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羊の国から贈り物

 

「は? 私にお届け物ですか?」


 今日も今日とてルイさんにこき使われていた私は、そういって声掛けてきたロナさんに首を傾げる。

 こういう仕事には盆暮れ正月なんてあってないようなもので、休みなんて言葉口にしようものなら、冷視線で殺されそうな日常だった。


「誰からですか? ルイさんじゃないですよね?」


 ちらりと机に向ったままのルイさんを見やれば「は?」と面倒臭そうに顔を上げられる。いやもう、背にした窓の逆光で、表情読めなくて怖いですから……。

 とりあえず、外れのようだ。じゃあ、ロナさん? と首を傾げれば苦笑して「違うよ」と告げられ手の中に、ぐいと押し付けられる。


「はい、これはオーナーに渡しておきます」

「なんですか?」

「羊の国のノルディ様からのご挨拶のようですよ」


 そんな二人のやりとりを他所に、私はローテーブルまでそれを運び、箱の上のカードを確認する。『Happy new Year』の文字を目にして、ああ。と得心する。


 いわゆる「お年賀」という奴だろう。


 私は何もしていないのに、申し訳ない限りだ。

 送り主は羊の国の芽衣さん――私は記憶の中の人物事典をぱらぱらと捲り該当頁で止めたあと頷いた――とりあえず開封してみた。


 ぱっと見。

 えっと……マフラーとか? かなぁ? ふわふわもこもこが姿を現した。

 何の気なしに手にとって見る。


「―― ……っ!」


 慌てて、ぱすっ! と箱に押し込んだけど……見られてない、よね。


 恐る恐る、箱を抱えて振り返ってみれば、にこにこ笑顔のロナさんと、ほぼ無表情のルイさんと目が合った。


「え、ええと……私」


 すっくと箱を抱えて立ちあがる。


「ユーナ」

「は、はい!」

「何を頂いたのですか? お礼を兼ねてきちんとご報告すべきだと思いますので、教えてください」

「そうそう、失礼はいけないよね」


 ―― ……この兄弟……


 確実に分かってる。

 この中身を分かっていて、その台詞。


 ―― ……というかあんたたちは見慣れてるでしょうっ! 鏡見れば良いじゃないっ!


 ふーっ! と鼻息荒く、箱を抱えたまま唸った私にルイさんが肩を竦める。そして、乙女なら誰もが一瞬ほだされてしまう、笑顔で……


「別に夜でも構いませんよ?」


 どういう趣味ですかっ!!


