(1)
メリークリスマス♪
久しぶりに兎の世界からお届けします。
時期としては懐妊以前だと思っていただければ丁度良いです^^ チビっ子の出演はございません。
そして、相変わらずの鬼畜っぷりと、エロっぷりなので、ご笑納くださいね。
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ジングルベール、ジング、ル、ベール……の季節のはずだ。
他の世界では四季があるのかもしれないが正直ここは、季節の変化に乏しい。
少し手の空いていた私は、恥ずかしがり屋の料理長に頼まれて、敷地内の一角にあるハーブ園にハーブを数種採取しに行っていた。
「ライムと、セージと……タイム……数もあってるよね……」
ぶつぶつと確認をしながら調理場へとお届けした。
このあとも今日は暇だ。
ルイさんは戻ってると思うけど、ずーっと書類と睨めっこをしている。
私も参加してたけど、役に立たないからとあっさり追い出された。本当にあっさり「仕事が増えて邪魔です」と……酷すぎる。
クリスマス、他の世界の落人さんたちは何かするのかな? 暖炉の前でケーキや料理を囲んで、超幸せそうというか、ラブラブっぽい世界が蔓延するような気がする。
ここ……ここは……年末年始ないもんね。
イベントごとは自分たちのためにあるわけじゃないモンねっ! んー、でもフィズを誘ってケーキくらい焼いても良いかもしれない。
そうしたら、料理長さんも加わってくれて、もしかしたらご馳走を作ってくれるかもしれない。
超挙動不審だけど彼の料理は天下一品だ。
ああ、美味しそうだな。
「……ユーナ。そんなところで何をやっているんです。邪魔、なんですけど」
はっ! にまにま考え事をしていたら、自然と足がルイさんの書斎に向っていた。
習性って恐い。
「入るなら入る。違うならさっさとそこを退いて下さい」
書庫にでも行ってたんだろう。何冊かのファイルを抱えたルイさんが私の真後ろに立っていた。
そんなにぴったり真後ろに立たれたら退けませんが? これは入れといわれているんだよね。
お互いにぶすっとした表情のまま、部屋のドアを開いた。
勝手に閉まるドアを支えてルイさんが入るのを待てば、そのままつかつかと入室し、広い書斎机の上にファイルをぽすっと載せた。
いつもは殆ど何も乗っかっていない机上に、二山くらい出来ている。本当に忙しいんだな。
「お茶を淹れてください」
少しだけ眼鏡を浮かせて、空いた手で眉間をぐっと押さえつつそういったルイさんに「分かりました」と返事してお湯を取りに行き戻ってきた。軽いノックの音とともに静かに入れば、もう既に作業を開始している。
砂時計をくるりと引っくり返し、蒸らしている間、ルイさんを盗み見る。
いつもと変わらず(それ以上に)忙しそうだ。こんな調子ではクリスマスがどうとかなんて話し切り出すのは無理そうだな。
それに、いってもやりたいなら貴方たちだけでどうぞ。っていいそうだ。
ああ、本当、そうばっさりそういって切り捨てられそう。
「それで、さっきの鼻歌の原因はなんだったんですか?」
かちゃりとルイさんの机の上にティーカップを載せれば、ぎっと椅子に座りなおし、置かれたカップを持ち上げる。
洗練された所作。
口の悪ささえ出なければ完璧だと思う。
「クリスマスが近いんじゃないかなーと考えていたんです」
知ってます? と首を傾げれば、お茶を一口飲み込んだあと鼻で笑われた。
「知ってますよ。他人の誕生日に馬鹿騒ぎするあれですよね?」
……身も蓋もない。もっと物にはいいようというものがあって……。
「もしかして、そんなバカ騒ぎを貴方も催したい。などといいませんよね?」
ちらりと見上げられ、うっと息を詰めれば眼鏡がきらりと光った。
気のせいだ。
そうに違いない。
「こんな、い、忙しい時期に、そんなこと考える訳ないじゃないですか。嫌だな」
あはは、と笑ったけどひきつっているのは分かってる。
私は嘘がつけない。
ルイさんは、はぁ、と溜息を重ねてカップの残りを飲み干すと、静かにソーサーに戻した。
「やっても構いませんよ」
「は?」
「ユーナがやりたいのならやっても構わない。と、いったんです。夜中の数時間くらいなら僕も時間をとれます。夕時は無理ですから屋敷の人たちと遊んでいれば良いでしょう」
「え、え、でも、ルイさんは、そういうの嫌いかと」
「僕の好き嫌いを勝手に決定しないでください。面倒ですし、利を生まないことは嫌いですけど」
嫌いなんじゃん。と思っても口にしてはいけない。
あっさりルイさんの気持ちが変わってしまうということはありがちすぎて笑えない。
「もちろん、ユーナは、僕に、プレゼントをくれるんですよね」
僕に。が強調されていた。意地悪く口角が引き上げられる。
あ、あれ? 何だろうこの薄ら寒い感じは。
笑顔で脅されている気がする。
うさぎは彼で、私ではないはずなのに、優劣でいうなら私は完全に負けている。現在進行形で。
「え、えぇと、はい。もちろん用意します」
にこり、爽やかにいえたよね。顔が些かひきつっている気がする。
「それは楽しみです。僕何でも持ってますよ? 何をくれるんですか?」
う、じりっと私は一歩下がった。にこにこにこ笑顔が怖い。
「わ、私にも何かくださいね!」
お返しとばかりに強くいったのに、余裕の笑みを浮かべられる。
「構いませんよ。ユーナは僕以外に何も持っていないでしょう? 貴方の望むものをなんでも用意しましょう」
あれ? なんか既に負けている。というか、どうしてクリスマスで勝ち負けの話になってしまっているんだろう?