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兎の世界にとりっぷ!  作者: 汐井サラサ
兎の世界に根付くとき
42/59

第三話

 * * *



 翌朝、私はうさぎを抱いて寝ていた。

 いや、うさぎっぽい人ではなく、うさぎだ。久しぶりに、ルイさんがうさぎになってる。眼鏡も外さずに寝てしまったようで、そんなに高くないうさぎのお鼻に絶妙なバランスで引っかかっている。

 壊れては大変。

 そう思って、眼鏡をそっと抜き取ればうさぎはうっすらと覚醒した。


「―― ……」


 なにかいわれるかと思ったのに、ルイさんは何もいわずにうさぎらしく顔を掻き、長い耳を撫でた。

 ぴるるっと震える耳が可愛い。喋らなければただのうさぎさんだ。しかもかなり可愛い。


「おはようございます。今朝はゆっくりなんですか?」


 もぞりと起き上がり、そっと艶の良い毛並みを撫で付けてそういうと「ええ」とだけ短く返ってきた。そして、私の名残も関係なく、ふんわりと柔らかな光を発して、人型に戻ってしまう。


「―― ……ルイさん」

「はい?」

「何か着て寝たほうが良いですよ」


 いつもと全く変わりなく、さっき私が置いた眼鏡を取り上げて顔に宛がっていたルイさんに、赤くなる顔を逸らしながら告げる。そんな私を、ルイさんは鼻で笑った。


「ユーナだって、今朝、偶然着ているだけでしょう? 僕はいつも通り、違うのはユーナです」


 いや、それは、毎晩のようにルイさんが剥いでしまうからであって、決して裸で眠るのが好きなわけではない。

 気持ちは良いかなとは思わなくもないけど……。あれ?


「大体、人肌が一番温かいのですから、寒ければユーナを抱いて寝ます」


 腕は少し痺れますけど。と、零したルイさんはデリカシーがない。確かに人の頭部は、思う以上に重たいけどね。


「それより……」


 じっと私を見つめてそう切り出したルイさんは、その続きを口にすることなく「なんでもないです」と括ってしまった。


「いってください。なんですか!」

「……何、怒っているんです?」

「怒ってません!」


 ……いや、怒ってるね、私。ごめんなさい。


 きゅっと唇を噛み締めて、ルイさんから顔を逸らせば、呆れたような溜め息が聞こえた。ずきりと、胸が痛む。


「何か考え事があるんじゃないかと思っただけです」


 ぽつりと零された声が、あまりに弱くて聞き間違いじゃないかと思った。え? とゆっくり顔をあげれば、ルイさんは傍に置いてあった着替えに袖を通したところだ。ちょっとくらい、そのまま、あ、いや、真っ裸はまずいけど……でも、話聞くときくらい、ながら、じゃなくても、良いと思う。ほんの少しだけ、喜色を含んだ気持ちが、即行萎えた。らしいといえば、らしい。


「どうして、そう思ったんですか?」

「ああ、昨夜やけに唸ってましたから。それに……」


 いいかけて、やめたルイさんを睨めば軽く肩を竦められた。


「珍しいでしょう? しているとき以外に、ユーナが擦り寄ってくる。なんてこと……」

「え」


 あ、あれは、夢では……いや、いやいやいや、あれは夢で……。


「べ、別に、私は何も……そう何もないです。ルイさんの方こそ、何かあるんじゃないですか?」

「僕? 僕は別に何もないですけど……まあ、強いていうなら……」

「いうなら、なんですか?」


 絶妙なイラつかせ方。

 間の取り方に素直にイラつく。


 苛々しているというのに、その姿を見てルイさんはとても楽しそうだ。どこまでも、性格がひん曲がっている。


「ユーナは酔っ払いは嫌いだということです」

「は?」

「拒絶されるのは傷付きます」


 ……あんたがそれをいうのか……?!


「まあ、構いませんけど。僕も、本当に酔ってましたし。感度が良くなるのは良いんですけど、ねぇ?」


 意味ありげに微笑まれても嬉しくない。嬉しくないというか恥ずかしいっ! 恥ずかしいことをぽんぽんと……いつも、顔を真っ赤にして慌てるのは私ばかりだ……。

 私ばかり、迷惑や手間を掛けて。

 困らせている……いや、若干楽しませてしまっている感じもするけど、それはルイさんの個人的な感情であって、周りからはやっぱり……。


 私は異世界人という希少価値だけの、ただのお荷物かもしれない。


「あの……ルイ、さん?」

「別に呼び捨てても構いませんよ? 夜はそうでしょう?」


 この人どれだけ、話の腰を折る名人なんだ! 私は引きかけた熱が戻ってくるのをなんとか押さえようとするのに、かぁっと頬が高潮してしまうのが止まらない。


「と、兎に角、その、えーっと……私のことで、困ってるんじゃないですか?」


 ルイさんは、相変わらず片手間というように私の話を聞きながら、きゅっとタイを締める。そして「ユーナの?」と首を傾げてこちらを見た。

 珍しくきょとんとしている。

 本当に思いつかないという雰囲気だ。


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