 ぼふっと頬が爆発するように熱を持つのが分かる。


「ええ、兄さんズルイ」

「特権ですが何か?」

「職権乱用」

「職とは関係ないでしょう?」


 二人がなにやら揉めている隙に、ここは逃げ出して……フィズにでも助けを求めて……。そろりと、ドアノブに手を掛けたところで二人に同時に呼び止められる。


 私は文字通り、脱兎の如く逃げ出した。




 ―― そして夜。


 愛らしいうさぎ耳付きの帽子

 尻尾付きのショートパンツ

 そしてふんわりもこりんな手袋に靴下


 こんなものを身につける日が来るとは。


 芽衣さんの気持ちはありがたい。本当に、こんな異世界で気に掛けてくれる人が居るというのは実にありがたい……でも、恥ずかしいにも程がある。

 部屋で一人でこっそりともふもふ感を堪能するのには、とても良いと思う。が、しかし、実際は一人ではない。←結局、掴った……。


 鏡の前の有り得ない姿に、じわりと涙が浮かぶ。


「泣くほど嬉しいんですか?」

「恥ずかしいんですっ!!」

「なるほど」


 しまった……真っ赤になって叫んでしまったせいで、ルイさんのエスっ気に火をつけてしまった。

 顎をちょっと上げて、口角を引き上げる表情が実に嬉しそうだ。それに眼鏡……今は完全人型でいらっしゃるから耳もないし。


 やる気満々に見えます。


 屈してなるものかとちょっぴり頑張る。頑張れ、私。


「これでもうご満足でしょう? 脱ぎます」

「良いですけど、脱ぐだけですよ?」


 ―― ……がん、ば、れ、私……。


「同族を見てそう思うことはないですけど、ふふ、可愛らしいですよ? ユーナ」

「……それは、どう、も」


 するりと、肌の覗く部分に触れられて体を縮める。程よく冷たいルイさんの手は私の上がりきった熱を奪っていく。

 背後から、ぎゅっと抱き締められ首筋につぅと唇が伝う。ちゅうっと軽く吸い付かれ肩を竦めると同時に


 ―― ……バタンっ


「オーナー、急ぎの仕事でーす」


 ひぃっ! 突然のロナさんの訪問に私は肩を跳ね上げた。いーやーっ! これ以上恥の上塗りは嫌ーっ!!


「あらら、お楽しみ中?」

「そうです。邪魔しないでください」


 きっぱりいい切らないでーっ! と、叫びたかったものの、静かにロナさんのほうへ振り返ったルイさんは、私を自然とその背に隠してくれていた。


「で、どうします? オーナー」


 ロナさんは意図的だと思うけど『オーナー』部分を強調した。

 ルイさんは、はあ、と重たい溜息を吐いて俯くと、くっと中指で眼鏡を持ち上げた。


 そして次に顔を上げたときには、経営者の顔だ。


「直ぐに行きますから、対応出来るよう準備を整えて置いてください」

「はい、オーナー」


 僅かに立ち去りがたい雰囲気を残したロナさんは、ルイさんの台詞に、くるりと部屋を出て行った。しっかりと扉が閉まったのを確認してからルイさんは振り返る。


「えっと、私も直ぐに」

「構いません。どうせ、半分は嫌がらせだと思うので」


 え? と首を傾げれば、ルイさんにしては珍しく、仕方がないなというような笑みを零す。私の好きな表情かおだ。自然にほわりと頬が羞恥とは別の熱を持つ。


「では、あとで」


 と口にして可愛らしいキスを落とす。

 ぽやんっとその姿を見ていた私に、ルイさんは扉のところで一度立ち止まると


「僕が戻るまでそのままでいてくださいね。脱いでも構いませんけど、脱ぐだけですよ?」


 いい残して部屋をあとにした。


「―― ……鬼畜っ!」


 閉まりきった扉に悪態を吐いたがどうしようもない。


 とりあえず、帽子はとっても問題ないなと、鏡のほうへ向き直る。

 ぴょんっと天井を指した長い耳が可愛い。ちょこっと向きを変えれば、ひょこりと覗く丸い尻尾も可愛い。


 少しの間その姿を堪能してしまい、我ながら苦笑した。



 ***


 ―― ……結局


 ルイが仕事にひと段落つけると、随分時間が経ってしまっていた。ふぅと息つきながら、タイを緩めつつ部屋に戻ると、予想に反してユーナは毛布に包まって寝ていた。


「……脱がされる羞恥よりも、脱いでおくほうを選んだわけですか……」


 待ちくたびれて寝てしまっただろう姿に苦笑しつつ、ベッドの端に膝をつき、そっとユーナのこめかみに口付ける。小さく唸ったが起きそうにもないその姿も、微笑ましい。

 自分もシャワーでも浴びて休もうと、準備しつつ、ちらともう一度ベッドの中のユーナを見つめる。


「どうして、自室へ戻っておくという選択肢を思いつかないんでしょうね?」


 零した台詞に、ルイは肩を揺らした。


 ―― ……その素直さがユーナの良いところでした。


 そして、ルイはユーナを起こさないように、そっと簡単な着替えを持って部屋を出た。

 寒中見舞いもうしあげます。

 「羊の国からあけましておめでとうございます」を受けて、ちょこっと乗っからせてもらいました^^

 ノルディさま大丈夫、オーナー結構喜んでます。

 お目汚し失礼しました。そして、ありがとうございましたv

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