(2)
「―― ……という話になってしまいました。料理長。食事の用意そのように整えられますか?」
私がさっき採ってきたハーブを丁寧に整えながら、料理長の長いお耳がひょこんと立ち上がる。
「か、構いません、だい、じょうぶ……です。あの、具体、的、には、何を用意すれば……良いですか?」
―― …… ――
料理長へ簡単なメニューの説明をすると、ふむふむとかなり真剣に聞いてくれて、足りないものなどのリストまで早速上げてくれた。
大体分かったので大丈夫ですと、なんだか満足げな料理長の顔を見て、嬉しくなる。というか、あの人があんな風に生き生きしているのを始めて見た気がする。
ごめんなさい。料理長さん。
いつもきょどってるなんて思ってて。
「ロナさん発見!」
庭仕事でも手伝っていたのだろうロナさんは、屋敷の裏口から入ってきたところだった。
タオルで手を拭いながら、人の良さ気な笑みを浮かべて「何?」と首を傾ける。
そして、私はそれまでのいきさつを説明する。
「ふーん。珍しいな……それなら、屋敷の広間使っても良いだろうけど、折角だからガーデンパーティにすれば?」
「でも、夕時ですよ?」
「明かりを増やしてライトアップすれば問題ないと思うし……うーん……そうだな。出来なくないと思う。庭師に話を通してあげるよ」
「ありがとうございます」
なんだか申し訳ないくらい協力的だ。
そしてそのまま来た道を戻ろうとしたロナさんは、ぴたりと足を止めて「それだけ?」と質問を重ねた。なんだか心の中を見透かすような台詞に、どきりと心臓が跳ねる。
「あ、え、えーっと、その、ルイさんの欲しいものとか、好きなもの、知らないかなーと思って……」
もじもじとしつつなんとか切り出せば、ロナさんは、ああ……と合点がいったように頷いて「そうだなぁ」と唸った。
「なんか相当な難題を押し付けられた顔してるね?」
「はい……過度な期待を掛けられました。もうプレッシャーで潰れてなくなりそうです」
「っと、エライことになってるんだ?」
私はいたって真剣なのにロナさんは、くすくすと至極楽しそうに笑いを深めた。
「根本的に、兄貴は何でも持ってる人だから、何でも良いんじゃない?」
「何でも、ですか?」
「そう、なんでも」
だから、潰れちゃうようなほど、悩むのは損だといってふわりと私の頭を撫でてくれた。
そして、会場の準備は任せてとその場を去る。
なんでも、なんでも、なんでも……何でもというのが一番難しいと思う。
やっぱり何かを贈る以上は喜んで欲しい。結局なんでもってことは何を貰っても嬉しいか、もしくは何を貰っても大して嬉しくないかのどちらかだ。ルイさんの雰囲気からして後者だ。
だ、だからこそっ! ぎゃふんといわせるような何かを贈りたい。
幸い、私は半引き篭もりだから懐は暖かい。金額的にどうという問題は余程でないとないと思う。
***
それからの私といえば、ルイさんへのプレゼントのことで頭がいっぱいだった。
「―― ……ねぇ、ユーナ。料理長が大きなクリスマスケーキを用意してくれるっていってたから、あたしたちはジンジャークッキーとか焼きましょうか? それから……」
「うん、いーと思う。やろう。やるよ」
「何を?」
「だから、クリスマスケーキ作るんだよね」
にこりと答えたらにこりと若干引きつった笑みを返してもらった。
あれ? 私は今、一瞬にしてフィズを怒らせたかもしれない。
―― ……ことん。
整理するように頼まれた本のラスト一冊を本棚に納めた瞬間。
私は決めた。
もう、これしかないと思う。
***
本番は直ぐにやってきた。
立食パーティ形式で集まったのは全て屋敷の人間だけのはずだけど、全員出てきたらかなりの人数になっている。
こんなにここに人が居たなんて新発見だ。
いつもはお日様の高いうちに散策することしかない庭も、夜の闇に輝くように美しくライトアップされ昼とは全く違う表情を見せていた。
背の高い植木には光の花が咲いているようだ。
料理長は、気合を入れまくり。
その結果、クリスマスケーキがシャンパンタワー並にでかく高くなっている。
ウェディングケーキと勘違いしたんじゃないだろうか?
シャンパンの栓が四方八方に飛び交うという危険極まりない遊びが行われ、ルイさんがまだ仕事をしているから、ロナさんが乾杯のコールを取り「メリークリスマス!」の合図とともにシャンパングラスが打ち鳴らされた。
馴染みが薄くても、みんなそれなりに楽しそうに笑って美味しそうに食事をして、歌ったり踊ったりする人まで出てきそうだ。
少し心配していたけど、私のわがままにあわせただけというわけでないようでほっとした。
そして、その場の賑わいを見届けてから、私はそっとその場を離れた。




