第十三話(終)
ほんの少しだけ離れた距離でルイさんが目を丸くしているのが物凄く可笑しかった。
自分からやっておいて、きっと私に怒られたり貶されたりするのくらいは覚悟してただろうけど―― いや、そんな殊勝な心持ってないか ――まさか同意されるとは思わなかったのだろう。
何とか動く腕を伸ばしてルイさんの首に回し、絡んだ視線にやんわりと笑みを零す。
ルイさんの紅い瞳は光を反射するとほんの少しピンク色を映す。それが凄く甘くて綺麗だということをどれだけの人が知っているのだろう。
きっと私だけに違いない、そんな優越感を胸に、そっと唇を重ねた。
「ユーナ……」
はらりと降ってきた妙に甘い声に、あ、と、合点がいく。
私、もうとっくに夢に見るくらいルイさんのことが好きなんだ……――
年中発情期なうさぎさんはキスだけでは到底物足りなかったようだけれど、如何せん私の身体は動きません。仕方なく諦めてくれたのに私の上からはどいてはくれない。でもうさぎさんになってくれたので許す。
ふわふわであったかくて気持ち良い。撫で心地も良い。
「どうして僕が獣型にならないか知っていますか」
なでなでなでなでとこれみよがしに肘掛に頭を乗っけてその胸に抱いた白うさぎを撫で回していた私に問い掛けられる。
「前に歩幅が狭いからとかいってましたよね? あとは、んー、はっ! 私に撫で回されるのが嫌、とか」
「別に嫌じゃないです」
いって目を細め鼻面を肩口に擦り付ける。くすぐったい。
可愛いっ!
本当にあの嫌味で陰険で皮肉屋のルイさんと同一人物とは思えない。
ふんっと息を吐いて撫でられるままに項垂れたルイさんはぽつぽつと続けた。
「近眼なんですよ。僕は目が悪いんです。眼鏡を外したらユーナの顔も見えないじゃないですか……」
えーっとそこは私が喜ぶところなのかな? 刹那迷うとルイさんはふわっと欠伸を零す。
「ここ数日、殆ど寝ていない、ん、です。秘書が、臍を曲げて、しま、て」
秘書……? 秘書? って私、かな?
いや、臍を曲げてたのはルイさんも一緒なのでは、いったら凄まれるだろうからいわないけどさ。本当にルイさん、ずっとうさぎだったらもっとずっと私は穏やかな気持ちで暮らせると思うのに。人型うさぎさんは私の精神衛生上よろしくない。
―― ……しかし
「……お、重い」
ややして私はその獣型ルイさんにも音を上げた。
……にしても、私は勢いで好きとか認めたというかなんか納得しちゃったけど……ルイさんはどうなんだろう?
絶対、好きとかいってくれそうにないし、この人の本音なんて私には到底見えそうもない。
はぁー……
どうして、私こんな人を好きだなんて思っちゃったんだろう。
私の苦労は絶えなさそうです。
ご愛読ありがとうございました。
最初の小話までで終わらせるはずが調子にのって続けてしまいました。
お付き合いいただきました皆さまに少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
重ねてありがとうございました.
(小話があと2つあります。のでまた良かったらお立ち寄りくださいv)