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兎の世界にとりっぷ!  作者: 汐井サラサ
兎の世界に根付くとき
40/59

第一話

※ 今回も若干R15程度? の描写が少しだけあります。苦手な方は回れ右ぷりーず。そして、打たれ弱い方は是非回れ右ぷりーずです。笑えません。

 拝啓 お父様 お母様。


 貴方たちの娘。

 夕菜は、たくましく成長し、なんと異世界で結婚までしてしまいました。

 もう、こちらに骨を埋める覚悟です。

 元の世界に帰ることを望まなくなった、娘をどうか薄情と思われませんようお願いします。

 思っていただいても構わないのですが、届かないので、出来れば前向きにご検討ください。歳の離れすぎた、妹を設けるとか。

 これは名案。

 是非ともご検討くださいませ。


   親不孝な娘:夕菜より。




 * * *




「―― ……っあ、もぅ、駄目です。ルイ! やめてっ!」


 自分でも恥ずかしいくらい、大きな声が出てしまう。殆ど悲鳴だ。それなのに、私をベッドへとはりつけしまっている麗人は、意地悪く口角を引き上げる。


「駄目? どうしてですか? 僕はもっと楽しめますよ?」


 いって頬を擦り寄せて、耳元に暖かい吐息とともに「一人でイったりしないですよね?」と囁きゆっくりと耳殻を舐められる。


「っあ、ぁ」


 ルイさんの背に回した腕に力を込めて堪えるも、何事にも限界というものがあって、私はきっとそのふり幅がルイさんより短い。

 ねっとりと味わうように外耳を食まれたあと、舌先が耳の中へと侵入してくるときにはもう限界だった。

 どうしようもなく息を詰めた私の耳元で、ふっとルイさんが笑ったような気がする。そして、僅かに残っていた限界の糸も、簡単に……ぷつりと音を立てるように切られた…… ――



 * * *



 気を失うように眠りに落ちた翌朝も、大抵は私の方が早く起きるのに、最近私が目を覚ますと、ルイさんが起きていることが多い。

 微睡んでいるような、何か考え事をしているような……。


「ルイさん?」


 不安になって、名前を呼び腕を引けば「ああ」と返ってくる。

 そして、直ぐに「まだ、眠っていて構いませんよ」と告げて、自分はベッドから抜け出してしまう。残された私は、ぼっち感満載だ。

 緩く甘ったるい時間が欲しいと、駄々を捏ねたりはしないが、私たちは一応。


 重ねて一応。


 晴れて夫婦なのだから――といっても、どっちなんだか、よく分からない期間の方が長くて、私自身今もなんだか良く分からない――世間一般的に、一年前後って、まだ新婚といって良いのではないだろうか?


 そう、私たちは一応結婚をした。

 夫婦だ。

 私は奥さんなのだ。


 あの鬼畜眼鏡の……相変わらずの鬼畜っぷりで、自分の流され体質を怨まない日はないが、不思議なことに後悔もない。


 あんな人だから、書面だけ。で、終わると思ったのに、結婚式は割りと盛大だった。本人曰く「商売をしているとこういう催し物は必然なんですよ」と色気のない答えが返ってきた。


 あの一瞬はその場にいたことを後悔したかもしれない。

 もう忘れた。

 私の頭が、都合の良い感じで出来ていて本当に良かった。


 ルイさんより少し遅れて身支度を整えると、私も仕事のために部屋を出る。何かやっていないと落ち着かないという私に、ルイさんが渋々割り当てた仕事はフィズの手伝いだ。

 それもほぼ雑用。

 いろんな意味であまり役に立っているとはいい難い。いつも役に立ちたいと頑張っているつもりだし、今日も予定されていた時間よりは早くその場所に向っていた。

 廊下の先で、誰かと歩いているルイさんを見かけて、私はひと声掛けようと足を早めたけれど、角を曲がってしまう。


 慌てて追いかければ話し声が聞こえてしまった。



 * * *



「ユーナ、ユーナ? どうしたの、今日はぼーっとしてるわよ? もし、どこか辛いなら、休んでいても良いわよ?」

「―― ……ごめん。仕事する」


 心配そうに掛けてくれたフィズの言葉に、軽く謝罪して、チビちゃんず――小さきもの、という呼び方もあるのだということだけれど、定着してしまった――の部屋の掃除を再開する。

 けど、再開した仕事も、今日は全く手付かずだった。

 こんなことなら、最初からお休みさせてもらえば良かった。無理矢理、自分の居場所を誇示するような真似をして、みんなに迷惑を掛けたのでは、大人として恥ずかしい。


「きょ、きょ、今日、今日、今日は……あ、あま、あまり、好きなもの、では、なかった、か、な?」

「え、あ、ごめんなさい。料理長。美味しいです。でも、私あまり食欲がなくて……」


 私がこの屋敷に来て何年経とうと、この料理長の挙動不審さは変わらない。というか、どもり過ぎで、実は何を話してくれているか良く分からないことも多々ある。平常時でそれなので、今なんてさっぱりだ。

 私がこれ以上ここに居て、料理長に気を使わせるのは可哀想だ。残すなんて、作った人に申し訳ないけれど、もっと申し訳ないことにならないうちに私は食堂をあとにした。


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