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兎の世界にとりっぷ!  作者: 汐井サラサ
兎の世界に春が来た
31/59

第七話

「っ!!」


 乱暴に扉は閉められ、私はぐいっと腕を引かれ強引に押し倒された。

 慣れたスプリングが身体を包むけれど、手首を押さえつけられ、上に圧し掛かられて睨まれると体が強張る。


 ルイさんの気が立っているのは肌で分かる。というか表情にもろに出ているから隠しようはない。


 そのまま何もいわずに、私の首筋に唇を寄せたルイさんにやめて欲しくて暴れたけれど、勿論無意味だ。それが余計に気に入らなかったのか、痛いくらいに吸い上げられて、私は息を詰めた。


「……ィさん、痛い。っあ、痛い、です…ゃ…めて」

「もう、いつものように呼ぶ気にもなりませんか?」


 耳元で冷たい声がして、え、と戸惑う。

 ルイさんは、ふっと鼻で笑って全くやめる気もなく乱暴ではあるけれど、慣れた手つきでブラウスのボタンを外していく。


「ちょ、ルイ、さん。傷、傷の手当が先、です!」

「こんなもの、舐めておけば治ります」

「じゃあ! 私が舐めますっ!」


 ―― ……あ、あれ? 私、今、なんか変なこといった?


 殆ど襲い掛かるような勢いだったルイさんの手が、ふと止まり、私の上から離れた。そして、虚を突かれた私の隣に腰掛「ならそうしてください」と細く息を吐いた。


 あの勢いだと何されたか分からないから、ほっとしたけれど、ほっとしたぶん私はとんでもないことを口にしてしまったような気がする。


 でもいったのは私だから仕方ない。


 私は乱れた服を手繰り寄せて、よいしょとベッドの上に座りなおし、ぼんやりとどこか遠くを見ているルイさんににじり寄った。


「こっち、向いてください」


 小さな声でいえば「そうですね」と素直に向き直ってくれる。乱暴に口付けたりするから口元の傷が開いて新しく血が滲んでしまっていた。


「痛そう、触れて大丈夫ですか?」


 そっと、反対の頬に手を添えて顔を寄せ、一応確認を取る。

 大体傷口なんて舐めちゃダメだ。

 その程度の知識ある。


 多分、お互いに……。


「続きが出来ないので早くしてください」

「……続きって……」


 さっきはちょっと怖かったけれど、そういった姿はどこか幼稚で可愛かった。

 膝で立てば、ルイさんより頭少し高くなる。その位置からそっと口元の傷に触れると、ルイさんは僅かに息を殺した。


 やせ我慢して、やっぱり、痛いんじゃん。


 ぴんっと反射的に出てしまったうさぎ耳が良い証拠だ。

 でも、舐めるということだったので、じわりと傷口に舌を這わせると、眉間の皺が濃くなった。痛いのかくすぐったいのか判断しかねるけど……。


「眼鏡取りますよ」

「どうぞ、ですが霞むほど離れてはダメです」

「……そんなに離れたら届きませんよ」


 どうしたんだろう、なんかルイさんが可愛い。私は滲みそうな笑いを押しとどめて、そっとルイさんの顔から眼鏡を外した。

 傷を負ったとき眼鏡が邪魔になったのだろう、目頭部分にも傷が出来てしまっている。ルイさんの足の間に片方の膝を入れて距離をつめると、されるまま瞼を落としているルイさんにそっと触れる。


「どうして、こんな傷」


 さっきは関係ないといわれてしまったけれど、再度問い直した。ルイさんは目を閉じたまま、深い溜息を一つ吐く。


「商売をやっていると、たまにこういうこともあるんです。必ずしも利が一致するとは限りませんからね」

「え、でも、今までそんなことなかったのに……」

「昔は少なくなかったですよ。今夜は多少、僕の対応も気に入らなかったのでしょう。幾ら人の形を成すとはいえ、うさぎですから、ね」

「だから、実は喧嘩が強いとか」

「護身術といってください、失礼な」


 いや、ロナさん吹っ飛ばしたのは、華麗なる裏拳でした。

 目で追えなかったよ。暗がりだったからとはいえ。あんな凶悪うさぎ見たことない。


「それに先に手を出したのはあちらですから、身を守ったに過ぎません」


 ……きっと出させたんだろうなぁ……。


 その様子が目に浮かぶようだ。

 ふっと息を抜くと「もう、終わりましたか?」と問い掛けられ、私は頷いた。それを確認したあと、ぐっとルイさんの腕が腰に回って僅かにしか開いてなかった距離を詰めた。ルイさんの額が鎖骨辺りに直接触れてくすぐったい。そしてそのまま胸元に唇を這わせて軽く食む。


「ルィさん……?」


 ぞくりと芯が震えて声が甘くなってしまう。


「続きをするといったでしょう?」


 先程よりは幾分か柔らかくなったとはいえ、強引には変わりなくて、そういってルイさんは私をベッドへと押し倒した。


「それとも、今夜の相手はロナの方が良かったですか?」

「え」

「昨夜の情事が消えぬ間に、他の男に抱かれようなんて悪いひとですね?」


 いって、軽く吸い付かれる。多分、昨日鬱血痕を残されてしまったところだと思う。


「僕の居ない日は、いつもそうだったんですか? あれがユーナに思いを寄せているのはあからさま過ぎて気にしていませんでしたけど……正直、ユーナのことは信じていました」

「―― ……ぇ」

「そう簡単に傍寄らせたりはしないだろうと、ね」


 いって零された笑いは冷笑で……とても冷ややかなものだった…… ――


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