かばないせいかアル・ブレイヴに聞くしまつだ。と、話しかけていると黒髪の少女がぴくりと身じろぎをしたのに気が付いたティルは彼女へ近寄った。


「うぅ…ん」

「起きたか?」

「貴方は?」

「俺はティル・インセインだ。君は?」

「私…?私は…誰?」

「記憶喪失?まさか二人共?」

「そうだと思う」

「そうか…なら、その子が起きるまで待とう」


 結局、もう一人の白髪の少女が目覚めるまで待つ事になってしまったティルだったが、もう一度これからの方針について考える事が出来ると言う若干のポジティブシンキングでいい方向へ考えようとしたが呆気なく挫折した。なんせ、どうやって王族に借りを作る?姫を助ける。何から?などと結局の所、崖っぷちな状況を一変させるような事はティルには考え付かなかったのだ。諦めて黒髪に話しかける。


「起きたか?白いのは」

「あぁ、うん」

「さて、じゃあ、まず名前だな」

「憶えてませ~ん!」

「だろうと思ったよ。と言う訳で名前を決めよう。ちなみにインセインは決定事項だ」

「どうして?」

「兄妹って言った方がなにかと便利だからな」

「「う~ん…」」


 ところでだが、黒髪と白髪の少女についてだ。(以降黒と白)容姿について恐らく身体的特徴からして13~15の間と推測される。スタイルについては……おっと、誰か来たようだ。


 二人は双子らしく髪の色以外に見分ける事が出来ない。見た目だけの話だが…二人が自分の名前を考え込んでいる間ティルは黒はベルかな~とか白はルビィとか?などとのん気に考えていたりする。前述した通り全くの別人ぷりだ。


「降参」

「同じく」

「は?自分の名前だろ?」

「意見を聞きたい。ティルさんの案は?」

「教えろー!」


じー


「はぁ…教えるよ。黒がベルで白がルビィってどうだ?」

「私は賛成。ベルなかなかいいと思う」

「ルビィ……パスだ。なんか嫌だ」

「なんか?ん~?じゃあ……」


 黒――ベルは了承したが、白はルビィは気に入らないという事なのでティルはまた考え込むはめに若干うんざりしていたりするのは二人には秘密だ。タマやら白玉など猫や食い物の名前が頭を過ぎるティルだったが名前が浮かんだようだ。


「ライは?」

「ん」


(頷くんじゃなくて喋りなさい。まったく)


「んじゃ、ベル・ライ行くか」

「どこに?」

「帝都にさ。住居をどうにかせにゃならんから」

「了解だ兄ちゃん!」

「私もいいよ。兄さん」

「に、兄さん?」

「そう、兄さん。兄妹だと便利なんでしょ?」

「まあな…」


 いきなり『兄さん』と呼ばれて照れているティルだったが照れてるの隠しているつもりだったが、二人には丸分かりでベルが少し意地悪そうな笑みを浮かべティルに言った。


「お兄ちゃんがよかった?」

「ベル、それは逆に困る」

「そう?なら行こう」


 と、そこで二人の服装に目が行ったティルだったがあまりの格好に溜め息を吐きそうになった。なにせ布一枚に近い格好なのだ。背中のガバッと開いたドレスのスカート部分を短くして布の質を思い浮かべて貰えれば分かるだろう。しかも、ボロボロである。金銭の事も考えてティルはインセイン遺跡で金稼ぎをしてから帝都へ向かう事にした。


「よし、インセイン遺跡に行こう」

「遺跡?帝都に行くんじゃなかったの?」

「金稼ぎだよ。自分の格好を見てみなさい」

「うん?」

「え?」

「という訳だから、アル。二人を守っていてくれ」


 すると、また亀裂から機械仕掛けの銀の騎士が現れ自らの胸をドンッと叩き若干ふんぞり返った。自信があるらしい。その姿を見て苦笑しながらティルは出発する準備をした。


「さてと、そうだな。20分で帰ってくるよ」

「いってらっしゃい」

「怪我するなよ」

「はいはい」


 さて義妹もそう言ってる事だし急ごうか!


――――――――――――――――


「よう、ガイアドラゴン。ソウルジェムくれないか?」


 少し考えるようなそぶりをすると奥へのそのそと進んで行った。

 ここでソウルジェムについて説明しておこうと思う。ソウルジェムはモンスター達の体内で生成される宝石と考えてくれていい。しかし、このソウルジェムはモンスターの体内に蓄積されるほどにモンスターは凶暴化する。草食のモンスターはソウルジェムの生成スピードが他の物よりも遅いため凶暴化する前に出荷される事が殆どである。


 そしてソウルジェムは上位のモンスターになればなるほど綺麗な色と形の物が取れる。先ほど出た草食モンスターから取れるソウルジェムは濁った茶色をしているため価値としては殆ど0と言っていい。そしてインセイン遺跡だと一番上位に存在するのがガイアドラゴンであるため価値的にはもっとも高額だ。

