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住めば都・慣れって素晴らしい

「ルイさん」

「なんですか?」


 あれからルイさんは人を増やした。ルイさんの実弟でロナさんだ。

 彼はとても優秀な人でそのお陰でルイさんは私と庭でお茶を飲むくらいの時間は取れるようになった。


 どうして今までそうしなかったのかと問えばルイさんは「必要なかったからですよ」と答え、ロナさんは「兄は自分以外を本当の意味で信用しない人だから」といっていた。


 兄弟の確執がどうなのかとか、良く分からないけれど、二人の意見は別にそれぞれに間違っているわけではないだろう。


 だから私はそのことについて深く追求するつもりはない。

 今現在、ルイさんの仕事に少しでも余裕が出来たという事実が一番だ。


「美味しいですか? 私のお茶」

「急にどうしたんです?」


 私はレヴィアン様のところで調子に乗ってお茶を出したときのことを思い出した。

 みんな優しいので特に口にしなかったけど、あとで淹れてもらったお茶を飲んだら同じ茶葉だとは信じられなかった。


「うさぎって舌が馬鹿なんですか?」

「は?」


 ルイさんは軽く首を傾けてから、ふと行き着いたのか、笑い出した。突然過ぎて壊れたのかと思った。


「も、もしかして、レヴィアン様のところで淹れたんですか? 客人なのに?」

「だ、だって、お茶は、ルイさんが唯一褒めてくれたことだったから……」


 なるほどと頷いても尚ルイさんは笑いを我慢できないようで、くつくつ肩を揺らした。失礼すぎる。


「たし、確かに僕は、上手だといいましたけど、ええ、いいました。です、が、美味いとはいっていないでしょう」

「上手イコールだと思って普通じゃないですか!」

「あ、はは。面白すぎます。相当困惑したでしょうね。犬族の方々……お気の毒に……ふふ、ははは」


 もんの凄く失礼だと思うが目じりに涙を浮かべてまで笑うルイさんは貴重だ。本当に珍しい。

 こういう顔をする人なんだなとふと思うと、まぁ良いかと許せてしまう。


 私きっとこのままここに居たら菩薩様みたく慈愛に満ちた心の広い人になれそうな気がする。


 ふぅと嘆息してティーカップを両手で包み込むとそっと口をつける。そんなに吃驚するほど不味くはないと思うのだけど、私の方が味覚音痴なのだろうか?


「あ、そういえば、僕からも質問があります」


 笑いすぎで気が緩んだ所為で出てきていたルイさんの長い耳がぴこんっと真っ直ぐ空を指す。笑っちゃ駄目だ。

 目が思わず頭に行くのを我慢して「はい?」と問い返した。


「ここを出たとき。散々世話になった僕に書置きくらいする気になりませんでしたか?」


 ぴこぴことルイさんの耳が揺れている。ということは怒っているわけではなくどちらかといえば楽しんでいるのだろう。


 ―― ……書置き……


 そういえばそうだ。

 ありがとうございましたとかすみませんでしたとか……まぁ、色々最後だと思っていたのだから書き記しておいても良かったはずだ。どうしてやらなかったのだろう?


 人差し指で下唇をぴんっと弾きながら、カップに残った紅茶を見つめる。


―― ……あの時は出て行くことしか頭になくて……


「うっかりしてました」


 答えた私にルイさんは再び口元を覆った。そして苦しげに「そうだと、思いました」と零す。

 ルイさんから出たその質問の真意は私には分からないがそれはそれでなんだか失礼だ。


 むっと私が眉を寄せたところで「オーナー」とロナさんの声が掛かる。


「オーナー決済の書類が詰まれていますよ」


 ロナさんは兄には似ず、とても温厚で好青年を絵に描いたような人物だ。みんなにも優しくて丁寧で人好きするタイプ・仕事も出来る。


 私が失敗して怒られる回数が減ったのもロナさんがそっとフォローしてくれているお陰なのを私は知っている。

 それに対してお礼をいっても「ユーナが出来るようになったからじゃないかな?」と優しく気遣ってくれる。


 因みにうさぎのときは白に薄灰色の毛が混じり毛足の長いタイプで滅多にその機会には恵まれないが撫で心地は最高だ。


「馬族にでも蹴られればいいのに」

「聞こえてますよ」


 ルイさんの暴言をさらりと交わし、早くと背を押して屋敷へとその足を向かわせる。

 そんな落ち度のないロナさん。でもやっぱり彼らは兄弟なのだ……


「時間、過ぎてましたか? すみません」

「いえ、大丈夫。なんとなく邪魔したい気分になったのでやっただけ」


 にっこりと微笑んだロナさんに、あの兄にしてこの弟ありだなと心の中だけで得心する。

 逆に外に出さないだけロナさんの方が曲者だ……欠点なのか特出すべき点なだけなのか、常に黒いルイさんに比べて彼は腹黒いのだ。

 その底が見えない。


「でも、ユーナのお陰で兄は過労死しなくて済む、感謝してるよ」

「お兄さん思いですね?」

「そう思う?」


 ―― ……すみません。ごめんなさい。


 本当に穏やかに微笑んで毒を吐き出すロナさんと誰にも尻尾をふらない系のルイさんなら、ルイさんの方がましだと思えるような気がするのは、きっと私の頭が馬鹿になっているせいだと思う。


「ユーナ! 出掛けますよ。塔の方へ廻ってください」


 二階の窓からルイさんの声が降ってくる。


「ちょ! オーナー、書類はっ!」

「戻ってからやります。そのあと貴方が処理してください」

「それでは、時間が」

「僕に文句があるんですか?」


 庭と二階で兄弟げんかするのやめてください……。


 はぁ、と嘆息したところで「ユーナ!」と声が掛かる。

 私は慌てて「今行きます!」と答え「ここお願いします」とロナさんに頭を下げて、ティーセットなどその場をそのままに駆け出した。


 背後で「馬鹿兄貴」と舌打ちが聞こえたのはきっと気の所為だ。


 兎の世界でありがちなのはこんな昼下がり。

 お疲れ様でした。お付き合いありがとうございました。

 世界観をお借りした二次創作。

 上手く纏まって邪魔になっていなければ幸いです。

 夕花様、その他参加者様に 沢山の愛と感謝を込めて^^

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