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兎の世界にとりっぷ!  作者: 汐井サラサ
兎の世界に春が来た
25/59

第一話

※のっけから多少アダルティなのでR15くらいかと思ってください※

 拝啓 お父様 お母様


 如何お過ごしでしょうか? そろそろ探すのに疲れていらっしゃらないでしょうか?

 もう、迎えは良いですよ。

 どう足掻いても帰れそうにないので……。


 なんというか、精神的に囚われています。私、頭殴られたときにネジ落ちたんです多分。

それも永遠に見付かりそうもないし、もう、諦めています。


 どうか、そんな私のために心病むことありませんように。


        普通に生きる以外の道を想定していなかった想像力の乏しい 娘より。





 ―― ……PPP……PPP……


 鈴の鳴るような可愛らしい音。

 元の世界だったらこんな可愛らしい音で起きるなんて無理だったかもしれない。

 私は眠い目を擦りながら、身体に乗っかっていた腕を寄せて、手を伸ばし枕もとの時計を止める。


「ルイさん、ルイさん……朝ですよ」


 軽く揺らすと白い頬の上で、乙女も私も羨む長い睫毛がふるりと震える。

 そして、薄っすらと瞼を持ち上げると、折角、下ろした腕で、もう一度私を引き寄せて抱き締める。どういう心理状態のときにそうなるのかは、見当も付かないが、朝、目が覚めると、うさぎの形をとっているときもある。

 でも、今日は中途半端に、耳が出てる――多分、尻尾も――


 にゅーんっ、と、長い耳を後ろに流して、擦り寄ってくると首筋に唇を寄せる。鎖骨を甘く食み、舌を這わされると、ぞくぞくと甘い感覚が私を襲う。


「……っ、ちょ……ルイ、さ、ん。寝ぼけてます!」

「うるさい……」

「ぇ?」

「うるさいです」


 そんな小うるさいことをいう口は塞いだほうが良いです。と、あっさり私の唇を奪う。

 怒る台詞が口から出るところだったから、僅かに開いていたところに、するりと入り込み、より深く口内を犯される。


「っ……ぁっ……は……ん」


 何度もダメだと口に仕掛けて、声にならない。

 強く吸われると、くらくらして、通常の私の思考回路すら奪われ、このまま……とか、思ってしまう。思ってしまうけれど……


「……っ、ユーナ」

「は、はい」


 ふ、と正気に戻った――覚醒した?――ルイさんは、私から少し距離をとって眉を寄せる。


「何やってるんですか?」


 ―― ……こっちの台詞ですがっ!!


 いいつつ、上半身を上げサイドボードの眼鏡を取ると、顔に宛がいながら時計を見て顔色を変える。


「っ! 予定より五分も遅いじゃないですか。全く、モーニングコールすらまともに出来ないんですか?」


 ―― ……いい掛かりだっ! この馬鹿うさぎっ!!


 反論しようと思ったら、ルイさんはさっさと傍に置いてあった着替えに袖を通す。シーツが僅かに肌蹴て、肌が晒されると私は慌てて手繰り寄せた。


 文句をいう隙もない。


 簡単にボタンを留めて隣の部屋へといってしまうのを見送ってから、私はもぞりと起き上がってシーツごと膝を抱え額を押し付け溜息一つ。


 私の一体どこに落ち度があったというんだ。

 ちゃんと時間通りに起こしたのに、起きなかったのはルイさんだし。寝起きが悪いんだよ。あのうさぎっ!


 何してきたの? という、ハイスピードで戻ってきたルイさんは、姿見で服装を整えて、直ぐに仕事モードに入った。


 私、は、まだ何もしてないんですけど……?


「今朝は、荷を届けるのが先でしたよね」

「っえ、あ、ああ、はい。ご一緒します!」


 ベッドに歩み寄って来たルイさんに慌てて答えて、シーツ抱えたまま起き上がろうとしたら、そのまま圧し留められた。


「そのまま、気の済むまで惰眠を貪っていてください。女性は支度に時間が掛かるでしょう?」


 硝子越しの冷ややかな目でそういわれて言葉に詰まる。ルイさんよりは確かに遅い。


「それに…… ――」


 いって、じっと人の顔を見ているルイさんに居心地が悪くなって、寝癖でもついているのかと、片手で髪を撫で付けながら「何ですか?」と続きを促せば、ちゅっと可愛らしく唇が重なって直ぐに離れた。


 そして、立ち上がったルイさんは上着の袖を軽く叩きながら、きょとんと目を丸くする私を見下ろす。


「そんな何かに酔ったような顔をしていては、誰に何をされても文句いえませんよ」


 そう続けられて、かぁっと顔に熱が集中する。


 誰がそうしたと思っているんだ! 相変わらず、なんでこう上から、いや、上だけど、いやでも、もっといいようがあるっ! ある、はず……だよねぇ?


 言葉に詰まった私にルイさんは冷たく瞳を細めて、ふうっと息を吐く。


「では、行ってきます」

「え、あ、い、いってらっしゃい」


 盛りだくさんの口にしたかった全ての台詞を払拭させ、ルイさんは私にそれだけ口にさせると、静かに寝室を出て行った。


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