第十一話
―― ……PPP……PPP……
「んぅ」
昨夜カーテンを閉め忘れてしまっていたから、窓から差し込んでくる陽光が眩しいのも手伝って、私は可愛らしい音で目を覚ました。
腕を伸ばして、音源を止め。隣のルイさんに声を掛ける。
「ルイさん、起きてください、朝、ですよ……」
「……ユーナ」
起きてくださいと重ねるのに、ルイさんは折角離れた距離を再び縮めて、胸元を食み背を撫でる。
「……んっ、ちょ、また、私が、怒られる」
デジャヴだ。
そうならないように努めたのに、ルイさんはそのまま胸の一番高い部分を口に含み甘く噛んでしまう。
「っぁ……ちょ、ルイ、や、ぁ」
私だってまだ脳内がぼんやりとしていて、はっきりとしないところへ官能ばかり送り込まれては、直ぐに堕ちそうになってしまう。駄目人間の手本のようだと、ふと思う。
同じことを思ったのか、ルイさんは、つんっと上向いてしまった部分を軽く吸って、ちゅっと音を立てて離れると
「何をさせるんですか?」
―― ……やっぱりデジャヴっ!? そして、私に非があるのかっ!
そして昨日と同じように、眼鏡を取って顔に宛がって時間確認。
「……五分遅い……」
不機嫌そうにそう零したルイさんに反射的に身構える。
う、私のせいじゃないよ。私何も悪いことしてないですよ?
そんな私をちらと見て、小さく溜息。ちょ、直接いわれるより、心に響くんですけどーっ! 何この晒しもの感っ! お前が悪いんだ的な空気。
「わ、私は、別に」
「何もいってませんよ。ユーナは少し、思い込みが激しいんじゃないですか? 被害妄想が強い、とか」
うっと言葉に詰まる私をあっさり無視して起き上がると、いつも傍に置いてあるガウンを羽織る。
「ほら、ユーナもぼさっとしていないで、風呂にでも入りましょう」
「え、でも、時間が、」
「今朝は少しゆっくり出来ます。少しだけなので、湯殿まで行きませんから狭いですけど」
そのほうが良いですよね。と、こちらを振り返り、片方の膝をベッドに載せて、ちゅっと口付ける。甘く柔らかく数回食み、静かに離れれば「おはようございます」と微笑む。ぽぅと熱持つ頬もぼんやりとルイさんを眺めてしまっている顔も、どうすることも出来ない。
ちょっと、優しくされるだけで、こんなにどきどきしてしまうなんて、私可哀想な子だなとか思ってしまう。
そんな私をどう思ったのか、暫らく見つめたあと、ふと視線を落とした。
そして、ルイさんの指がつっと鎖骨を撫でる。
「傷、残ってしまいましたね……」
「酷いですか?」
自分では見えるような位置じゃないらしい、分からなくて手探りで探そうと手を伸ばすと、その手を取ってそっと傷口に触れさせてくれる。小さくかさぶたになってる。この程度直ぐに治るだろう。
別に、平気だと口に仕掛けたけれど、ルイさんの方が早かった。
「すみません。堪らなかったんです……」
眉間に深く皺を寄せ苦悶の表情を浮かべるルイさんに胸が痛む。いつもどこかに余裕のある表情しか見せないから、とても印象的に私の中に刻まれる。
「僕だけが知っていると思っていたのに、ロナの下でも同じように恍惚とした顔を見せ、喘いでいるのかと思ったら……我慢ならなかった」
「そそ、そんなこと」
物凄く酷くて、物凄く恥ずかしいことをルイさんは口にしている。私は真っ赤になって否定すればルイさんは、瞳を伏せて、傷口につっと唇を寄せる。
「分かってます。ユーナが愚直なのを一番良く知っているはずなのに、その頭も回らなかったんです。すっかり血が登ってしまっていて……」
「愚直って……」
「僕にはないものですから、誇って良いですよ」
そういって笑ったルイさんは、傷に触れていた顔をあげ、もう一度口付けて続ける。
「ほら、時間はあるけど、少しだといったでしょう。急いで」
「え、ちょ、待って、私も上……」
「どうせ、脱ぐんだから、必要ないでしょう」
そ、それはそうだけど、と言葉を失った私を、ルイさんはよいしょと大仰に声を出して抱き上げる。
「ちょ! おおお、重いなら、降ろしてください! せめてシーツくださいぃぃっ!」
「重くないので却下です。眺めが良いのでシーツも却下します」
少しだけ優しくなったとか、少しだけ甘くなったとか、そういうのを直ぐに払拭できるほど、やっぱり彼は鬼でした …… ――