 個体数=価値の高さと解釈してくれても良い。


「ありがとな。これでお前らも身体が軽くなったろ?また貰いに来るよ」


 ガイアドラゴンが持ってきたのは、ガイアドラゴンの物が4個、ワーウルフの物が24個、デビルラビットの物が58個である。これくらいあれば服はもちろんの事、借家だって借りる事は可能だ。


「しかしな。国民である証を持っていないんだよな。俺は」


 まあ、なるようになるだろう。と軽く考えながらティルはベルとライの元へ向かった。


――――――――――――――――


「戻ったぞ」

「もしかしなくても、この格好のまま帝都?」

「ああ、まあそうなるが、帝都に着いたらすぐジェムを換金して2人の服を買おうと思う」

「何か羽織る物を貸して欲しいのだけど……」

「マントならあるぞ」


 ティルの一言にベルとライに山賊の死体(ここ重要)から剥ぎ取ったマント(的な物)を二人に渡しティル達は帝都へ向かう事にした。


「さてと、今の所俺達は帝都へ向かっている訳だが…何故ワーウルフが犬の様に懐いて付いてくるんだ?」

「可愛いからいいだろ?」

「まっ、ガードには気をつけるべきだ。モンスターなんか発見されたら狼共は狩られるぞ」


 この世界では種族同士の結束が固い代わりに、モンスターに対する警戒心が高いため街へ近づくモンスターが居るとすぐに狩る対象とされる。そのためモンスター達は自然と街へ寄りつかなくなったのだ。


 だが、このワーウルフ達はティル・ベル・ライの誰かに懐いたのか街が近づくことも気にせずくっ付いてきてしまっている。見た目からしても、このワーウルフはまだ幼いためその事を知らない可能性もあるが…もしくは完全にその事を忘れているか…どちらにしても、危険な状況には変わりないのが事実だ。


「そろそろ、森に戻してやれ。ガードに殺られるぞ」

「え~」

「流石にそれは可哀想じゃない?」

「その狼の為だ。ライは死んでほしくないだろう?」

「そりゃそうだけどさ…あんまりだ」

「帝都から出たらまた会えるさ」

「う~」


 ティルの説得に若干不本意そうにしながらライはワーウルフを森へ放った。涙目になっていたがティルに泣くなよと言われると泣いてなんかない!と目元をマントで拭きながらズンズンと帝都へ歩き始めた。

 置いて行かれた二人は顔を見合わせるとベルは心配そうな顔をして、ティルは苦笑しながらライを追いかけた。


**同時刻**


 場所は帝都にある王城の神殿

 そこでは一人の少女が浅く水の敷かれた中心で天に祈りを捧げるかのように言葉を紡いでいた。


 夜空の様な黒めの蒼の髪がさらりと流れる。服装は白を基調として金の糸で刺繍が施されている。少女は尚も天へ向かって祈りを捧げていた。すると、水面に波紋が広がる。少し間を置いて少女の斜め頭上に穴が生まれ黒髪の少年がゆっくりと降りてきた。水面へ少年が降り立つと少女は目を開き少年に微笑んだ。状況を把握出来ていない少年に手を差し伸べ立たせる。


「ここは?それに君は一体…?」

「初めまして勇者様、わたくしはアルフィナ・タトゥ・アルメリア。ミルグスク王国の第1王女ですわ」

「えっと……親切にどうも?俺は和久津孝介です」


 孝介が自己紹介するとアルフィナの顔に満面の笑みが零れ孝介の手に指を絡めた。あまりの事に呆気にとられた孝介だったが、少し引き攣った笑顔をアルフィナに向け引っ張られるように神殿を後にした。


 そして孝介が連れてこられたのは泉だった。だが、そこらにある泉ではなくおごそかな雰囲気に包まれた場所だった。それにまわりも白亜の石材で作られた建造物に囲まれているため雨が混ざることはなく底が見えるほど澄んでいる。


「孝介様、その泉に入ってくださいまし」

「その泉にですか?なんの意味が?」

「ここは目覚めの泉と呼ばれてますの。ここへ入ると勇者としての能力が目覚めるそうですわ」

「ああ、だから『目覚めの泉』なんですね。けれど、俺が勇者ですか?」

「そうですわ。なにせ呼び出しの儀式で召喚されたのですから」

「へー。それで俺はこの中に入るだけでいいんですか?」

「そうですわ」


 簡単な事だと分かった孝介はすんなりと泉の中へ入って行く。大体中心に着いた時に泉がポワッと淡く輝いた。

 泉の中から出てきた孝介に見た目でも変化が起こっていた。というよりも見た目以外今の所変化が表れていない。金髪になった程度だろう。


 孝介の姿を見てアルフィナはそれはもうこれ以上は無いと言うほど満面の笑みを浮かべていた。今度こそ孝介は笑顔が引き攣った。それはもう完璧に

 また腕を絡めてアルフィナ自らの部屋へと引っ張って行った。


****


「ふむ、宿も用意できたしベルとライは待っていてくれないか?」

「分かった」

「それで何しに行くんだ?」

「端的に言うと金稼ぎと恩売り」

「おんうり?」

「まあ、二人で暇つぶしでもしててくれ。アルを置いて行くから」

「にゃっ!」

「ね…ね…猫!?きゃぁあ!猫!ああ!もう、可愛い!」


 あまりのベルの豹変ぶりにティルとライは茫然とアルにじゃれ付いているベルを見ていたがライよりも先にやる事を思い出したティルがライの肩を叩き土産も買ってくるよ。と伝えると部屋を出て冒険者ギルドへと向かった。


