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知的好奇心の行方

 ―― ……サァァァァァァ……


 心地良い穏やかな昼下がり。

 私はのんびりと庭の水遣りに従事する。

 いつもなら決まった時間にスプリンクラーが動くのだけれど、今日は私が手ずからやらせてもらっている。つまりは、暇なのだ。

 ルイさんは朝から書類関係の仕事を片付けるといって書斎に篭っているし、私に出来るのはお茶出しくらいなものだ。


 この世界はとても穏やかで夏の厳しさとか季節感が乏しい。

 常に春とか秋とか中間の過ごしやすい季節をキープしている。他の世界がどうか分からないけれど、干渉を受けないようだ。

 庭では仔うさぎたちがはしゃいで遊んでいる。平和すぎる。平和は良いことだ。穏やかなのも大変結構。

 でも平和ボケとかしそうだなと思うと、大きな欠伸が出た。


「ユーナ」

「ふぁい」


 こういうときに限って声が掛かり、振り返った私に声の主であるルイさんは不機嫌顔全開だ。寧ろ超ご機嫌というときの彼に会ったことはない。

 しかし私は、欠伸で出た目じりの涙を拭う手を止めて凝視した。ある一点を。


「ユーナっ!」

「は、はい?」

「水、掛けるのをやめてもらえませんか?」


 その声に私は慌てて握る手に力をこめてしまっていたホースから手を離した。ごとんっと取り落として地面の水が小さく飛沫を上げる。

 ルイさんは、やっと止まった水のシャワーにふるっと頭を振ったあと、眼鏡を外してハンカチを取り出すと眉間にふっかく皺を刻んだまま水滴を拭き取った。


「み、水も滴る良い男ですね!」

「―― ……」


 無言はやめてっ! 無言はっ?!

 でも……


「全く、ユーナは少し落ち着きのなさと状況判断の鈍さを何とかしたほうが……どこ、見てるんですか?」

「へ?」


 思わず間の抜けた声を出してしまった。

 でも、でもでもでも、仕方ない。

 水に驚いて出てきてしまったのだろううさぎ耳が……ぴるぴる水を弾いている。可愛い。

 

 ―― ……ぴるぴるぴるぴる……。


 な、なんて愛らしいんだっ! あれ意図的にやってるのかな? いや、でも反射的なものかな? 水が掛かったら払う的な何か?


「えーっと……どこと問われれば……耳」


 それしかないだろう。いや、ルイさんが水も滴るなのは分かるけど、それもそうだと思うけど……耳が気にならないわけない。

 しこたま水を払ったあとは乾かすのかへにゃんと直角に垂れた……。やろうと思ってやってるのかな? すんごーく気になる。気になるけどこれ以上見てても申し訳ないかもしれない。

 くしっ! と態度とは対照的に可愛らしいくしゃみを零したルイさんに私は我に返る。


「す、すみません。直ぐシャワーとか……着替えしたほうが」

「……そうします」


 くるりっと踵を返したルイさんに私は慌てて落ちたホースを拾い上げスカートの裾が汚れるのも気にせずに巻き取って元あった場所へと収納すると急いでルイさんの後ろを追いかけた。


「あ、あの、何か用事があったんじゃないんですか?」


 きっと濡れそぼって気持ちが悪かったのだろう上着を脱ぎながら歩いていたルイさんは少しだけ歩みを緩めて「用というほどではありません」と口にしてから、短く溜息を吐いた。


 ―― ……?


 こういう溜息の吐き方は珍しい。呆れたとか人を小馬鹿にしたとかそういうのじゃなくて……。

 小首を傾げた私をルイさんはちらとだけ見て、小さく肩を竦める。


「何でもないです。少し外出でもしてはどうかと思っただけですから」

「え! 仕事だったんですかっ! す、すみません、時間大丈夫ですか?!」


 ルイさんはいつも時間に五月蝿い。だから慌ててそう重ねた私にルイさんは首を振った。


「ユーナが退屈そうだったので、僕も仕事がひと段落しましたし、行きたいところがあればと思っただけですから」


 ただの気まぐれです。と、締め括って自室の寝室から続いている浴室へと入っていったルイさんを私は思わずぼんやりと眺めてしまった。

 ぱたんっと目の前で扉が閉まってもぼんやりしてしまっていた。


 ―― ……カチャ


 すると不意に閉まったはずの扉が開いて……もう既に服を脱いでしまっているルイさんが顔を覗かせる。乙女も羨む白く肌理の細かな肌が眩しい。


「一緒に入るんですか?」

「はい?」

「ユーナも着替えたほうが良い格好になっていますよ。一緒に入っても構いませんが、それなら早くしてください。寒いので」

「わわ、私は構いますっ! お、お一人でどうぞっ!」

「ならさっさと部屋へ戻ってください」


 しっしと手を振られて私は慌てて踵を返した。扉が閉まりきる瞬間ちらりと見えたルイさんが笑っていたような気がする。これまた意外だ。




 部屋に戻った私は胸元のリボンをしゅるりと解きながらふと脳裏を過ぎる。


「尻尾……どうなってるんだろう?」


 洋服からつんっと上向きに出た、形の良い可愛らしい尻尾……。肌と尻尾の境界線ってどうなんだろう? とか思ってしまう。

 でもそれを確かめようと思ったらルイさんの言葉じゃないけど、一緒にお風呂とか……それ以上の関係になるわけで……。


「ないないない、ないないない」


 私は自分でくらくらするほど頭を左右にぶんぶん振った。

 人間、暇で平和だとろくでもないことしか考えないなと、思った瞬間だけど……


「やーっぱ気になるよねぇ」


 この好奇心が満たされる日は来るのだろうか?

 ていうか、私、完全にうさぎに毒されてきている気が、しなくもない。


楽しかったですっv

参加させてくださってどうもありがとうございましたv

続きもちょっと考えていたり居なかったり……もし、読みたいなんて奇特な方がいらっしゃいましたら声掛けてもらえると嬉しいです^^

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