第二話
ぽつんっとベッドに残された私は置いてけぼり感満載だ。
大体あんなことされて、もう一回寝ろっていうのは無理に決まってるじゃんっ。というか、何っ! なんであんな冷たいの! もっとこう、優しく朝なんだから「おはよう」から始まれば良いじゃん!
「あ、いうの忘れたや」
自分も忘れていたことを思い出し、ぽろりと零す。
うわぁ、この小市民神経が、常にルイさんより負けてるんだよぉ。
ちぇっと軽く舌打って、ベッドサイドに置いてあったガウンを羽織る。シャワーでも浴びよう。
そう思い立って立ち上がり、簡単にベッドを整えてから既に自分の部屋と同じくらい置いてある、着替えに手を伸ばす。
ルイさんが屋敷を空けるとき以外は、大抵ここで寝起きする。
私の都合はいつも全く関係ないので、余程ルイさんがばたんきゅーでない限り、寝起きするということはそういうことだ。
羽織っていたものを脱ぎ、シャワーのコックを捻る。
柔らかく降り注いでくる温かな雫に瞳を細め、大きく深呼吸する。
ちらりと胸元に残る赤い鬱血痕に昨夜の情事を思い出し体がくすぐったくなる。
「うぶぶぶぶ……っ」
そんな自分が馬鹿馬鹿しくなって、頭からお湯を被り口先で湯を弾く。
馬鹿みたい、私ばっかり。
ルイさんなんて、何があっても、そのあとはあっさりだし、さっきだってケロッとしてるし……顔色一つ変えないしさ。
なんか、私一人……私一人好きみたいだ……。
「―― ……そうなのかも」
きゅっとお湯を止めて、手探りでタオルを取り簡単にお湯を拭う。
私、ルイさんに好きだなんていわれたことないかも……。
なんてことだ、良く考えたら、なし崩しでこんなことになっているような気がする。え、ということは何? え、ええっと……。
私は乱暴に頭を拭いながら、考えようとしたが答えはない。
がっくりと隣接してあった洗面台に両手を突き、はぁと、嘆息する。そして、顔をあげ、情けない自分の顔を見る。
飛びぬけて美人という面ではない。
見下ろす体だって、標準、より、もしかしたら貧相かもしれない……基準が分からないけれど。
「これじゃ仕方ないよね」
自嘲的な笑みが漏れて、私は諦めて身支度を整えることにした。
まぁ、好きだから、好かれたいなんて我侭だよね。
「チョコレートだねぇ……」
「ユーナがチョコが良いっていったんだけど?」
早ければ、お昼。もしくは午後のティータイムには戻ってくるだろうルイさんのために、甲斐甲斐しい私はフィズと一緒にお菓子作りをしていた。
チビちゃんたちの世話をしているフィズは、彼らがお昼寝(二度寝)しているこの時間がのんびりタイムなので、邪魔しては悪いと思ったけど、一応声を掛けたらにこにことついてきてくれた。
メニューはチョコブラウニー。
ちょっと濃い目に入れた紅茶に良く合うと思う。
「でも、どうしてチョコなの?」
「んー……、大した理由はないけど、今更ながらバレンタインとか思い出して」
湯煎でチョコを融かしながらぼんやり口にした私に、フィズは可愛らしく「なぁにそれ?」と首を傾げた。
「愛と感謝を伝える行事、じゃないかなぁ? 私、あんまり直接的に縁がなかったからあれだけど、好きな人や恋人、お世話になっている人に贈り物をするの。チョコを添えるのが定番なんだけど……」
「なるほど、それでオーナーに?」
にこりと毒なく微笑んだフィズに私はぼふっと頬を染めた。
「ちちち、ちが、ちが……違わなくないけど、なんとなく最近疲れてるみたいだしさ……」
甘いものは疲れたときにきっと欲しくなると思う。
「それに、最近私、仕事先にも連れて出てもらえないし……暇なんだよね。正直なところ。まあ、確かに大した役に立たないし、賢明な判断だと思うけど」
そう最近の外出といえば、専らロナさんが買出しとかに出るときについていくくらいだ。屋敷は広いし、庭も広い。別に構わないんだけど、私、やっぱり無能なんだよね。
はぁ、と溜息を重ねた私にフィズはくすくすと笑いを零し、そのあとすぐ慌てたように私の手を掴んだ。
「融かしすぎっ!!」
あ……どこかの観光地の○○地獄とかになっていた……。