 しかしながら、ギルドに行く途中に出店のおばちゃんや娼婦に何故か声を掛けられながらもギルドへ向かう事になった。娼婦と言ってもその店の店主で大体が5,60代ばかりだが、ほとんどがあら久しぶりね。それにしても全然容姿が変わらないわね。また、店の方御贔屓にして頂戴と言った内容ばかりで本人何の事か分からず首を傾げるばかりだった。


 途中で見つけた雑貨屋で土産にある物を買って行った。


「どーも、ダンジョンのクエストあるか?」

「ダンジョンですね。えーと…これなんかどうでしょう?」

「ゴースト退治か。ん、コレ受けるよ」

「はい、分かりました。それにしても本当に変わりませんね」

「ん?何の事だ?」

「容姿ですよ。これを言うのは失礼ですけど、そのやる気のなさそうな瞳とか髪は伸びたようですけど…」


 またも、自身の覚えてない話をされ頭上に?を浮かべるが話を合わせておくことにした。分かった事としては結構有名な人物であり中年の人は大体知っている模様、本人は覚えていないと言うのに…


「さてと、依頼も受注したことだし恩売りの方法を考えないとな」


 などと、考え事をしていたため、ちょっとした出来事に巻き込まれてしまった。


「き、きゃぁああああああ!?」

「はぁ?って…え!?」


 突然上から少女の声が聞こえ見上げるとそこにはスカートを押さえながら落下してくる水色の髪の少女が居た。ティルが咄嗟に受け止めたから良かったものの、あのまま落下していたら骨は確実に折れていたはずだ。


 少女の目の端にはうっすらと涙が浮かべられていた事から自ら落ちてきたと言う訳ではないらしい。ティルが少女を心配そうに見ると少女は微笑んでこっちですとティルの手を引いて歩きだした。広場に着いてベンチで一息ついている少女にティルは先ほどから思っている事を聞いた。


「なんで俺まで?」

「え?…えっと……何でなんでしょう?」

「いや、聞かれても困るんだが…それで名前は?」

「ルナシア・ルナメリアと申します。貴方様は?」

「俺はティル・インセインだ。え~と……」

「ルナシアです。お好きにお呼びください」

「ルナシアは一体何者なんだ?空から降ってきたし」


 空と言われた瞬間ルナシアが困った顔をして考え込み始めた。家名がアルメリアではない時点で王族という考えはなしだが、落ちてきた場所や立ち振る舞いなどから貴族階級以上であることは判明している。

 

が、貴族の中でもどの地位かは不明なんとも困ったお嬢様だ。などと考えているティル自身がもっとも困った人物だとは当人は思っていない。もっとも身元が不明な点についたはベルとライも同じだが…


「えっと、ルナメリア家って聞いた事ありませんか?」

「ずっと遺跡にいたもんでな。さっぱりだ」

「遺跡ですか?お家は?」

「ない。今宿に泊ってる」

「そうですか…う~ん…一緒に来てもらえませんか?」

「別にいいが連れも一緒に連れて行っていいか?」

「いいですよ。お父様も理由を言えば了承してくれるはずですし」


 ティルがルナシアの顔を見ていると彼女がなんですか?と聞いてきたが、何でもないよと返すと笑われた。

 それに対して、ティルは何があるんだろう?と考えながら笑い返した。季節は早春。ティルにとっては初めての厄介事を抱え込む切っ掛けだった。

 お久しぶりです。


 前回に引き続きの召喚獣の話を少々と呼び出しの儀式についてです。


 前回ご説明したとおり召喚獣は二つ種類があります。そのうち戦闘可能な方(以降戦闘用)についてです。前回の話で出てきた”死鬼”を例にして説明させていただきますね。

 召喚”獣”と呼ばれていますが、戦闘用の方は獣と言うよりも半機械兵と考えてください。全身を鎧で覆っており中はほとんどの場合歯車などでできています。しかし、胸部中央には召喚獣の核が収まっており生命体であり機械と言うよりも人形のような物です。前回、ティル君に真横に斬られた死鬼ですが核を破壊されていないため、時間が経てば呼び出せるようになります。


 続いて呼び出しの儀式です。


 普通の召喚魔法は自分の召喚獣――ティル君で言うならばアル・ブレイヴを呼びだす事を指します。要するに、呼び出しの儀式=召喚魔法ではない訳です。

 しかも、決められた場所で尚且つ決められた系列の人々の代々伝わる呪文でしか起動しません。しかも、精度がそこまでいいと言う訳ではなく、時には人間以外サルやトカゲ、果てには無機物を呼びだすなんてこともありえるわけです。

 まあ、人間を呼びだした場合むちゃくちゃ強いですが


 以上で説明を終わらせてもらいます。ちなみにですが、あの召喚はテイク4です。


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