第二話
「―― ……ナ、ユーナ、ユーナ」
夢を見ていた。夢の中で誰かが私の名前を呼んでいたような気がする。誰、だったんだろう? その答えに行き着くまでに私は現実に引き戻された。夢なんてすっごく久しぶり一体いつ以来だろう。
「いつまで呆けているんですか? 起きたのなら部屋へ戻って構いませんよ」
「え、ああ……用事ないならそのまま起こさないで置いてくれれば良かったのに、そっと上着を掛けておいてくれるとか」
テレビとかでよくあるシチュエーションだ。そうぼやいて、んーっと背伸び。凝り固まった筋肉が悲鳴を上げているような気がする。
「ふわぁ。良い夢見てたんです。凄く優しげな声が聞こえてて」
いいながら隣を仰ぎ見れば、鬼の形相のルイさんが「ほぉぅ」と凄む。
眼鏡のレンズの反射とか利用して睨むのやめてください。本当、怖いので……。
すみませんと謝罪を重ねて立ち上がると、ルイさんはふぅと嘆息して「お茶にしてください」と続けた。さっき用がないから部屋に戻れ的なことをいってたのに……。物申そうかと思っても、ルイさんはさっさと机に戻ってしまった。ま、お茶くらい淹れるのは何時間もかかるわけじゃないから良いかと私は支度に取り掛かる。
―― ……カチャ
どうぞと机の端にティーカップを載せてもルイさんは見ることもない。もう慣れたけど、失礼だよね。ホント。
「ルイさんは夢とか見ないんですか?」
「見ません」
「……身も蓋もない」
「ではユーナはどんな高尚な夢を見ていたのですか夢が何になるのですか?」
いいながらソーサーを引き寄せてルイさんはティーカップを傾ける。優雅で無駄のない所作だ。
「夢の中でくらい幸せになれます」
少し不貞腐れてそういった私の耳にかちゃんっと食器がなる音が聞こえた。ルイさんにしては珍しい。
「では、ご自由に。いくらでも惰眠をむさぼって夢の中だけの幸せを堪能してください。どうせ大した夢ではないのでしょうけど」
「はいはい。夢の中だけでの逢瀬を楽しみますよーだ」
ルイさんの嫌味にはもう慣れた。もう慣れたんだ。
ふてぶてしい態度でそう答えた私にルイさんはどういうわけかうさぎ耳が出てきていたけれど平然と「なるほど」と頷いて口にした。
「恋人の夢ですか? 貴方の世界ではとんだ変わり者がいたものですね」
ふっと顔を伏せて口角を引き上げたルイさんの言葉にやっぱり私は傷付いていた。
そして意味ありげにこちらを見たルイさんをきゅっと唇を噛み締めて無言で睨みつけたけどきっと効果なんてない。私は視界が揺らぐのを止められなくて足早に部屋を出て私室に駆け込んだ。途中誰にも会わなくて良かった。